戯曲。2幕5場。長谷川伸作。1931年6月東京劇場初演。配役は駒形茂兵衛を6世尾上菊五郎,辰三郎を13世守田勘弥,お蔦を5世中村福助ほか。作者得意の股旅物。出世しそこなった相撲取りの駒形茂兵衛が博徒になって,むかし恩をうけた酌婦のお蔦の危急を救うという筋。初演の6世菊五郎の駒形が,前半ではうだつのあがらぬ取的の飢えと哀れさ,後半では颯爽たる俠客ぶりを巧みにみせ,とくに幕切れの名せりふ〈……しがねえ姿の土俵入りでござんす〉で評判をとった。また,お蔦を初演した5世福助が,それまでとは全くちがった役柄のすさんだ酌婦ぶりで好評を得た。歌舞伎以外の前進座や新国劇や映画や大衆演劇でもしばしば上演され,同じ作者の《瞼の母》《暗闇の丑松》とともに,第2次大戦前の日本人の最大公約数的な共感をよぶ作品となった。茂兵衛を演じた6世菊五郎は,そのモデルに,自分のひいき力士の真砂石を当てたといわれる。初演の装置は小村雪岱で,とくに序幕〈安孫子屋店先の場〉が名装置とされる。終幕で,お蔦が茂兵衛のことを思いだすのは,茂兵衛が波一里儀十一味との立回りの際にみせた相撲の手を見るのをきっかけとする演出がよく行われる。
執筆者:落合 清彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
長谷川伸(はせがわしん)の戯曲。2幕。1931年(昭和6)『中央公論』6月号に発表。同年7月東京劇場で6世尾上(おのえ)菊五郎の茂兵衛(もへえ)、5世中村福助のお蔦(つた)などで初演。親方に破門された褌(ふんどし)担ぎの取的駒形(こまがた)茂兵衛は、取手(とりで)の宿(しゅく)の安孫子屋(あびこや)の酌婦お蔦から金子(きんす)などを恵まれ、りっぱな関取になると誓って別れる。10年後博徒となった茂兵衛はお蔦を尋ねて同地を訪れる。捜し当てたお蔦はいまはいかさま博打(ばくち)打ち辰三郎(たつさぶろう)の女房で、ちょうど追っ手がかかったところ。報恩の金を握らせて親子3人を落ち延びさせた茂兵衛の「棒切れを振り廻(まわ)してする茂兵衛の、これが、十年前に、櫛(くし)、簪(かんざし)、巾着(きんちゃく)ぐるみ、意見をもらった姐(あね)さんに、せめて、見て貰(もら)う駒形の、しがねえ姿の、横綱の土俵入りでござんす」という台詞(せりふ)で幕になる。詩情豊かな舞台面に、演者と観客の芝居心を巧みにとらえた作品で、歌舞伎(かぶき)、新国劇から女剣劇に至るまで、上演回数は作者の作品中もっとも多く、映画、テレビにも繰り返し取り上げられている。
[藤田 洋]
『『長谷川伸全集16 戯曲Ⅱ』(1972・朝日新聞社)』
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