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群馬県(旧国名は上野国)にある山上碑(やまのうえひ)、多胡碑(たごひ)、金井沢碑(かないざわひ)の三碑をいう。
山上碑(高崎市山名(やまな)町字山神谷(さんじんだに))は、放光寺の長利(ちょうり)という僧が母の黒売刀自(くろめとじ)のため辛巳(かのとみ)年(推定681年)に建てた石碑で、隣接する山上古墳の墓碑と推定される。日本の古墳のなかで、被葬者、造墓者と年代のわかる希有(けう)の例として著名であり、建立者が仏教の僧侶(そうりょ)、対象が前代からの古墳、碑文は漢字により表現された儒教思想に基づく墓誌というように、諸文化の融合の所産として注目される。
多胡碑(高崎市吉井町池)は和銅(わどう)4年(711)上野国甘良(から)郡の織裳(おりも)、韓級(からしな)、矢田(やた)、大家(おおやけ)と緑野(みどの)郡の武美(むみ)、片岡郡の山部(やまべ)などの6郷300戸を割いて新たに多胡郡を建郡したときの記念碑である。銘文中の「郡成給羊」は長く解釈しにくい語とされていたが、尾崎喜左雄(おざききさお)(1904―1978)は、「羊」が正倉院文書の戸籍に多くみられることや、上野国分寺址(し)などに「羊」「羊子三」などのへら書きの文字瓦(かわら)があることから、これを渡来人の人名であろうとし、「羊に給して多胡郡を成す」と解釈した。
金井沢碑(高崎市山名町字金井沢)は神亀(じんき)3年(726)下賛(しもさぬ)(佐野)の三家(屯倉)(みやけ)の一族が仏教に入信したときの記念碑である。
7世紀後半から11世紀にかけての石碑は全国で18基存するが、そのうちの3基が群馬県南西部に集中して存在することは注目すべきことである。文献史料の乏しいこの地域の様相、ことに仏教の浸透の状況や朝鮮からの渡来人による建郡という政治、宗教、社会などの一断面を具体的に明らかにする貴重な資料といえよう。ともに国の特別史跡に指定されている。
[久保哲三 2018年5月21日]
2017年(平成29)には、ユネスコ(国連教育科学文化機関)が後世に残すべき貴重な資料を保護する目的で実施している遺産事業「世界の記憶」に登録された。
[編集部 2018年5月21日]
群馬県内に遺存する古代の碑である山ノ上碑(681建立。高崎市山名町),多胡(たご)碑(711建立。高崎市吉井町池),金井沢(かないざわ)碑(726建立。高崎市山名町)の総称。これらはいずれも旧多胡郡内の近接した場所にあり,特別史跡に指定されている。山ノ上碑,金井沢碑は安山岩自然石で地方豪族の仏教の受容と信仰の形態とが書かれ,多胡碑は砂岩を柱状に整えて笠石を載せたもので多胡郡建郡の事情を記す。碑文は正史の欠を補う,地方豪族の系譜を探る,古代寺院址との関連などで追究されるべき内容をもち,その史料的価値は高い。これらの建立された背景には渡来人の存在を考えることができる。上野国は4~7世紀に古墳が数,規模ともに著しく発達し,古代国家の軍事,外交,修史事業に深くかかわった上毛野(かみつけぬ)氏を擁したが,これらの碑からは仏教の広まりと文字使用の普及といったこの地域の歴史的特色を見いだすことができよう。
執筆者:前沢 和之
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