デジタル大辞泉 「三世」の意味・読み・例文・類語
さん‐ぜ【三世】
2 本人・子・孫の3代。さんせい。
3 《親子の縁は一世、夫婦の縁は二世、主従の縁は三世というところから》主従の関係。
[類語]
( 1 )①は梵語 traikālya などの漢訳語。原語は「過去・現在・未来」「成長・持続・廃退」などの意。仏教において、存在の生滅する過程に仮りに立てられた三種の区分をいう。
( 2 )奈良朝に三世の観念が知られていたことは「万葉‐三四八」の「今代(このよ)にし楽しくあらば来生(こむよ)には虫に鳥にもわれはなりなむ」の例などからうかがえる。「三世」の使用例は平安中期以後に見え始め、中世から広く用いられるが、単独の例は少なく、多くは「三世諸仏」「三世因果」などの形で見られる。
仏教の術語で,過去・現在・未来を意味する。この場合の〈世〉はサンスクリットのアドバンadhvan(時)の訳語であり,〈世界〉の〈世〉がローカloka(空間)の訳語であるのと違うことに注意する必要がある。三世のうちの過去と未来において事物が存在するかどうかが仏教諸派で論ぜられた。説一切有部は〈三世実有法体恒有〉を唱える。すなわち,〈いかなる事物も常に存在する,ただし,その作用に関し3種の時がある。作用がまだ起こらない時を未来といい,作用がある時を現在といい,作用がすでに終わった時を過去というのだ〉という。経量部は〈過未無体〉を唱えて,これを批判し,〈もし事物が常に存在するなら,あらゆるときに作用を起こすべきであろう。あるときに作用があり,あるときに作用がないのはおかしいではないか〉という。
執筆者:定方 晟
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
仏教の術語。サンスクリット語では一般にトラヨードゥバーナハtrayo 'dhvānaという。過去・現在・未来を意味し、また已(い)・今(こん)・当(とう)とも前世(ぜんせ)・現世(げんぜ)・来世(らいせ)(後世(ごせ))ともいわれる。インドの宗教・哲学は一般に行為(業(ごう))により三世に輪廻(りんね)するという思想を有していたのでいずれも三世を重視したが、とくに部派仏教中の説一切有部(せついっさいうぶ)は法の実有と刹那滅(せつなめつ)の考えに基づいて三世の概念を明確にした。これによると、法(もの)がまだ作用をおこさないときが未来、作用をおこした一瞬が現在、作用を終わったときが過去である。この規定によれば、過去・現在・未来という時間は実体のないもので、ものの作用の有無によってかりに名づけられたものにすぎない。唐代の普光(ふこう)が「時無別体、依法而立」といったのはこの意味である。これに対してインド哲学中のバイシェーシカ学派やニヤーヤ学派などは時間を世界運行のための基本的実体とみなした。三世は部派仏教以後、業思想、煩悩(ぼんのう)の分類、修行の方法などの複雑な仏教教理を形成せしめる基礎的概念の一つとなった。
[加藤純章]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…しかし現在の研究では,有部の名の出る最古の碑文が後1世紀初頭であることから,その成立は上の年代よりやや下るものと考えられている。 有部の基本的立場は三世実有説である。森羅万象を形成するための要素的存在として70ほどの法(ダルマ)を想定し,これらの法が過去・未来・現在の三世に常に自己同一を保ち実在するが,我々がそれらを経験できるのは現在の一瞬間にすぎない,という主張である。…
※「三世」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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