ベルギーの数学者、宇宙物理学者、カトリックの司祭。シャルルロアで生まれる。1911年にルーフェン(ルーバン)・カトリック大学に入学するが第一次世界大戦中は陸軍に志願し兵役につく。戦後、復学して物理と数学を学び、1920年に数学で博士号を取得。神学校に入学し、1923年に司祭に叙される。1923年より1925年までケンブリッジ大学、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学へ留学。1925年にベルギーに戻り、ルーフェン(ルーバン)・カトリック大学の講師になり、1927年天体物理学教授になる。1936年、ローマ教皇庁立科学アカデミー(Pontifical Academy of Sciences)の会員に選出。1934年ベルギーで科学分野の功績に与えられるフランキ賞を受賞。1953年にはイギリス王立天文学会のエディントン・メダルの最初の受賞者となる。
最大の功績は一般相対性理論に基づく宇宙膨張モデルを提唱し、フリードマンとともにビッグ・バン宇宙論を創始したことである。1927年に発表したフランス語の論文ではじめて膨張する宇宙というアイデアを論じた。その後1931年にこの論文は英語に翻訳され、その際に「創生の瞬間に宇宙卵(Cosmic Egg)が爆発した」という表現でビッグ・バンを表した。彼の予想した膨張する宇宙は、1965年に宇宙背景放射として観測され、実証された。
近年(2011年)、1931年に発表された英訳には、1927年に発表した論文にあった「銀河の赤方偏移と距離のデータからハッブル定数を求めた部分」が削除されていたことが判明した。削除された経緯を調べた結果、英訳する段階でルメートル自身が、1929年に発表されたハッブルの論文に記載された内容と同じことを再掲する必要はない、と判断したことがわかった。このことから、現在、「ハッブルの法則」として知られている法則を、ルメートルがハッブルの発見より2年も早く見出していたことが判明した。これらのことから、2018年10月の第30回国際天文学連合総会で「宇宙の膨張を表す法則は今後『ハッブル-ルメートルの法則』とよぶことを推奨する」という決議がなされた。
[編集部 2023年6月19日]
フランスの批評家、作家。高等師範学校(エコール・ノルマル・シュペリュール)を出て各地の高等中学校(リセ)、大学で教える。のち(1884)、『ルビュ・ブルー』誌や『ジュルナール・デ・デバ』紙などの定期寄稿家となる。主著は『同時代作家論』Les Contemporains全八巻(1885~1918)、『演劇印象記』Impression de théâtre全11巻(1888~1920)。古典主義的中庸と、印象に基づく共感がその批評の特徴である。『古い書物の余白に』全二巻(1905~07)は、ホメロスからナポレオン至る古典的テクストの拾遺という形をとったコント集であり、いまも読むに堪える。なによりも平明な文体が魅力的である。
[松崎芳隆]
フランスの俳優。本名アントアーヌ・ルイ・プロスペル・ルメートルAntoine-Louis-Prosper Lemaître。ロマン派演劇最大の俳優で大衆演劇の主役として人気を博した。ル・アーブルに生まれ,パリの国立演劇学校(コンセルバトアール)に学ぶ。まずオデオン座に入り,1823年アンビギュ座に移り,ポーリヤントほか2人の共作メロドラマ(音楽の伴奏付の大衆活劇)《アドレの宿》の盗賊ロベール・マケール役で大成功,不朽の名声を得た。その後もコメディ・フランセーズには出演せず,大衆演劇の私立劇場で活躍した。デュカンジュ《30年または賭博師の一生》(1827)のようなメロドラマ系統,ユゴー《リュクレス・ボルジア》(1833,ポルト・サン・マルタン座),特に彼のために書かれたデュマ(父)《キーン》(1836,バリエテ座),輝かしい初演となったユゴー《リュイ・ブラース》(1838,ルネサンス座)などのロマン派劇系統,さらに《オセロー》《ハムレット》などシェークスピア劇系統,それぞれで主役を情熱的,華麗に演じて大衆を魅了した。64年に引退したが,晩年は悲惨な生活を送った。一世代前の名悲劇俳優F.J.タルマと対比されて〈大衆演劇のタルマ〉とあだ名された。マルセル・カルネの映画《天井桟敷の人々》(1945)では,J.G.ドビュローとともに主要人物の一人として題材にされている。
執筆者:伊藤 洋
フランスの批評家。エコール・ノルマル・シュペリウールに学び,文学博士号を取得(1882)するが,1884年地方の教職を辞し,パリに出て文筆活動に専念,《ルビュー・ブルー》誌への寄稿によって才気あふれる批評家として注目された。それらの評論は《現代作家論》8巻(1886-1918)に収められている。また《ジュルナル・デ・デバ》紙,ついで《両世界評論》誌の劇評を担当し,《演劇の印象》10巻(1888-98)にまとめられる軽妙洒脱な批評を繰りひろげた。A.フランスと並ぶ〈印象批評〉の旗手として,ブリュンティエールの客観批評に反対し,対象への共感から出発して〈丹念に記した印象〉のみを尊ぶことを主張したが,根底には古典的な〈良き趣味〉への愛着があり,それに抵触する自然主義や象徴派は文学的病として退けられた。政治的には,〈近代社会の病〉を批判する保守イデオローグとして,反ドレフュス派知識人の中心となった。
執筆者:細田 直孝
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…《おかしなドラマ》(1937),《霧の波止場》(1938),《日は昇る》(1939),《悪魔が夜来る》(1942)に次ぐジャック・プレベール脚本,マルセル・カルネ監督のコンビの代表作かつ最高傑作であり(このコンビの作品によって代表される当時のフランス映画が〈詩的リアリズム〉の名で呼ばれた),おそらく世界中でもっともよく知られたフランス映画の名作である。 第1部〈犯罪大通り〉,第2部〈白い男〉という2部構成で,1840年代のパリのブールバール・デュ・タンプル(〈犯罪大通り〉の名で呼ばれた)を主要な舞台に,パントマイムを舞台芸術にまで高めた偉大な創始者として知られるJ.G.ドビュロー,ロマン派演劇の名優F.ルメートル,悪名高き犯罪詩人ピエール・フランソア・ラスネールといった実在の人物が,娼婦ガランスやドビュローが活躍したフュナンビュール座の座長の娘ナタリーといった虚構の人物と入りまじって,まさに虚々実々の恋愛絵巻をくりひろげる波乱万丈の物語である。ガランスにアルレッティ,ドビュローにジャン・ルイ・バロー,ルメートルにピェール・ブラッスール,ラスネールにマルセル・エラン,座長の娘ナタリーにマリア・カザレスという完ぺきな配役と,彼らを取り巻く俳優陣(伯爵を演ずるルイ・サルー,〈乞食〉のガストン・モド,下宿屋のおかみジャーヌ・マルカン等々)のみごとな演技もあって,フランス映画の不朽の名作となっている。…
…大革命にもかかわらず継続したコメディ・フランセーズには,ナポレオンごひいきの擬古典主義的悲劇役者から,ロマン派好みの悲劇女優ラシェルを経て,世紀末にラシーヌ悲劇とユゴーとシェークスピアをともに演じえたサラ・ベルナールとムーネ・シュリーに至るまで名優が輩出する。しかし〈聖なる怪物〉の最も典型的な姿は,《天井桟敷の人々》の主人公の一人フレデリック・ルメートルにみることができる。彼はメロドラムの破壊的顕揚によって,メロドラムとロマン派演劇のヒーローとなり,舞台と実人生とを,生と自由性と演戯の限りない蕩尽の場としたからである。…
※「ルメートル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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