ヒックス(読み)ひっくす(英語表記)Sir John Richard Hicks

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒックス」の意味・わかりやすい解説

ヒックス
ひっくす
Sir John Richard Hicks
(1904―1989)

イギリスの理論経済学者。イングランドのウォーリックシャーの勅許温泉地レミングトン・スパに生まれる。ブリストルのクリフトン・カレッジを経て、オックスフォードのベリオール・カレッジに学び、1926年ロンドン・スクールの講師となった。その後ケンブリッジ大学のフェロー(1935~38。この時代に財政学者アースラ夫人Ursula Kathleen Webbと結婚)、マンチェスター大学教授(1938~45)を務めたのち、母校オックスフォード大学に迎えられ、ナフィールド・カレッジのフェロー(1945~52)、教授(1952~65)を経て、65年に同大学名誉教授となった。なお、1942年にFBA(Fellow of British Academy)に選ばれ、64年にナイトの称号を受け、72年にノーベル経済学賞を受賞した。

 ヒックスの業績は幅広く、そして奥深い。まず第一は一般均衡理論の確立である。彼は『価値と資本』Value and Capital(初版1939、第二版1946)で、ワルラスパレートに由来する一般均衡理論を大きく拡充して学界に衝撃を与えた。この著は、比較静学の手法を提示するほか、大小さまざまの分析手法に満ちており、みごとな集大成であり、微視的理論の最高峰とされている。第二は景気理論への寄与である。彼の『景気循環論』A Contribution to the Theory of the Trade Cycle(1950)は、景気循環の分析に経済成長の要因を導入し、「制約循環」の理論を完成した。第三は成長理論、資本理論への貢献である。彼の『資本と成長』Capital and Growth(1965)は、経済成長と資本蓄積の分析の流れを整理し、さらにその展開を目ざしたものであり、『資本と時間』Capital and Time(1973)は、オーストリア学派の資本理論を導入して成長理論に新生面を開くことを試みたものである。さらに彼の著作には、『賃金の理論』The Theory of Wages(1932)、『経済の社会的構造』The Social Framework : An Introduction to Economics(1942)、『需要理論』A Revision of Demand Theory(1956)、『貨幣理論』Critical Essays in Monetary Theory(1967)、あるいは『世界経済論』Essays in World Economics(1959)、『経済史の理論』A Theory of Economic History(1969)、『経済動学の諸方法』Methods of Dynamic Economics(1985)などがあり、いずれも重要な一石を投じている。

[佐藤豊三郎]

『安井琢磨・熊谷尚夫訳『価値と資本』全二冊(1951・岩波書店)』『古谷弘訳『景気循環論』(1951・岩波書店)』『安井琢磨・福岡正夫訳『資本と成長』全二冊(1970・岩波書店)』『根岸隆訳『資本と時間』(1974・東洋経済新報社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒックス」の意味・わかりやすい解説

ヒックス
Hicks, (Sir) John R(ichard)

[生]1904.4.8. ウォリックシャー
[没]1989.5.20. ブロックリー
イギリスの経済学者。オックスフォード大学卒業後,ロンドン,ケンブリッジ,マンチェスター各大学の教職を経て,1946年オックスフォードのナフィールド・カレッジのフェロー,52年オックスフォード大学教授,65年同名誉教授。 A.マーシャルから部分的に J.M.ケインズにいたるまでのケンブリッジ学派の業績を集大成するとともに,オーストリア学派,スウェーデン学派の業績を摂取しつつ,L.ワルラス,V.パレート流の一般的均衡理論を大きく躍進させた『価値と資本』 Value and Capital (1939) はケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』とともに 20世紀前半における経済学上最大の古典の一つと目されている。近年は微視的価格理論よりも時間要素も含めたうえでの資本や貨幣問題の領域で活躍中。 64年ナイトの称号を受け,72年 K.J.アローとともにノーベル経済学賞受賞。夫人は S.J.ウェッブの娘で,財政学者として著名な U.K.ヒックス。主著は上記のほか『賃金の理論』 Theory of Wages (32) ,『景気循環論』A Contribution to the Theory of the Trade Cycle (50) ,『資本と成長』 Capital and Growth (65) ,『資本と時間』 Capital and Time (73) 。

ヒックス
Hicks, Granville

[生]1901.9.9. ニューハンプシャーエクセター
[没]1982.6.18. ニュージャージー,フランクリンパーク
アメリカの批評家,小説家。 1922年ハーバード大学卒業。一時聖職を志したが,転じて教職につき,かたわらさまざまな雑誌に関係。大恐慌後はマルクス主義の立場に立ち,34年共産党に入る。同年左翼雑誌『ニュー・マッセズ』が週刊誌として新発足すると文芸欄を担当し,30年代の代表的な左翼評論家として活躍した。 39年離党。主著『偉大な伝統』 The Great Tradition (1933) ,『転換期の作家たち』 Figures of Transition (39) 。ほかに『一回かぎりの嵐』 Only One Storm (42) など数編の小説,自伝『真実の一部』 Part of the Truth (65) ,評伝『ジェームズ・グールド・カズンズ』 James Gould Cozzens (66) など。

ヒックス
Hicks, Edward

[生]1780.4.4. ペンシルバニア,ラングホーン
[没]1849.8.23. ニュートン
19世紀のアメリカで最も人気のあった大衆画家。クェーカー教徒の家に生れ,『イザヤ書』に基づいて多くの作品を描いた。主要作品には平和的に協調して生きる動物の世界をテーマとする『平和な王国』のほか,『独立宣言』や『ウィリアム・ペンとインディアンとの条約』など歴史的テーマを扱った作品もある。

ヒックス
Hicks, Thomas Holliday

[生]1798.9.2. メリーランド,ドーチェスター
[没]1865.2.13. ワシントンD.C.
アメリカの政治家。 21歳で警官,26歳で保安官となり,1830年に州議会に進出,57年にメリーランド州知事となり,南北戦争に際して南部 11州が連邦を脱退したとき,州知事としてさまざまな政治的圧力を排してメリーランド州を連邦内にとどめた。 62~65年には連邦上院議員をつとめた。

ヒックス
Hicks, George Dawes

[生]1862
[没]1941
イギリスの哲学者。ドイツで心理学などを学び,1904~28年ロンドン大学教授。新実在論の立場に立つ。主著"The Belief in External Realities" (1901) ,"Critical Realism,Studies in the Philosophy of Mind and Nature" (38) 。

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