改訂新版 世界大百科事典 「中心性網膜炎」の意味・わかりやすい解説
中心性網膜炎 (ちゅうしんせいもうまくえん)
central serous retinopathy
日本ではポピュラーな眼の疾患で,女子の3~5倍の頻度で40歳前後の男子の片眼に好発する。比較的急速(1~2日)に軽い視力低下が起こり,中心が暗い(中心暗点central scotoma),小さく見える(小視症micropsia),ゆがんで見える(変視症metamorphopsia)などの症状を訴える。眼底中心部に円形の浮腫が生じ,そこに漿液がたまって網膜が浮き上がるために起こる。蛍光眼底造影検査を行うと,脈絡膜側から浮腫部分の網膜の下へ蛍光色素の漏出が1~数ヵ所みられる。この漏出によって色素上皮細胞が障害・変性することが基本的病変であることから,最近では〈漿液性中心性網脈絡膜症〉という病名が好んで用いられるようである。多くの例で,ストレス(睡眠不足,過労,情動不安)が引金として作用しているものとみられている。予後は悪くなく,3~6ヵ月の経過で治癒するが,再発しやすい。現在最も有効な治療は光凝固(ひかりぎようこ)であり,蛍光漏出部を凝固・瘢痕(はんこん)化させることで罹病期間の短縮,再発防止が可能である。上記のものがこの病気の定型で,日本では〈増田型〉とも呼ばれるものである。類型として,20代の女子に発症し脈絡膜に新生血管ができる滲出性中心性網膜炎exudative central retinopathy,老人性または遺伝性黄斑変性macular degenerationの一時期などがあり,いずれも視力障害が強く,予後不良。
執筆者:小林 義治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報