世界の記憶(読み)せかいのきおく(英語表記)Memory of the World

日本大百科全書(ニッポニカ)「世界の記憶」の解説

世界の記憶
せかいのきおく
Memory of the World

人類の貴重な文書、書籍、写真などの資料(動産)を保存し、広く一般に公開するための事業。国連教育科学文化機関(ユネスコ)が「世界遺産」「無形文化遺産」と並ぶ遺産事業の一つとして実施している。後世に継承すべき重要な文書類が毀損(きそん)・消失するのを防ぐ目的で1992年に創設された。当初、日本ユネスコ国内委員会は「世界記憶遺産」という呼称を用いていたが、2016年より英語の原義に近い現称に変更した。最初の登録は1997年で、以後2年ごとに、国際諮問委員会が各国政府や非政府機関の申し出に基づいて認定している。書籍や写真など資料の形態に応じてもっとも適切な保存手法をとり、デジタル化してユネスコのウェブサイトで専門家や一般の人々の区別なく、平等かつ容易に閲覧できるようにしている。

 人類の文化、言語、民族の多様性を映した貴重な資料で、歴史的、社会的な価値があり、希少で元のままの状態で保存されていることなどが登録の基準となる。2017年10月時点の登録数は427件。ベートーベン交響曲第9番の自筆譜、アンネ・フランクの日記、マグナ・カルタ(大憲章)、グーテンベルクの聖書、古代ナシ族のトンパ文字(トンバ文字)による文書などが登録されている。

 2015年(平成27)には、中国が申請した「南京(ナンキン)大虐殺資料」が登録されたが、南京大虐殺については、犠牲者の人数など日中間で統一した事実認定がなされておらず、日本政府がユネスコに抗議、政府高官が日本のユネスコへの分担金・拠出金の凍結を示唆するなど、国際問題化した。日本政府は、ユネスコに対し、世界の記憶の審議の透明化など登録プロセスについて改革を求め、それを受けてユネスコは2017年、政治利用を避けるため、複数の当事者間で事実関係や歴史認識で意見が異なる案件は、当事者間の話し合いを促し、まとまるまで審査を保留することとした。

[佐滝剛弘 2018年5月21日]

資料 日本の登録物件一覧

日本からの登録は2017年時点で以下の7件である。


2011年
山本作兵衛(さくべえ)炭鉱記録画・記録文書
福岡県・筑豊(ちくほう)地域の炭鉱労働のようすを描いた原画や日記

2013年
慶長遣欧使節関係資料
伊達政宗(だてまさむね)が派遣した使節に関する資料
御堂関白記(みどうかんぱくき)
藤原道長の日記

2015年
東寺百合文書(とうじひゃくごうもんじょ)
京都の東寺に伝わる平安~江戸時代初期までの文書
舞鶴(まいづる)への生還 1945―1956シベリア抑留等日本人の本国への引き揚げの記録
シベリア抑留から帰還した人々の日記、手紙、絵画など

2017年
上野三碑(こうずけさんぴ)
群馬県に所在する、山上碑(やまのうえひ)、多胡碑(たごひ)、金井沢碑(かないざわひ)の三つの古代石碑
朝鮮通信使に関する記録
日本国内12都府県と韓国に残る、江戸時代の朝鮮通信使に関する外交資料(日本・韓国の関係団体による共同申請)

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デジタル大辞泉「世界の記憶」の解説

せかい‐の‐きおく【世界の記憶】

ユネスコの事業の一。世界的に重要な文書や映像フィルムなどの記録を保存・公開し、未来の世代に引き継ぐためのもの。マグナカルタ(大憲章)、ベートーベン直筆の交響曲第9番楽譜、ヒッタイトくさび形文字を記した粘土板などが登録されている。世界記憶遺産MOW(Memory of the World)。
[補説]日本の登録物件
山本作兵衛の炭坑記録画および記録文書(平成23年)
慶長遣欧使節関係資料(平成25年)
御堂関白記(平成25年)
東寺百合(ひゃくごう)文書(平成27年)
舞鶴への生還(平成27年)
上野(こうずけ)三碑(さんぴ)(平成29年)
朝鮮通信使に関する記録(平成29年)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「世界の記憶」の解説

世界の記憶
せかいのきおく
Memory of the World

人類が後世に伝える価値のある世界各国の文書,書物,楽譜,絵画,映画など,動産の記録物を登録・保護し,公開することを目的に 1992年に国際連合教育科学文化機関 UNESCOが始めた事業。登録は 2年に 1度行なわれ,国際諮問委員会 IACの勧告に基づき UNESCO事務局長が決定する国際登録と,「世界の記憶」アジア太平洋地域委員会 MOWCAPなどが決定する地域登録とがある。世界遺産とは異なり,国のほか自治体や団体,個人でも申請することができるが,1ヵ国が一度に申請できるのは国際登録,地域登録それぞれ 2件まで。本事業は,(1) 最もふさわしい技術を用いて世界的に重要な記録物の保存を促進すること,(2) 多くの人が記録物を見ることができるようにすること,(3) 記録物の存在とその重要性を世界的に喚起・啓発すること,を目的としている。公開方法として,インターネットを通じてだれもが公平に閲覧できるよう,デジタル資料やカタログの作成が推奨されている。2017年7月現在,マグナ・カルタ,『アンネの日記』(→フランク),ルートウィヒ・ファン・ベートーベンの交響曲第9番の自筆楽譜,アルフレッド・J.ヒッチコックの初期作品など 348件が国際登録され,46件が地域登録されている。日本からは,福岡県田川市福岡県立大学が共同で申請した,一人の炭鉱労働者が作成した筑豊炭田の生活や風俗を伝える希少な記録「山本作兵衛炭坑記録画・記録文書」が 2011年5月に初めて国際登録された。かつて日本国内では世界記憶遺産と呼称したが,2016年から現名称を用いている。

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