イタリアの医学者。刑事人類学派の創始者として名高い。ベローナに生まれ、パドバ、パビーア、ウィーンの諸大学で医学を修めた。軍医として軍務に従事したのち、1864年パビーア大学教授となり、1870年、ペザロの精神科病院の院長に就任した年に、サル以下の動物の頭蓋(とうがい)に存在するが人間にはきわめてまれにしかみられない中央後頭窩(ちゅうおうこうとうか)を、ある犯罪人の頭蓋に発見、後年の主張のきっかけを得た。1876年トリノ大学教授に転じ、そこで終生犯罪の人類学的研究に没頭した。彼は犯罪者の頭蓋383個を解剖し、また5907人の体格を調査したうえ、犯罪人の人類学的特徴というものを考え、とくに隔世遺伝による生来犯人という観念を明らかにした。そして、犯罪人総数の約3分の1はこの生来犯人であって、この種の犯人はその素質に基づき因果必然的に罪を犯すものであるから、これに対し責任を負わせるわけにはいかないが、危険な存在であるから、国家はこれに対し一定の対策を講じねばならないと主張した。このような実証主義的犯罪観は、その後とくにイタリアにおいて発展し、いわゆる近代学派の刑法理論、および犯罪の自然科学的研究、すなわち犯罪学を生み出すもととなった。
[西原春夫]
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イタリアの精神医学者,法医学者。ベローナに生まれ,12歳でギリシア語,ラテン語で会話し,14歳で《ローマの盛衰》を著すなど幼時より天才をうたわれた。18歳より医学を志し,29歳でパビア大学教授となり,後にトリノ大学教授に転じた。研究領域は内分泌異常,ビタミン欠乏症の研究から天才と狂気の関係を研究する病跡学(パトグラフィー),筆跡学,催眠・心霊現象の研究にいたる広範囲のものであった。中でも犯罪者の医学的・人類学的研究は,今日の実証的・科学的な犯罪学の出発点として高く評価される。もっとも,彼がその《犯罪人論》(1876)で述べているような,犯罪者に特徴的な変質徴候の存在も,原始心性の隔世遺伝などによって生まれつき犯罪者になる宿命を担った生来性犯罪者の存在も,現代の犯罪学では否定されている。しかし,彼の創始した犯罪生物学から,犯罪心理学,犯罪精神医学,犯罪人類学などが発展した。
執筆者:福島 章
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…新派の特色は,当時の自然科学の発展とも関連して,実証科学的方法により犯罪とくに犯罪者を研究し,犯罪予防による社会防衛を目的とする理論と刑事政策を示したことにある。新派の源流は,イタリアのロンブローゾやフェッリにある。人類学的研究に基づいて〈生来性犯罪人〉の類型が存在することを主張したロンブローゾは,新派の先駆者であった。…
…〈狂気と天才を隔てるのは一重の薄い壁だけである〉というシェークスピアの文句も有名で,これが単純化して〈天才と狂人は紙一重〉になったと伝えられる。こうした天才と狂気の関係に初めて医学的照明をあてたのはイタリアのロンブローゾである。彼は当時の学界に広まっていた変質説に立って天才の病理性をこまかく調べあげ,〈すべての天才は癲癇(てんかん)性の兆候をもつ〉という大胆な命題を発表するとともに,《天才と狂気》(1864)と題する本を刊行して学界に激しい論議をまきおこした。…
…歯数不足は未来型と考えられ,一般に食生活が加工製品に依存するにつれて歯の退化が進む結果と解釈されている。イタリアの犯罪人類学者C.ロンブローゾによれば,重罪人には智歯がよく発達して4本ともある場合が多いが,知能犯の多くは智歯を欠くという。彼はまた,大部分の犯罪者は上あごの門歯がよく発育し,犬歯も著しく伸びて,全体の歯並びは悪いと述べた。…
…また刑事学という用語も狭義または広義の犯罪学と同義に用いられる。
[犯罪の生物学的・心理学的要因]
実証的な犯罪学研究は19世紀後半のヨーロッパに始まるといえるが,犯罪人類学の祖で《犯罪人論》(1876)を著したイタリアのロンブローゾは,犯罪人についての解剖学的調査結果や精神医学的知見に基づいて,犯罪人の中には一定の身体的・精神的特徴を具備した者がおり,このような者は必然的に犯罪におちいるものであるとし,これを隔世遺伝説によって説明する〈生来性犯罪人説〉を主張した。この学説は後にゴーリングC.Goringなどの研究によって否定されるに至ったが,ロンブローゾは犯罪人に関する実証的研究の先駆者として偉大な功績を残した。…
…有名な霊媒には,ヒューム(ホーム)Daniel Dunglas Home,パラディーノEusapia Palladino(以上物理的霊媒),パイパーLeonore Piper,ギャレットEileen Garrett(以上心理的霊媒)などがいる。そのうちパラディーノに関しては犯罪学者ロンブローゾらが,パイパーに関しては心理学者W.ジェームズらが,ギャレットに関しては生理学者カレルらが実験的研究を行っている。霊媒を通じて,通常では得られない死者に関する正確な情報が得られても,その由来を解釈する場合,死後生存仮説の対立仮説として,実在するあらゆる情報源から超感覚的に関連情報を探し出し利用したとする超ESP仮説があり,死後生存の証明はきわめて難しいとされる。…
※「ロンブローゾ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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