精選版 日本国語大辞典 「ルメートル」の意味・読み・例文・類語
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フランスの俳優。本名アントアーヌ・ルイ・プロスペル・ルメートルAntoine-Louis-Prosper Lemaître。ロマン派演劇最大の俳優で大衆演劇の主役として人気を博した。ル・アーブルに生まれ,パリの国立演劇学校(コンセルバトアール)に学ぶ。まずオデオン座に入り,1823年アンビギュ座に移り,ポーリヤントほか2人の共作メロドラマ(音楽の伴奏付の大衆活劇)《アドレの宿》の盗賊ロベール・マケール役で大成功,不朽の名声を得た。その後もコメディ・フランセーズには出演せず,大衆演劇の私立劇場で活躍した。デュカンジュ《30年または賭博師の一生》(1827)のようなメロドラマ系統,ユゴー《リュクレス・ボルジア》(1833,ポルト・サン・マルタン座),特に彼のために書かれたデュマ(父)《キーン》(1836,バリエテ座),輝かしい初演となったユゴー《リュイ・ブラース》(1838,ルネサンス座)などのロマン派劇系統,さらに《オセロー》《ハムレット》などシェークスピア劇系統,それぞれで主役を情熱的,華麗に演じて大衆を魅了した。64年に引退したが,晩年は悲惨な生活を送った。一世代前の名悲劇俳優F.J.タルマと対比されて〈大衆演劇のタルマ〉とあだ名された。マルセル・カルネの映画《天井桟敷の人々》(1945)では,J.G.ドビュローとともに主要人物の一人として題材にされている。
執筆者:伊藤 洋
フランスの批評家。エコール・ノルマル・シュペリウールに学び,文学博士号を取得(1882)するが,1884年地方の教職を辞し,パリに出て文筆活動に専念,《ルビュー・ブルー》誌への寄稿によって才気あふれる批評家として注目された。それらの評論は《現代作家論》8巻(1886-1918)に収められている。また《ジュルナル・デ・デバ》紙,ついで《両世界評論》誌の劇評を担当し,《演劇の印象》10巻(1888-98)にまとめられる軽妙洒脱な批評を繰りひろげた。A.フランスと並ぶ〈印象批評〉の旗手として,ブリュンティエールの客観批評に反対し,対象への共感から出発して〈丹念に記した印象〉のみを尊ぶことを主張したが,根底には古典的な〈良き趣味〉への愛着があり,それに抵触する自然主義や象徴派は文学的病として退けられた。政治的には,〈近代社会の病〉を批判する保守イデオローグとして,反ドレフュス派知識人の中心となった。
執筆者:細田 直孝
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…《おかしなドラマ》(1937),《霧の波止場》(1938),《日は昇る》(1939),《悪魔が夜来る》(1942)に次ぐジャック・プレベール脚本,マルセル・カルネ監督のコンビの代表作かつ最高傑作であり(このコンビの作品によって代表される当時のフランス映画が〈詩的リアリズム〉の名で呼ばれた),おそらく世界中でもっともよく知られたフランス映画の名作である。 第1部〈犯罪大通り〉,第2部〈白い男〉という2部構成で,1840年代のパリのブールバール・デュ・タンプル(〈犯罪大通り〉の名で呼ばれた)を主要な舞台に,パントマイムを舞台芸術にまで高めた偉大な創始者として知られるJ.G.ドビュロー,ロマン派演劇の名優F.ルメートル,悪名高き犯罪詩人ピエール・フランソア・ラスネールといった実在の人物が,娼婦ガランスやドビュローが活躍したフュナンビュール座の座長の娘ナタリーといった虚構の人物と入りまじって,まさに虚々実々の恋愛絵巻をくりひろげる波乱万丈の物語である。ガランスにアルレッティ,ドビュローにジャン・ルイ・バロー,ルメートルにピェール・ブラッスール,ラスネールにマルセル・エラン,座長の娘ナタリーにマリア・カザレスという完ぺきな配役と,彼らを取り巻く俳優陣(伯爵を演ずるルイ・サルー,〈乞食〉のガストン・モド,下宿屋のおかみジャーヌ・マルカン等々)のみごとな演技もあって,フランス映画の不朽の名作となっている。…
…大革命にもかかわらず継続したコメディ・フランセーズには,ナポレオンごひいきの擬古典主義的悲劇役者から,ロマン派好みの悲劇女優ラシェルを経て,世紀末にラシーヌ悲劇とユゴーとシェークスピアをともに演じえたサラ・ベルナールとムーネ・シュリーに至るまで名優が輩出する。しかし〈聖なる怪物〉の最も典型的な姿は,《天井桟敷の人々》の主人公の一人フレデリック・ルメートルにみることができる。彼はメロドラムの破壊的顕揚によって,メロドラムとロマン派演劇のヒーローとなり,舞台と実人生とを,生と自由性と演戯の限りない蕩尽の場としたからである。…
※「ルメートル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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