改訂新版 世界大百科事典 の解説
下請代金支払遅延等防止法 (したうけだいきんしはらいちえんとうぼうしほう)
下請取引について,親事業者が優越的な地位を乱用し,下請業者に不利益をあたえることのないようにし,両者間の取引を公正にすることを目的とした法律。略して下請法という。1952年ごろ,朝鮮戦争後の不況に対処するため大企業の行った合理化政策は,中小の下請企業を苦境におとしいれ,中小企業団体から下請企業擁護の要請が強く打ちだされた。たまたま,53年,独占禁止法の改正が行われ,同法19条の〈不公正な取引方法〉の禁止の一環として,優越的地位の乱用の禁止が盛りこまれた。そこで公正取引委員会は,54年,これを適用することにより,下請問題に対処する方針を打ちだした。しかし,その効果は十分にあがらず,ふたたび社会問題化してきたので,56年に下請法が制定されたのである。日本的下請制度に対応した日本独特の法律だといえよう。
下請法は,(1)資本の額または出資の総額が1億円を超える事業者が,それ以下の規模の事業者に製造委託または修理委託をするとき,(2)資本の額等が1000万円を超え1億円以下の事業者が,1000万円以下の事業者に製造委託・修理委託をするとき,(3)実質上これに準ずる再委託をするときに適用される。
同法が適用されると次の規制をうける。(1)下請代金の支払期日は,親事業者が下請事業者の給付を受領した日から60日の期間内において,できるだけ短く定められなければならない。(2)親事業者は,下請事業者に対し,その者の責めに帰すべき事由がないのに給付の受領を拒み,代金を支払わず,不当に代金の額を減じ,理由がないのに返品し,不当な買いたたきを行い,自己の指定する物を強制的に買いとらせ,有償支給材料代金について早期に支払わせ,割引困難な手形を交付し,報復措置を講ずるといったことをしてはならない。(3)もしも親事業者が下請代金の支払を遅らせたときは,公正取引委員会の定める率による遅延損害金を支払わなければならない。(4)親事業者が製造委託または修理委託をしたときは,ただちに取引の重要な内容を記載した書面を下請業者に交付するほか,みずからも書類を作成し保管しておかなければならない。親事業者が違反したときは,公正取引委員会は,下請業者を保護するために必要な措置を勧告し,これに従わなければ公表する。中小企業庁長官が違反事実を認めたときは,公正取引委員会に適当な措置をとるように請求する。
公正取引委員会と中小企業庁は,親事業者と下請事業者から毎年定期的に報告を求め,疑わしい事実が見つかると立入検査を行っている。その効果は漸次あがってきているが,いまなお違反事件は多い。
執筆者:川越 憲治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報