改訂新版 世界大百科事典 「リョコウバト」の意味・わかりやすい解説
リョコウバト (旅行鳩)
passenger pigeon
Ectopistes migratorius
ハト目ハト科の鳥。カナダの中部,南部からルイジアナおよびフロリダにかけての北アメリカの東部で繁殖し,合衆国南東部の諸州で越冬していたが20世紀初めに絶滅した。全長約43cm。頭部と上面は青灰色で,肩羽に黒い縦斑があり,雨覆に黒い小斑がある。風切は灰黒色。下面は豊かなぶどう色,腹は白い。灰褐色の尾はくさび状で長い。くちばしは黒く,脚は赤色,虹彩は橙赤色。1腹1個の卵を産み,両親で2週間抱卵し,さらに2週間育雛(いくすう)した。餌は木の漿果(しようか)や草の種子などであった。
18世紀以前にはアメリカ東海岸でもっとも個体数の多い鳥で,1810年におけるケンタッキー州の営巣地での観察では,幅1.5~2kmの群れが4時間の間とぎれることなく続き,その数は22億3000万羽と推定された。この当時北アメリカ全土ではおそらく50億羽くらいが生息していたと考えられる。78年のウィスコンシンでも850平方マイルの地域に1億3600万羽が営巣していた。しかし,このような莫大な数がすんでいたにもかかわらず,食料や家畜の餌や羽毛のために大量に乱獲され,わずか半世紀に満たぬ間に絶滅した。銃で撃ち,棒で殺し,巣の木を切り倒し,網を使って捕獲するなどあらゆる手段を使って殺戮(さつりく)した。また,このハトは小さな群れではなぜか繁殖できず,大集団でなければ繁殖しないという特殊な習性をもっていたのも絶滅を早めた一因であった。最後の営巣はミネアポリスで1895年に観察された。野生のものの標本は99年が最後であるが,シンシナティ動物園で飼育されていた1羽が1914年9月1日まで生きていた。
執筆者:柳沢 紀夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報