仏教思想における世界の空間的構造。またその構造をもつ世界。サンスクリットでトリ・ダートゥtri-dhātu。三界とは欲界kāma-dhātu,色界rūpa-dhātu,無色界ārūpa-dhātuの三つの界をいう。色とは物質のことである。界と訳されるサンスクリットdhātu-はもともと〈層stratum〉を意味する。三界のうち最下の層は欲界で,欲望にとらわれた生物のすむ領域である。これは地獄(の生物),餓鬼,畜生,人間,天(神のこと)の5種の生物の居住空間(五趣)からなる(五趣に阿修羅を加えたものを六道(ろくどう)という)。欲界の上に色界がある。これは欲望は超克したが,物質的束縛はいまだ受ける(つまり肉体をもつ)生物のすむ領域である。禅定の深さによって,大きくは4段階(四禅天(しぜんてん))に分けられ,細かくは17(《俱舎論》)または18(《雑集論》巻六)の段階に分けられ,上の段階ほど修行の進んだものがすむ。色界の上に無色界がある。五蘊(ごうん)(色,受,想,行,識)のうち色をもたず,受,想,行,識という精神的要素のみからなる生物,欲望と物質のいずれをも超克した生物のすむ領域で,禅定の深さによって4段階に分けられる。この4段階の最高処〈非想非非想処天〉を〈有頂(うちよう)天〉という。漢訳法華経では色界の最高処〈色究竟天〉が〈有頂天〉とされている。現在でも使われる〈おんな三界に家なし〉や〈有頂天になる〉という表現はこれらに由来する。なお,三界を超越したところに仏界がある。
→世界
執筆者:定方 晟
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
仏教の世界観で、生きとし生けるものが生死流転(るてん)する、苦しみ多き迷いの生存領域を、(1)欲界(よくかい)、(2)色界(しきかい)、(3)無色界(むしきかい)の3種に分類したものをいう。(1)欲界はもっとも下にあり、性欲・食欲・睡眠欲の三つの欲を有する生きものの住む領域である。ここには地獄(じごく)・餓鬼(がき)・畜生(ちくしょう)・修羅(しゅら)・人・天の6種の生存領域(六趣(ろくしゅ)、六道(ろくどう))があり、欲界の神々(天)を六欲天という。(2)色界は前記の三欲を離れた生きものの住む清らかな領域をいう。絶妙な物質(色)よりなる世界なので色界の名があり、四禅天に大別される。(3)無色界は最上の領域であり、物質をすべて離脱した高度に精神的な世界である。ここの最高処を有頂天(うちょうてん)(非想非非想処)と称する。
[坂部 明]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…このような上界と下界とをつなぐものとして聖樹,巨木のほかに世界山があり,これらはともにまた世界の中心だと表象されていることも多い。世界が上界,中界,下界の垂直的な三界からなり,上界と下界はそれぞれ複数の層をなしているという考えは,内陸アジア,北アジアに広く分布しているが,この地域のシャーマンの太鼓面に描かれた宇宙像では,ふつう横線の上に上界,下に下界がとくに層位の区分なしに示されている。北アメリカ南西部の諸民族は地下に数層(ふつう4層)の世界があり,先祖はそれらを次々に上って地上に出たという。…
※「三界」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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