ルイス・デ・アラルコン(読み)るいすであらるこん(その他表記)Juan Ruiz de Alarcón y Mendoza

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ルイス・デ・アラルコン」の意味・わかりやすい解説

ルイス・デ・アラルコン
るいすであらるこん
Juan Ruiz de Alarcón y Mendoza
(1581?―1639)

スペイン劇作家メキシコで生まれ、1600年にスペインに渡る。サラマンカ大学で法律を学び、08年までセビーリャで弁護士修業をして生国に帰る。3年後マドリードに戻って文筆活動に入り、1614年からは官職にもつき、同地で生涯を終えた。名家の出身だが、身体的な障害のため、作家仲間たちから嘲笑(ちょうしょう)の的にされながら屈することなく、基本的にはロペ・デ・ベガの路線を踏襲しつつも独自の境地を開いて、20編余りの異色作を残した。二部作の報復劇『セゴビアの機(はた)織り』や、『才知と幸運』ほか幾編かの葛藤(かっとう)劇もあるが、彼の本領は倫理性、心理洞察、社会批判の精神が顕著な性格劇にある。代表作は、自分の仕掛けた罠(わな)にはまる男を描いた『疑わしい真実』で、コルネイユ作『嘘(うそ)つき男』の素材となった。さらに、噂話(うわさばなし)や陰口を戒めた『壁に耳あり』、確固たる意志をもって冷静に人生の艱難(かんなん)を耐え忍ぶ男を礼賛した『世の情け』、恋の移ろいやすさを批判した『心変り』などの秀作がある。

[菅 愛子]

『会田由訳『疑わしい真実』(『世界文学大系14 古典劇集』所収・1961・筑摩書房)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ルイス・デ・アラルコン」の意味・わかりやすい解説

ルイス・デ・アラルコン
Juan Ruiz de Alarcón y Mendoza
生没年:1581?-1639

メキシコ生れの劇作家。1600年にスペインに渡り,法律を学んで弁護士となる。08年に母国に戻り法律の勉強をしなおすが,14年に再びスペインに渡る。インディアス枢機会議の記録官を務めた。背が低く,せむしであったことを当時の文人たち(ローペ・デ・ベガ,ゴンゴラ,ケベードら)から嘲弄された。そのためか,彼の作品では精神的な美しさが強調され,外見のよい人間はどこかに欠陥のある人物として描かれている。また,劇作術の上ではローペ・デ・ベガの手法を守っているが,ベガ本人とは犬猿の仲であった。彼の作品は道徳的,教化的な傾向が強く,当時は即興的に数多くの作品を書いた作家が多いなかで,彼はじっくりと一つの作品を練り上げ完成度の高いものにしている点で,また,その作品の上演が妨害を受けたりした点でも,〈黄金世紀〉の劇作家の中では特異な存在である。20編の作品が残っているが,代表作《疑わしい真実》をはじめとして,コルネイユを筆頭にフランスの悲劇作家が種本として利用している。ほかに,《壁に耳あり》《セゴビアの織匠》などがよく知られている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ルイス・デ・アラルコン」の意味・わかりやすい解説

ルイス・デ・アラルコン
Ruiz de Alarcón y Mendoza, Juan

[生]1581. タスコ
[没]1639.8.4. マドリード
メキシコ生れのスペインの劇作家。背骨の奇形であったため,同時代の作家たちから容赦のない嘲笑を浴びせられた。筋の変化とアクションを第1とする当時の大衆の好みには合わなかったが,上層階級の悪弊や腐敗を鋭くつく風刺の精神が現代の社会派劇作家の高い評価を受けている。代表作『壁に耳あり』 Las paredes oyen (1628) ,『疑わしい真実』 La verdad sospechosa (28) 。

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百科事典マイペディア 「ルイス・デ・アラルコン」の意味・わかりやすい解説

ルイス・デ・アラルコン

スペインの劇作家。メキシコ生れ。彼の戯曲には,当時の社会や貴族階級を痛烈に諷刺する傾向が見られるが,それは彼が生来せむしで,人びとの嘲笑の的になっていたが故である,との説明もなされている。とりわけ心理描写にすぐれ,《疑わしい真実》《壁に耳あり》などの性格劇は,コルネイユなどのフランス古典劇の創造にも寄与した。

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世界大百科事典(旧版)内のルイス・デ・アラルコンの言及

【スペイン文学】より

…その後,ベガの流れをくむすぐれた劇作家が輩出した。なかでも《セビリャの色事師と石の招客》によって,漁色放蕩の伝説的人物ドン・フアンを演劇の中に定着させ,それ以降各国で生まれることになる無数のドン・フアン劇の創始者となったティルソ・デ・モリーナ,《疑わしき真実》により17世紀フランス古典劇に影響を与えたルイス・デ・アラルコンが重要である。そして〈黄金世紀〉の棹尾(とうび)を飾る巨人がカルデロン・デ・ラ・バルカで,バロック期特有の凝った文体や舞台構成を用いた哲学的な《人生は夢》と平民の名誉を描いた《サラメアの村長》はスペイン演劇の最高峰に位置するものである。…

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