熊本県南西部,天草上島と大矢野(おおやの)島にある市。2004年3月大矢野,姫戸(ひめど),松島(まつしま),竜ヶ岳(りゅうがたけ)の4町が合体して成立した。人口2万9902(2010)。
上天草市の北部を占める島。天草諸島の北部に位置し,宇土半島とは天草五橋の一つ天門橋で結ばれ,行政上は旧天草郡大矢野町に属した。町の人口は1万7354(2000)。平たんな丘陵状の島で,ほとんど砂岩,ケツ岩の第三紀層の地質からなり,これを貫いて噴出した角セン安山岩質の飛(ひ)岳(230m)を最高に,柴尾山,大矢野岳などの小円頂群が点在する。南部の江樋戸(えびと)からはといし,建築用石材を産し,西方の湯島への船便がある。島ではミカン,花卉,牧草を栽培,乳牛,肉用牛を飼育し,沿岸の入江では真珠,ハマチ,タイ,クルマエビ,ワカメの養殖漁業が盛ん。城本(しろもと)の丘は元寇で勇名をはせた天草五人衆の一人大矢野氏の居城跡,宮津は島原の乱の総帥天草四郎時貞ゆかりの地で銅像が立つ。1966年天草五橋が開通し,宇土半島,天草上島と結ばれ,75年千束蔵々島(維和島),80年野釜島との架橋も完成し,76年本土の氷川ダム(八代郡)からの上水道が八代海を経て引かれた。自然休養村,青少年旅行村,ゴルフ場,白濤(しらと),弓ヶ浜などの海水浴場がある。天草松島に臨む南部の海域は雲仙天草国立公園に含まれる。
執筆者:岩本 政教
上天草市南部の旧町。旧天草郡所属。人口3686(2000)。天草上島東海岸に位置し,西境には念珠岳などが連なる。南部の海岸線は屈曲に富み,中心集落の姫浦および二間戸(ふたまど)が湾奥にあり,ともに良港をもつ。石灰石を産し,かつてはセメント産業で栄えたが,第2次大戦中に工場が移転した。かつては棚田などで米作が行われたが,かんきつ類の栽培が中心となり,姫戸ポンカンは特産として有名。漁業は流し刺網,一本釣りを主に,クルマエビ,真珠やワタリガニの養殖も行われる。プラスチックボート,電気部品などの工場もある。権現山鍾乳洞,姫戸公園があり,念珠岳から白岳を経て松島へ抜ける九州自然歩道観海コースが通り,町域は雲仙天草国立公園に含まれる。国道266号線が通じる。
上天草市中部の旧町。旧天草郡所属。天草上島北東端を占める。人口9026(2000)。南部は丘陵性山地に囲まれ,東部は八代海,西部は有明海に面し,五つの有人島と25の無人島を含む。北部の大矢野島との間に広がる多島海は天草松島と呼ばれ,一帯は雲仙天草国立公園に含まれる。天草五橋の終点にあたり,1966年の開通を契機に観光客が急増した。国道266号,324号線が通じ,松島港から八代へフェリーが通う交通の要地で,1980年に前島に松島温泉(単純泉,35℃)が湧出し,天草観光の基地の一つとなっている。明治初期,塩や石材の運搬により海運業が発展した。現在も海運に従事する者が多く,また造船,電機などの大型工場も立地する。米作とミカン栽培や,クルマエビ,真珠などの養殖が行われる。千巌(せんがん)山(名),高舞登(たかぶと)山(名)は天草松島などを望む景勝地で,高舞登山からは南へ九州自然歩道観梅アルプスコースが延びる。
上天草市南端の旧町。旧天草郡所属。天草上島南東端に位置する。人口5248(2000)。北部は竜ヶ岳(470m)を最高峰とする山地で,三方を八代海に囲まれる。山が海に迫っているため耕地はきわめて少ない。産業の中心は樋島(ひのしま)港を母港とする海運業で,船舶数は100隻をこえ,その多くは瀬戸内海海運に従事している。また樋島には県下では珍しい遠洋マグロ漁船基地がある。町内の上水道は対岸の芦北町から海底パイプにより送水される。沿岸を国道266号線が通じる。大道(おおどう)港と芦北町の佐敷港の間にはフェリーが就航し,50分で結ばれている。竜ヶ岳(名)は,雲仙天草国立公園に属し,八代海の島々や九州連山,雲仙などを望む景勝地として知られ,山頂に天文台がある。
執筆者:赤池 享一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
熊本県中西部にある市。天草上島(かみしま)東部と大矢野島を中心に、周囲の大小の島々からなる。2004年(平成16)天草郡大矢野(おおやの)、松島(まつしま)、姫戸(ひめど)、龍ヶ岳(りゅうがたけ)の4町が合併、市制施行して成立。三角ノ瀬戸(みすみのせと)を挟んで、本土の宇土(うと)半島と相対し、天草諸島の玄関口ともいえる。国道266号、324号が通じる。天草五橋の竣工(しゅんこう)(1966)で、天草上島―大矢野島―熊本県本土が陸路で結ばれた。
北は島原(しまばら)湾、東には八代(やつしろ)海という豊かな海に囲まれており、漁業が主要産業。沿岸漁業やクルマエビ、ワタリガニ、タイ、ハマチなどの養殖が盛んである。かつては造船・海運業で栄えたが、現在は各種工場が進出、姫戸にはヤマハの工場が立地する。米、麦、葉タバコ、イグサなどが伝統的な農作物であったが、近年は、ミカンやポンカン、花卉(かき)の栽培、真珠の養殖などが大きく成長した。天草五橋の開通は、こうした新しい産業の拡大と、観光客や釣り客の増加をもたらした。観光業も盛ん。市域の一部が雲仙天草国立公園(うんぜんあまくさこくりつこうえん)に含まれ、豊かな自然にめぐまれた風光明媚(めいび)な場所も多い。龍ヶ岳(470メートル)は国指定名勝。権現(ごんげん)山山麓(さんろく)の権現鍾乳洞(しょうにゅうどう)、白砂青松で有名な高戸海水浴場、九州自然歩道、松島温泉、県指定史跡の大戸鼻古墳群、天草・島原の乱のとき天草四郎時貞(ときさだ)らがひそかに談合したとの伝説がある湯島(談合島)、天草四郎公園(大矢野島)などがある。面積126.94平方キロメートル、人口2万4563(2020)。
[編集部]
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