日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされる明白な危険がある「存立危機事態」に自衛権を行使できるとした法律。集団的自衛権の行使を認めた平和安全法制(自衛隊法など10本の法改正と新法「国際平和支援法」制定で構成)の中核をなす法律である。正式名称は「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」(平成15年法律第79号)。従来からあった武力攻撃事態法(正式名称「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」)を2015年(平成27)9月に成立した平和安全法制の整備に伴って改正・改称した。
事態対処法は、日本が直接武力攻撃を受けた場合(武力攻撃事態)だけではなく、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と存立危機事態を定義。この、(1)存立危機事態に加え、(2)存立危機事態を排除し、日本の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと、(3)必要最低限の実力行使にとどまるべきこと、の三つの要件を満たす場合に、自衛隊の防衛出動を可能とした。これにより中東のホルムズ海峡が機雷封鎖された場合、日本の存立にかかわる石油調達の観点から、機雷除去も可能となる。さらに自衛隊法、重要影響事態安全確保法、米軍等行動関連措置法、海上輸送規制法、捕虜取扱い法なども改正し、存立危機事態を想定し、平時からアメリカ軍などを守る「武器等防護」や、他国軍への弾薬補給や給油などの後方支援を世界中で可能とした。
こうした自衛隊の防衛出動には原則国会の事前承認が必要(第9条)とも規定する。しかし、「特に緊急の必要があり事前に国会の承認を得るいとまがない場合」(第9条4項)は事後承認でも可能としている。これによりたとえば、北朝鮮が弾道ミサイルを日本上空を通過させてアメリカへ発射した場合、日本に落下する恐れがあるので、自衛隊のミサイル迎撃が可能となる。
日本の歴代政府は第二次世界大戦後、「国際法上、集団的自衛権の権利を保有しているが、行使はできない」との憲法解釈をしてきた。しかし安倍晋三(あべしんぞう)政権が2014年7月、憲法解釈を変更し、集団的自衛権も認められるとの判断を示した。事態対処法は集団的自衛権の行使を限定適用する法律とみることができる。一方、政権が存立危機事態と認識したら集団的自衛権を行使できるため、適用の歯止めになっていないとの批判が野党やマスコミなどからでている。
[矢野 武 2017年10月19日]
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