三椏紙(読み)みつまたがみ

改訂新版 世界大百科事典 「三椏紙」の意味・わかりやすい解説

三椏紙 (みつまたがみ)

ミツマタ原料とする紙。ミツマタはコウゾ(楮),ガンピ雁皮)と並んで,現代の和紙の代表的な3原料の一つで,ガンピと同じジンチョウゲ科に属する。ガンピほど光沢はないが,ほぼ同じ3~5mmほどの長さで,優美できめの細かい紙肌をつくる。製紙原料として用いられたのは足利時代の中葉ではないかとされてきた。それは,徳川家康が1598年(慶長3)に修善寺村の紙すき文左衛門に墨印状を渡して,鳥子草(原料)として,伊豆のガンピとミツマタの伐採権を彼に与えたという,文左衛門の子孫の由緒書によって,三椏紙の始まりは慶長よりはるかにさかのぼるとしたものである。しかし,その墨印状の真偽をめぐって,他の村と長い訴訟争いをおこしており,偽書の疑いがある。したがって,江戸初期からガンピやコウゾの代用原料として使われはじめたとみるのが妥当であろう。ミツマタはガンピと違って栽培が可能で,大蔵永常は《広益国産考》で,その栽培法を紹介して,駿州奥津井,甲州,伊豆で栽培して紙にするほか,熱海の雁皮紙や武州玉川の和唐紙(わとうし)にもミツマタを混入していると記している。また静岡県白糸村は,ミツマタ栽培発祥(1783)の地として伝えられ,石碑が大蔵省印刷局により建立されている。しかし当時はミツマタの特色は認識されておらず,したがって三椏紙などという紙名のものは紙市場には登場せず,駿河半紙(するがはんし)などの雑用紙に用いられていた程度である。本格的な使用は明治以後で,印刷局抄紙部がミツマタを使って,印刷効果の美しい局紙などを開発し,その栽培を奨励したためである。仮名書きに適した書道用紙として,鳥取市の旧佐治村の因州筆切れずや愛媛県四国中央市の旧川之江市や内子町の旧五十崎町の改良半紙(新しい三椏紙を改良と称した)が漉(す)かれ,ペン書きなどにも適する工業用紙として高知県いの町の旧伊野町の図引紙(ずびきし)がある。また金箔の間に敷く箔合紙(はくあいし)を岡山県津山市や岐阜県美濃市で漉く。そのほか便箋や染紙など民芸紙の一部で漉かれる場合や,書道用の画仙紙の補助原料として用いられる場合もある。機械漉きの三椏紙として生産量が多いのは,日銀券用は別として,金糸,銀糸の台紙で,他はいずれも他原料と混用されることが多い。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「三椏紙」の意味・わかりやすい解説

三椏紙
みつまたがみ

ミツマタ(三椏)の靭皮(じんぴ)繊維を原料とした紙。ミツマタは、日本、中国、東南アジアに広く分布するジンチョウゲ科の植物で、古くから紙の原料とされてきた。また万葉時代には、サキクサ(三枝)とよばれ、同じ科のガンピ(雁皮)などとともに斐紙(ひし)の原料にされていたことも考えられる。ミツマタの繊維はガンピの繊維とよく似ており、高級な上質紙をつくる。紙に関係したミツマタの名が文献に現れるのは1598年(慶長3)からで、駿河(するが)国(静岡県)や甲斐(かい)国(山梨県)の山野に自生するものを利用していたようである。栽培化されたのは天明(てんめい)年間(1781~89)で、富士山麓(さんろく)の白糸(しらいと)村(静岡県富士宮市)で農家の副業として始められた。紙は江戸市場へ送られたが、現在は全国で栽培され、証券、局紙、鳥の子、紙幣などの材料とされている。

[町田誠之]

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図書館情報学用語辞典 第5版 「三椏紙」の解説

三椏紙

「みつまたがみ」と読む.ジンチョウゲ科の植物であるミツマタの靭皮繊維を主原料として漉かれた和紙.丈夫で印刷にも向くため,明治以降局紙・紙幣としても使用されている.

出典 図書館情報学用語辞典 第4版図書館情報学用語辞典 第5版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の三椏紙の言及

【料紙】より

…文書をはじめ典籍,経典等の文字を書くときに使用する紙のこと。日本で用いられた料紙は,原料によって麻紙,楮(こうぞ)紙,斐(ひ)紙,三椏(みつまた)紙等がある。麻紙は白麻,黄麻を原料とした紙で,奈良時代から平安時代初期に多く用いられ,特に写経用として珍重された。…

※「三椏紙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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