ドイツの心理学者、哲学者。チュービンゲン、ユトレヒト、ボンの各大学で学ぶ。ボン、ブレスラウ(ブロツワフ)を経て、1894年以降ミュンヘンの大学で心理学、倫理学、美学を講じた。心理学と哲学との一致を説き、哲学上の心理主義を代表するが、その学説のうち今日でもよく知られているのが感情移入説である。リップスによると、他我認識に関する従来の類推説、つまり他我の心は他我の身体表出からの類推という操作によって知られるとする説は誤りで、他我の心は自我の心を直接他者の身体のうちに移入することによって知られる。他我は、その意味で、自我の客体化されたものである。この広義での感情移入(自我の客体化)を全認識領域に適用し、たとえば重力とか弾力性といった物理的概念も、物の世界への感情移入によって生ずると主張した。著書に『倫理学の根本問題』(1899)、『心理学原論』(1903)、『美学』2巻(1903~1906)。
[宇都宮芳明]
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ドイツの哲学者,心理学者,美学者。体験された意識の事実を自己観察によって明らかにする心理学を,哲学,倫理学,美学の基礎学とみなした。また,自己の人格への尊敬を道徳の根本動機とみるカント的な人格主義の倫理学説を主張したほか,他人の感情や態度の理解だけでなく,他人への同情や利他主義,芸術や自然に対する美的感情などが生ずる根拠を感情移入に求めた。
執筆者:関 雅美
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…目に見るものを通じてその心に触れるという体験はどのようにして成立するのか。その根拠をT.リップスやフォルケルトは,経験による類推とか連想の作用でなく,いっそう根源的で直接的な作用である感情移入にあるとした。ところでこの作用が美的観照においては実生活にみられるよりはるかに深く,余すところなく行われて,知覚と感情を融合させ主客の一体化をもたらすことから,両人はここに美意識の中心現象をみとめ,感情移入美学を成立させた。…
…心理主義ともいう。J.S.ミルやブント,T.リップスらがその代表者。この立場は,普遍妥当的な真理や価値の存在を否定して,相対主義に陥るため,新カント学派や現象学派(とくにフッサール)によって厳しく批判され,20世紀初頭に急速にその影響力を失った。…
※「リップス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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