ルクレティウス(その他表記)Titus Lucretius Carus

デジタル大辞泉 「ルクレティウス」の意味・読み・例文・類語

ルクレティウス(Titus Lucretius Carus)

[前94ころ~前55ころ]ローマの哲学詩人。エピクロス原子論に基づく哲学詩「物の本質について」により、唯物論的世界観を叙述した。

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精選版 日本国語大辞典 「ルクレティウス」の意味・読み・例文・類語

ルクレティウス

  1. ( Titus Lucretius Carus ティトゥスカルス ) 古代ローマ共和政末期の詩人、哲学者。エピクロスの原子論的唯物論に基づく未完の哲学詩「物の本性について」六巻を残した。(前九九頃‐前五五頃

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改訂新版 世界大百科事典 「ルクレティウス」の意味・わかりやすい解説

ルクレティウス
Titus Lucretius Carus
生没年:前94ころ-前55ころ

ローマの詩人哲学者。伝記的事実はほとんど不明だが,媚薬をたしなみ,自殺したともいわれている。エピクロスを神のように尊敬した彼は,その原子論を内容とした全6巻からなる大長編詩《デ・レルム・ナトゥラ(自然について)》を唯一の著作として残した。その詩は詩としてもすばらしい傑作だが,その表題は直接,散逸したエピクロスの代表作《ペリ・フュセオス(自然について)》に由来するものと考えられる。ギリシア語のフュシスをラテン語に置きかえて〈レルム・ナトゥラrerum natura〉としたわけだが,この語句の意味についてはベイリーC.Baileyの適切な注意がある。〈それはひじょうに広い意味をもつ。素材,構造,生長およびふるまいを含む,ものに関するすべての事柄というのがそのおよその意味である〉(《ルクレティウス》1947)。邦訳ではこの詩の表題は《事物の根本原理について》《事物の本性について》《物の本質について》《宇宙論》などとされてきたが,この中では《宇宙論》が内容的に見て適切である。ただし,彼の語法ではムンドゥスmundusが宇宙であってレルム・ナトゥラに宇宙の意味はないようである。

 さて彼の詩は,無数の原子と原子の運動の場である空虚が存在するという立場から宇宙の生成を説明する。宇宙は日や月や星を含むだけではない。母なる大地からは多くの植物,動物,さらに人間という生物が生みだされて宇宙構成のメンバーに加わるが,人間についての描写はとくに細かい。人体の運動のメカニズム,原子の集合体である心の動きが説かれ,恋愛なるものの生物的なからくりが残酷なまでに描かれる。社会,言語,技術,法制宗教倫理,戦争,要するに原始生活から文明にいたるまで,人間の生活をあますところなく歌い尽くそうとしている。なお,彼は原子論者ではあるが,デモクリトスとはちがって,原子にある種の自発的運動を認めた。それは人間の自由意志を要請せざるをえなかったからである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ルクレティウス」の意味・わかりやすい解説

ルクレティウス
るくれてぃうす
Titus Lucretius Carus
(前94?―前55?)

ローマの哲学的詩人。ただ一つの作品『物の本質について』De Rerum Natura6巻、7415行は、ギリシアの哲学者エピクロスの原子論的唯物論を叙事詩の形式に歌い上げたものである。自然の科学的理解によって、宗教からの解放と死の恐怖の克服を目ざした啓蒙(けいもう)的作品で、その解明の対象は、宇宙の原理、人間の霊魂と精神現象、天体・生物・人類および文明の発生、天変地異などのすべてに及ぶ。詩としては、比喩(ひゆ)的説明の美しい、空想の豊かな傑作であり、やや古風で技巧的と評されてはいるが、ウェルギリウスに並ぶラテン叙事詩の古典とされる。生涯についてはほとんど不明である。

[田中享英 2015年2月17日]

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百科事典マイペディア 「ルクレティウス」の意味・わかりやすい解説

ルクレティウス

ローマの詩人哲学者。著書《自然について(物の本性について)》は,エピクロス原子論に基づいて自然と文化のあらゆる現象,宇宙の生成から人事万般までが歌われた長編詩。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ルクレティウス」の解説

ルクレティウス
Lucretius

前94頃~前55頃

古代ローマの詩人,哲学者。その著『事物の本性について』は,エピクロスの原子論的唯物論を内容としているが,憂愁の気に満ちた美しい詩句からなる文学的傑作である。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ルクレティウス」の解説

ルクレティウス
Titus Carus Lucretius

前94ごろ〜前55ごろ
古代ローマの詩人・哲学者
エピクロスの思想をうけ継ぎ,唯物的な原子論の自然観にもとづき,『物の本質について』の長詩で,人間社会の発生についても自然の過程として説明しようとした。

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世界大百科事典(旧版)内のルクレティウスの言及

【原子論】より

…プラトン,アリストテレスはともにデモクリトスを厳しく批判している。したがって,古代世界のなかで,デモクリトスの原子論を継承したのは,快楽主義者として知られるエピクロスと,そのエピクロス礼賛の頌歌を書いたローマの詩人ルクレティウスを除くと,ほとんど皆無だったといえる。 15世紀のルネサンスの波とともに,異教的なものの復活の時代が訪れた。…

【詩】より

… アレクサンドリア時代には短詩のカリマコス,牧歌のテオクリトス,叙事詩のアポロニオスらが出るが,これらの詩人の作品はすでに書かれ読まれるものとなっている。このアレクサンドリア詩の影響下に,古代ローマのいわゆるラテン詩が始まり,前1世紀にまずルクレティウス,カトゥルスが,ついで叙事詩人ウェルギリウス,抒情詩人ホラティウスが現れる。ウェルギリウスの《アエネーイス》はトロイアの落城後生き残った英雄が各地をさまよった末,イタリアにローマを建国する物語だが,題材には伝承を取り入れながらも一人の詩人の創作として構想され,書き下ろされたものである。…

【叙事詩】より

… その後,古代ギリシアにおいて叙事詩の伝統はあまり強力に受けつがれず,前記の二大詩人のあと消滅したにひとしいが,しかしギリシアで形成されたこの文学ジャンルは,やがてローマ文学を豊かにする重要な糧となる。ルクレティウスの哲学詩は,ただ叙事詩的な詩的ディスクールを活用しているということだけでなく,世界や自然の原理と構造に関する想像を詩的に繰り広げてゆくその本質において,広義の叙事詩の範疇に組み入れられる。また,ローマ人の理想的な英雄の勇壮かつ高潔な行動を歌ったウェルギリウスは,ホメロスのあとを受けて,叙事詩の強力な範型を創造した名として逸することができない。…

【ラテン文学】より

…以後のローマの詩は,カトゥルスの影響を抜きにしては考えられない。同じころ,ルクレティウスはエピクロスの教えを叙事詩の形式で情熱的に歌った未完の教訓詩《事物の本性について(自然について)》を残した。超俗の賢者エピクロスの思想は国家や政治に絶望した人々の心をとらえて流行していたから,ルクレティウスもまた時代の子であった。…

※「ルクレティウス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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