出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
〈シネマトグラフ〉の発明によって〈映画の父〉と呼ばれるフランスの化学者,写真家,映画監督,映画製作者。ブザンソンの写真家・写真用品工場主の家に生まれ,17歳のとき〈乾板〉を開発し,その世界的販売によってリヨン工場に繁栄をもたらし,1890年代半ばにはジョージ・イーストマンのコダック社と覇を競った。94年にパリで公開されたエジソンの覗(のぞ)き回転盤〈キネトスコープ〉に刺激され,兄オーギュスト・リュミエールAuguste Lumière(1862-1954。2人を合わせて〈リュミエール兄弟〉としてもしばしば言及される)の協力をえて,フランスの発明家エティエンヌ・ジュール・マレーÉtienne-Jules Marey(1830-1904),イギリス出身の写真家・発明家エドワード・マイブリッジ,それにもちろんエジソンらのアイデアと発明をとり入れた撮影機兼映写機〈シネマトグラフCinématographe〉を開発し,95年に特許を受けた。〈シネマトグラフ〉による最初の作品は《リュミエール工場の出口》であった。
95年12月28日,パリのブールバール・デ・キャピシーヌのグラン・カフェの地下室にある〈インドの間〉で,《リュミエール工場の出口》など10本の作品を初めて有料で観客に見せ(そのなかにはジョルジュ・メリエスもいた),映写時間は約20分にすぎなかったものの,この日が世界の映画(興行)誕生の日となった。このとき上映された《水をかけられた撒水夫》は,世界最初の〈喜劇映画〉であり,世界最初の〈劇映画〉として知られる。しかし,リュミエールの代表的作品は,先の《リュミエール工場の出口》や《列車の到着》や《赤ん坊の食事》のような現実の生活やできごとを記録したものであり,これらは〈ニュース映画〉と〈ドキュメンタリー映画〉のさきがけとされている。みずから監督,撮影するかたわら,多くのカメラマンを養成訓練して世界の各地へ派遣し,96年にはモスクワにおける《帝政ロシア皇帝ニコライ2世の戴冠式》やワシントンにおける《マッキンリー大統領の就任式》をカメラにおさめた。みずから撮った作品が約60本,製作総本数は約2000本を数えるといわれる。
1900年のパリ万国博覧会で自作を大型スクリーンに上映したのち映画製作から手を引き,生フィルムの改良,カラー・フィルムの開発,立体映画の研究に没頭し,19年にはフランスの科学アカデミー(アカデミー・デ・シアンス)の会員に選ばれ,20年に引退した。映画を〈発明〉しながらも,その〈発明〉を企業化する手腕には欠けていた天才的技術者であった。
→映画[映画の歴史]
執筆者:柏倉 昌美
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…音や声の出る〈発声映画〉の試みは,〈カラー映画〉と同じように映画の初期からなされていた。もっとも原始的なシステムは,劇場のスクリーンの背後に俳優や音響係りを配置して,せりふや音をスクリーンにシンクロナイズ(同調)させるもので,1895年に行われたリュミエールの映画会にも,D.W.グリフィス監督の《国民の創生》(1915)の特別公開にもこのシステムが使われたことがあるという。その後,エジソンの〈キネトフォン〉,あるいは〈キネトフォノグラフ〉をはじめ,いろいろなシステムが発明,改良されて,音響と音楽だけのサウンド版《ドン・フアン》(1926),歌唱場面だけを同時録音した〈パート(部分)トーキー〉の《ジャズ・シンガー》(1927)がつくられ,次いで全編に音声が伴う《紐育の灯》(1928)が最初の〈100%オール・トーキー〉として登場する。…
…リュミエール兄弟が1895年12月28日に,パリの〈グラン・カフェ〉で彼らが発明した〈シネマトグラフ〉(撮影機兼映写機)の成果を世界で初めてスクリーンに映写して有料上映会,すなわち興行を行ったときから,真のフランス映画史が始まる。写真家出身のルイ・リュミエール(弟)は実写フィルム(《赤ん坊の食事》《工場の出口》《列車の到着》等々いずれも1895年の製作)を撮ったが,これに対して,〈シネマトグラフ〉の発明に魅せられた奇術師ジョルジュ・メリエスは,数々の夢幻的なトリック映画(《呪われた洞窟》1897,《水上を歩くキリスト》1899,《魔法の本》1900,《月世界旅行》1902,等々)をつくった。…
※「リュミエール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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