日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤエムグラ」の意味・わかりやすい解説
ヤエムグラ
やえむぐら / 八重葎
[学] Galium spurium L. var. echinospermon (Wallr.) Hayek
アカネ科(APG分類:アカネ科)の一年草または越年草。茎はよく分枝し、4稜(りょう)がある。稜に生える下向きの刺(とげ)が、他物に絡まって伸び、60~90センチメートルになる。葉は6~8枚が輪生し、狭い披針(ひしん)形で長さ1~3センチメートル。輪生する葉のうち、腋(えき)から枝を出す2枚が本当の葉で、ほかは托葉(たくよう)が葉状になったものである。5~6月、葉腋や茎の先に多数の小さい花をつける。花冠は径1ミリメートル、黄緑色で4裂する。果実は二つの球がくっついたようになっていて、二つに割れ、鉤(かぎ)状の刺により衣服などについて散布される。北海道から沖縄の、人家の近くの藪(やぶ)、畑などに生える。アジア、ヨーロッパ、アフリカに広く分布する。
[福岡誠行 2021年5月21日]
文化史
ヤエムグラの名は『万葉集』の巻11に2首詠まれ、「八重六倉(やへむぐら)おほへる小屋(をや)」などと、自分の家を卑下する描写に使われている。恵慶(えぎょう)法師は「八重葎(やへむぐら)茂れる宿の寂しきに人こそ見えね秋は来にけり」(『拾遺(しゅうい)和歌集』)と詠み、秋に茂るヤエムグラを取り上げる。現在のヤエムグラは越年一年草で、春には繁茂するが、夏に枯れ、秋は目だたない。『万葉集』には、単にムグラも「牟具良生(むぐらふ)のきたなき屋戸(やど)」(巻4)、「牟具良はふいやしき屋戸」(巻19)と、ヤエムグラ同様に用いていることからして、いにしえのヤエムグラは特定の植物ではなく、重なりあって茂った雑草とする見方がある。また、秋に茂るアサ科のカナムグラをあてる説もある。
[湯浅浩史 2021年5月21日]