江戸後期の記録。7巻。著者は〈武陽隠士〉とのみ記されていて,本名・経歴ともに不明。内容から,武蔵南部に隠棲した旗本クラスの武士ではないかという説や,御三家または親藩に仕えた浪人で,吉原付近に住み,公事師を業としていた者ではないかという説もある。成立は1816年(文化13)ころと推定される。内容は,18世紀末から19世紀初頭の,文字どおり〈世事〉を〈見聞〉したことを記したもので,武士,百姓,町人,被差別民のことに及び,また寺社,医業,陰陽道,盲人,公事訴訟,遊里,芝居などにも及んでいる。この書は,武士の堕落・退廃,僧侶の腐敗,上層町人の豪奢を中心に,世態をきびしく批判した警世の書であるが,見聞の内容そのものは詳細かつ具体的で,江戸後期の社会を知る好史料である。《日本経済叢書》《近世社会経済叢書》《日本庶民生活史料集成》所収。
執筆者:池上 彰彦
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「せじけんもんろく」ともいう。江戸時代後期に書かれた社会批判の書。7巻。1816年(文化13)ごろに書かれた。著者は江戸に住む武陽隠士(ぶよういんし)とあるが、不明。「武士、百姓、寺社人、医業、陰陽道(おんみょうどう)、盲人、公事(くじ)訴訟、町人、遊里売女(ばいた)、歌舞伎(かぶき)、米穀雑穀其外(そのほか)諸産物、日本神国、非命に死せる者、土民君の事」などに分け、それぞれについて痛烈な批評を加えているが、立場は復古的である。江戸後期の村落や江戸の状況などをはじめ社会各層の生活実態を知ることのできる著として研究者らに活用されている。『近世社会経済叢書(そうしょ)』1、『日本経済叢書』3・4、『日本庶民生活史料集成』8所収。
[青木美智男]
『本庄栄治郎校訂、滝川政次郎解説『世事見聞録』(1966・青蛙房)』
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近世の随筆。7巻。武陽隠士著。1816年(文化13)序。寛政の改革の前後の時期の諸階層について記したもの。武士,百姓,寺社人・医業,陰陽道・盲人・公事訴訟,町人・同中辺以下の者,遊里売女・歌舞伎芝居,えた非人・産物・山林・日本神国という事・非命に死せる者の事・土民君の事などの内容からなる。武士,宗門や上層町人に対して批判的な記述であるのが特徴。「日本庶民生活史料集成」所収。
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[日本]
日本における高利貸は,古代後期よりしだいに成育した貨幣流通に密着して成長し,中世都市で盛んとなり,近世には全国的にその隆盛期を迎えたが,近代社会にあっては庶民金融として副次的な位置に大きく後退した。そのさい留意すべきことは,例えば19世紀前半に成立した《世事見聞録》における武士感覚や儒教倫理にもとづく攻撃にみられるように,道義的気分や政策的観点からの非難(〈高利貸退治〉)を受けやすく,必ずしも実態にそぐわない非難の言葉として乱用されたことである。元本がおのずから利息を生む力と冷厳で機能的な貨幣の性質は,人間関係を分解し腐食させる面をもつから,利子生み資本は一般に嫌悪された。…
※「世事見聞録」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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