昔話。体の小さい子供、すなわち「小さ子」の冒険を主題にする異常誕生譚(たん)の一つ。のちに呪力(じゅりょく)により一人前の大きさになるところに特色がある。一寸法師は、小さい人を意味する中世的な呼称で、ほかに、一寸太郎、五分次郎、豆蔵などの名もある。古くから、『御伽草子(おとぎぞうし)』のなかの『一寸法師』によって知られている。
難波(なにわ)(大坂)に住む子供のない夫婦が、住吉(すみよし)明神に祈願して男子を授かる。背丈が1寸なので、1寸法師とよぶ。12、13歳のころ、針を刀にし、椀(わん)の舟、箸(はし)の櫂(かい)で川を上り、京に行き、三条の宰相殿に仕える。16歳のとき、13歳の殿の姫を見そめ、一計を案じ、寝ている姫の口に米粒をつけ、米を盗まれたとさわぐ。だまされた宰相殿は、法師に姫を殺せと命じる。姫を連れて難波に下る途中、風に流され、鬼が島に着く。法師は鬼に食われるが、目から出ては飛び回るので、鬼は打出の小槌(こづち)を捨てて逃げる。小槌を打つと、法師は一人前の若者になる。法師はさらに金銀を打ち出して京に上り、姫と結婚して出世する。
明治以後も、絵本や読み物に書き換えられて普及し、日本の代表的な昔話の一つになっているが、昔話には、それらの書物を通して口承化したと思われる事例も目につく。昔話も、だいたい、この『一寸法師』の物語形式と共通しているが、指や脛(すね)から小さ子が生まれたとか、冒険のとき、魚に飲まれるが、魚が親の手にわたって救われるとか、『一寸法師』にはない特徴のある語り方をする昔話も少なくない。
「一寸法師」は、ヨーロッパをはじめ、トルコ、インド、ミャンマー(ビルマ)などの南アジアに分布している「親指小僧」の昔話の類話である。一寸法師が魚や鬼に飲み込まれるのは、親指小僧が牛に食われて腹の中に入るのにあたるが、馬を御すなど、むしろ「田螺(たにし)長者」と一致する部分もある。ビルマの「親指小僧」は、「桃太郎」のような冒険をして、日照りを起こす太陽を退治に行くが、これは、一寸法師の鬼征伐が桃太郎の鬼征伐と関係あることを暗示している。日本にも、ヨーロッパの「親指小僧」と細部まで共通している類話もあるが、書物からの影響である可能性が大きい。『一寸法師』はいわば町の文芸で、京や大坂あたりの市民階級の間で知られていた類話を基に、文学にしたものであろう。同時期の物語草子の『小男の草子』は、背丈1尺、幅8寸の小男が、上﨟(じょうろう)を見そめ、結婚して幸福になる物語で、『一寸法師』を現実的な恋愛談らしく、単純化した構想になっている。
[小島瓔]
『大島建彦校注・訳『日本古典文学全集36 御伽草子』(1974・小学館)』
異常に小さな姿でこの世に出現した主人公の活躍を語った昔話群の総称。御伽草子に収められていた物語が〈一寸法師〉と名づけられていたため,この種の昔話を〈一寸法師〉と呼ぶことが広く定着しているが,民間伝承の段階では,主人公を一寸法師と呼ぶほか,豆助,豆一,五分次郎,親指太郎など主として小さいことを示すようなさまざまな名前で呼んでいる。また,民俗学では,神話や伝説,昔話などに登場する,背丈の低い神や人物を〈小さ子〉と総称している。この種の昔話の内容は,子のない夫婦が神仏に祈って男の子を授かるが,豆つぶのように小さな子でそれ以上に成長しない。長者や貴族の家に行って働き,計略を成功させて美しい嫁を迎え,さらに鬼退治をして宝物を得たり出世したりする。また,鬼の宝であった打出の小槌を振ると背が伸びて一人前の若者になる,というもので,こうした話型のほかに,聟入りの部分がないものや,鬼退治の部分がないもの,打出の小槌のような呪具でなく,風呂に入って一人前の男になるもの,背丈はそのままのものなどの話も多い。話の特徴として,(1)〈申し子〉としてあるいは脛(すね)や指などから生まれた異常誕生児である,(2)そのしるしとして異常に背丈が低い,しかし身分の高い者の娘を嫁にしたり,鬼を退治することのできる特別な能力を所有している,(3)呪具その他を通じて一人前の男に変身する,という点が挙げられる。こうした昔話には,古代の小さ子に対する信仰,男の成人儀礼,出世願望,英雄異常誕生観などが反映されていると解釈されている。昔話には,これと同じような展開を示す話であるが,小さな子ではなく,蛇やタニシ,カタツムリ,カエルなどの動物が主人公となっている昔話群があり,双方は深い関係にあると考えられている。また,桃太郎や力太郎などの異常誕生した英雄たちの昔話も相互に関係があるとされている。
執筆者:小松 和彦
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(鶴見俊輔)
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室町物語の庶民物。作者不詳。江戸時代に入ってからの成立か。「御伽草子」の一編。難波の里に住む老夫婦が住吉大明神に授かった男子は,背が1寸であったため一寸法師と名づけられる。都へ上った一寸法師は三条の宰相に仕え,宰相の姫に一目ぼれをする。計略をめぐらして姫を都から連れ出すことに成功した一寸法師は,船に乗って鬼の住む興(きょう)がる島に着き,鬼を退治する。鬼が忘れていった打出の小槌で,ふつうの背丈と財宝を手にいれた一寸法師は都へ上り,少将となり,一門は繁栄する。同類の話に「小男の草子」がある。「日本古典文学大系」「日本古典文学全集」所収。
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…ドイツの《グリム童話集》では〈親指小僧Daumesdick〉といい,同じく冒険物語だが,最後には無事親もとにもどる。日本の〈一寸法師〉〈五分次郎〉もこれと同系の話と考えられる。魚や鬼の腹の中に一度のみこまれ,それを脱出してから一人前になるというモティーフは,シャマニズムの成年儀礼における死と再生のなごりと考えられている。…
…明治・大正期のジャーナリスト。大我,一寸法師と号す。仙台の出身。…
…その体軀短小ながら異常な能力を発揮するという説話的人物としての型は,のちの伝承の世界に多くの類型を生み出していった。スクナビコナは,かぐや姫,一寸法師,瓜子姫,桃太郎等々のはるかな先蹤(せんしよう)である。なおオオナムチ,スクナビコナは医療,禁厭(まじない)の法を定めたとされる(《日本書紀》神代巻)だけに,温泉の開発神とする伝えが各地に多くみられ(伊予国,伊豆国の《風土記》逸文など),延喜典薬式に用いられている薬草石斛(せつこく)はスクナヒコノクスネ(少名彦の薬根)と呼ばれた(《和名抄》《本草和名》)。…
※「一寸法師」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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