改訂新版 世界大百科事典 「申し子」の意味・わかりやすい解説
申し子 (もうしご)
神仏への祈願や夢のお告げによってもうけた子。歴史上の英雄伝説や高僧伝のなかにその例がみられる。豊臣秀吉は,母がその胎内に日輪が入った夢を見て生まれた子といわれ,日吉山王の申し子である。高僧伝の例としては,良弁(ろうべん)僧正の話が名高く,伊豆三島大明神の縁起によると,伊予国三島郡の長者清政が,初瀬(長谷)の十一面観音に願って授けてもらった子が後にワシに取られ,杉の梢に置かれていたのを助けられてさまざまな曲折を経て高僧となったとある。昔話にも申し子譚が多くみられ,そこでは,申し子は多くの場合,ヘビ,カエル,タニシその他の信仰動物の形をとってあらわれる。また人の姿で生まれる場合でも,一寸法師,五分次郎などのような〈小さ子〉や,桃太郎,瓜子姫,親指太郎などのように脛,親指,果実などから生まれる〈異常出誕児〉の形をとってあらわれることが多い。これらの昔話に共通する形式としては,第1に,積極的に祈願することによって子どもが授けられることであり,第2は,申し子が普通の人のもちえないすぐれた能力を有し,大事業をなしとげるということ,第3は,幸福な結婚をして,すぐれた家の始祖となることである。なお,《神道集》の〈三島大明神の事〉や説経節《信徳丸》も第1の積極的な祈願の例に属すものである。《信徳丸》では,全財宝と引換えに子宝を祈念し,それがかなわぬとみると,〈まことにお授けないならば,御前ふたたび下向申すまじ。御前にて,腹十文字にかき切り,臓腑つかんでくり出だし,御神体に投げかけ〉とあって,神仏を脅して子種を強引に得てしまうしたたかさがみられる。なお,虚弱な子どもを神のトリゴにしてじょうぶに育つように祈る風習は各地にみられるが,これを〈申し子〉という地方もある。秋田県鹿角地方では〈神申し子〉といって,病弱な子どもには神官に名付親になってもらい,もとの名のほかに,別に名前をつけてもらう風習があった。
執筆者:岩崎 武夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報