読本。曲亭馬琴作,葛飾北斎画。1808年(文化5)刊。父半六の出世欲のために幼い日からの婚約者おさんとの仲をさかれ,家老蟻松家の娘園花を妻とした青年武士赤根半七が,義と節操と孝に生き,園花とはついに肌を合わさず,後に笠屋三勝(さんかつ)と名のって舞姫となっていたおさんと結ばれるという物語。2人は親への孝をはたせず,自決を決意して千日寺に赴くが,そこにはすべての因果のもつれを懺悔した半七の父半六と,おさんの実母で蟻松家夫人の敷波が自裁していた。歌舞伎,浄瑠璃で有名な三勝半七の情話を素材に,明代の戯曲《南柯夢》などを付会して,男女の仲,親子の間にも正義と節操が必要であることを高らかにうたいあげた,馬琴の読本の中の佳作の一つ。女に要求される貞操は,男子にもおのずから要求される義であるとする思想がアピールして,好評を得ていた。
執筆者:高田 衛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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