ヤブカ

改訂新版 世界大百科事典 「ヤブカ」の意味・わかりやすい解説

ヤブカ (藪蚊)

狭義には双翅目カ科ヤブカ属Aedesに属する昆虫総称だが,一般には草むら,山野で刺しにくるカの総称。ヤブカ属はもっとも多数の種を含む群で,熱帯はもとより北極圏まで分布する。黒白の縞が特徴的なヒトスジシマカA. albopictusはなかでもふつうで,日本の東北地方以南では都市,農山村の別をとわず昼間屋外で好んで人を刺す。黄熱病伝播をするので有名なネッタイシマカA. aegyptiもこの近縁種で,ともに熱帯地にはとくに多く,デング熱を媒介する。

 これらのカの幼虫は,空缶,瓶,竹の切株,屋内の花瓶の水,寺院の手洗鉢など比較的小型で,汚濁の少ない水にみられる。お盆のころの墓参で刺しにくるカは,墓石花器に発生するヒトスジシマカが主体であろう。一般にヤブカ属は多種多様な発生源をもっているが,種や亜属ごとに固有な水域を選択する傾向がある。水田や沼にはキンイロヤブカA.vexansが発生している。このカは,アメリカでは,洪水のあと急に増えるカとして知られている。海岸の岩の水たまりにはトウゴウヤブカA.togoi川岸や滝つぼの岩にはヤマトヤブカA.japonicusやハトリヤブカA.hatoriiが多い。海岸の埋立地など塩分の入った湿地,沼にはセスジヤブカA.dorsalisが大発生することがある。したがって海岸近くに住む人や磯釣りをする人を刺すヤブカは,トウゴウヤブカやセスジヤブカが多い。このほか,樹木の幹にできる洞穴,大型草本の葉の付け根(葉腋),カニがすむ穴などにたまる水など,それぞれ土地ごとに特定の種が発生源として選択している。

 ヤブカ属は卵を,卵塊ではなくばらばらに水表面や水ぎわに産みつける。幼虫は呼吸管毛が1対しかないという特徴がある。成虫の色や模様はさまざまで,たとえばヒトスジシマカは胸部背面中央に一筋の白い縦線があり,ネッタイシマカは竪琴状の白線が左右1対ある。広義のヤブカに含まれるものでは,クロヤブカ属のオオクロヤブカArmigeres subalbatusが有名である。大型で激しく人を刺す。きわめて汚濁の激しい水に発生する。幼虫も大型である。

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百科事典マイペディア 「ヤブカ」の意味・わかりやすい解説

ヤブカ

双翅(そうし)目カ科,オオクロヤブカ属とシマカ属の一群の昆虫の総称。日本に40余種あり,ヒトスジシマカ(シマカ),トウゴウヤブカ,オオクロヤブカなどで代表される。成虫は日陰の草むらに多く,雌は主として昼間かたそがれ時に吸血する。幼虫は普通,たまり水に発生するが,オオクロヤブカは肥だめ,キンイロヤブカは水田に発生する。卵塊は作らず,卵で越冬する種類が多い。
→関連項目カ(蚊)

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