原意は〈小さな物語〉〈短い報告〉。ドイツでは中世の終り頃より,非現実的なつくり話の意味で用いられるようになり,今日の文芸学上の概念では,自然法則の因果律や時間・空間の規定にとらわれず,自由な想像力で創られた非日常的・不可思議な物語を意味する。童話・民話fairy tale,contes de féeの言葉がこれにあてられている。太古から自然発生的に民間に伝承されてきたメルヘンを〈フォルクスメルヘンVolksmärchen〉(民衆童話)と称し,ある作者が民衆童話の形式を借りながら自己の詩的意図を象徴的に表現する〈クンストメルヘンKunstmärchen〉(芸術童話)と区別される。現代に残されている世界最古のメルヘンは紀元前2000年,古代エジプトに生まれたものと推定されているが,紀元前の古代インドにおいても,すでにメルヘン的な素材から成る叙事詩の大集《マハーバーラタ》が存在した。これらの古代人が伝えたメルヘンは,古代人の宗教観・自然観の明白な表現であり,たいていのメルヘンは同時に神話にほかならなかった。中世の十字軍遠征は,オリエントのメルヘンをヨーロッパに伝える役割を果たしたが,古代インドに発し中世ペルシア語に移された《千夜一夜物語》(アラビアン・ナイト)は18世紀のはじめアントアーヌ・ガランによってフランス語に翻訳され,その多彩なメルヘン的幻想とオリエントのエキゾティシズムによって広くヨーロッパ人を魅了した。18世紀前半の啓蒙主義時代,ドイツではメルヘンを非合理的な妄想として軽視する傾向が強かったが,世紀中葉ヘルダーが,民間に伝承するメルヘンを民族精神の根源的な発現として重視して以来,とりわけドイツ・ロマン派によって自然文学としてのフォルクスメルヘンの価値が強調された。グリム兄弟は,ゲルマン民族の神話についての研究と関連して,民族に伝わるメルヘンの収集と学問的体系化を志し,ドイツの民衆童話の集大成である有名な《子供と家庭のためのメルヘン》(いわゆる《グリム童話》。2巻,1812,15)を刊行した。伝承的なメルヘンに登場する形姿,背景,モティーフには各国固有のものと同時に多くの共通点がみられる。人間と動物,植物,自然物の間の相互交流・相互変身,巨人,妖精,魔女,小人などの魔術的な形姿,嫁取り,婿取り,勧善懲悪,恩返し,ハッピーエンドのモティーフ,城,森,泉の牧歌的背景がそれである。
→童話 →民話
執筆者:中井 千之
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…子どものための物語の呼称であるが,概念に広狭の差があり,時代の変遷によってもさまざまである。現在はメルヘンMärchenの意,または空想性を主とした創作の意に限ろうとしているが,かならずしも適切とはいえない。種類,様式別に,幼年童話,生活童話などと呼ぶこともある。…
…子どものための物語の呼称であるが,概念に広狭の差があり,時代の変遷によってもさまざまである。現在はメルヘンMärchenの意,または空想性を主とした創作の意に限ろうとしているが,かならずしも適切とはいえない。種類,様式別に,幼年童話,生活童話などと呼ぶこともある。…
…狭義では妖精の登場する超自然的な物語を,広義では概して子ども向けの,空想と不可思議にみちた文学作品(ドイツ語の〈メルヘン〉や日本語の〈おとぎばなし〉に近い)を指す。古くはヨーロッパ諸民族の神話や伝説,また《千夜一夜物語》のような伝奇にもその先駆があるが,中世以来,独自の口承文学のジャンルとして発展し,しだいに文章化されるようになる。…
※「メルヘン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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