翻訳|coronation
国王・皇帝が、即位ののち公式に王冠を受け、王位就任を宣示する儀式で、現在はイギリスのみで行われている。高僧・貴族によって行われたり、先王が存命中にその手によって行ったりするが、キリスト教国では高僧が王の頭に聖油を注いで神への奉仕を誓う儀式が主体となっているところから、イギリスでは聖別式consecration、フランスでは成聖式sacre(sacre de roi)といわれていた。聖別式の起源は『旧約聖書』の「列王紀下」にソロモン王が王冠を受けたことが記され、またイスラエルとユダヤの諸王が聖別式を行ったことが伝えられている。ヨーロッパ大陸ではカール大帝(742―814)が西ローマ帝国を再興して800年にローマ教皇から王冠を受けて以来、ドイツ皇帝フリードリヒ3世(1415―93)が1440年にローマに赴いて王冠を受けるまでこの慣習が行われた。
アングロ・サクソンの年代記には、デーン人の大軍団に抗してイングランドを死守したアルフレッド大王(849―899)が872年に聖油を頭に受けて即位したことが述べられ、1066年にハロルド2世(1002ころ―66)がロンドンのウェストミンスター寺院で戴冠式を行った記録があり、12世紀まではローマ教皇から王冠を受けたが、1189年、リチャード1世(1157―99)以来、イギリスの戴冠式の様式が確立した。その間いくらかの改変はあったが、現在の儀式は、ウェストミンスター寺院で大主教が祈祷(きとう)し、宣誓をして戴冠式の椅子(いす)についた国王の頭と胸および両手の手のひらに聖油を注ぐ。ついで絹の法衣をまとった国王に、宝剣、力と正義を表す十字架のついた王笏(おうしゃく)、公正と慈愛を象徴する鳩(はと)のついた王杖(おうじょう)、そのほか指輪、手袋などが授けられ、大主教の手によって王冠をかぶせられて王座に戻り、列席の貴族たちの祝辞を受けたのち国王の配偶者も宝冠を受けるのが習わしである。
1953年(昭和28)6月の女王エリザベス2世の戴冠式には日本から皇太子明仁(あきひと)親王(当時。現天皇)が昭和天皇の名代として参列した。
[佐藤農人]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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