集団的自衛権(読み)シュウダンテキジエイケン

デジタル大辞泉 「集団的自衛権」の意味・読み・例文・類語

しゅうだんてき‐じえいけん〔シフダンテキジヱイケン〕【集団的自衛権】

国連憲章第51条で加盟国に認められている自衛権の一。ある国が武力攻撃を受けた場合、これと密接な関係にある他国が共同して防衛にあたる権利。→個別的自衛権
[補説]日本は主権国として国連憲章の上では「個別的または集団的自衛の固有の権利」(第51条)を有しているが、日本国憲法は、戦争の放棄と戦力・交戦権の否認を定めている(第9条)。政府は憲法第9条について、「自衛のための必要最小限度の武力の行使は認められている」と解釈し、「個別的自衛権は行使できるが、集団的自衛権は憲法の容認する自衛権の限界を超える」との見解を示してきたが、平成26年(2014)7月、自公連立政権下(首相=安倍晋三)で閣議決定により従来の憲法解釈を変更。一定の要件を満たした場合に集団的自衛権の行使を容認する見解を示した。武力行使が許容される要件として、(1)日本と密接な関係にある他国への武力攻撃により日本の存立が脅かされ、国民の生命・自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある(存立危機事態)、(2)日本の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない、(3)必要最小限度の実力を行使すること、を挙げている。

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共同通信ニュース用語解説 「集団的自衛権」の解説

集団的自衛権

同盟国などが攻撃された際、直接の攻撃を受けていない第三国が反撃する権利。歴代政権は憲法9条で許される自衛権の範囲を超えているとして行使を禁じてきた。安倍前政権が2014年7月に閣議決定した新たな憲法解釈では、他国への攻撃でも、日本国民の生命、財産に明白な危険があり、他に適当な手段がなく、必要最小限の実力行使にとどまるとの「武力行使の新3要件」を満たせば、集団的自衛権が行使できる。安全保障関連法は、密接な関係にある他国が攻撃を受けて日本の存立が脅かされる場合を「存立危機事態」と規定して、自衛隊が出動するとしている。

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精選版 日本国語大辞典 「集団的自衛権」の意味・読み・例文・類語

しゅうだんてき‐じえいけんシフダンジヱイケン【集団的自衛権】

  1. 〘 名詞 〙 ある国が攻撃された場合に、これと密接な関係にある国が共同してその防衛にあたる権利。国際連合憲章第五一条に、自衛権の一種として認められている。

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百科事典マイペディア 「集団的自衛権」の意味・わかりやすい解説

集団的自衛権【しゅうだんてきじえいけん】

国際連合憲章第51条は,加盟国に対し安全保障理事会が必要な措置をとるまでの間に限って自衛権の行使を認めている。そこでは1国による個別的自衛権のほかに,その国と密接な関係にある他の国が共同して自衛行動をとる集団的自衛権をも認めている。いずれの場合も武力侵害の事実の存在を前提としている点で,歴史的にも従来の自衛権よりも厳格で制限的である。さらに諸外国と異なり,日本で集団的自衛権の行使が認められるか否かの法的問題が出てくるのは,日本国憲法との整合性である。日本は,自衛権すなわち外国からの急迫かつ不正な侵害に対し,国家または国民の利益を防衛するため,やむを得ず一定の実力を行使して反撃し得るという国際慣習法上の権利を当然ながら有しているが,憲法第9条は国際紛争解決の手段として国権の発動たる戦争と武力の行使とを放棄し,戦力の保持と交戦権を否認すると定めている。このため,憲法発効時からそもそも自衛のための軍備の保有や使用が合憲か否か法律家の間でも論争があったが,憲法9条は自衛権を放棄しておらず,〈戦力〉に至らない程度の実力(自衛力・防衛力)の範囲において自衛権の行使が認められており,そのための〈戦力〉を保持することも許容されているとする説が有力となった(最高裁大法廷〈砂川判決〉など。自衛隊法3,76,87,88条)。歴代内閣がこの説を蹈襲することで自衛権とそのための〈戦力〉についての憲法解釈は確定したといえる。しかし,歴代内閣は例外なく,集団的自衛権については,日本は国際法上集団的自衛権を保有しているが,憲法9条の下において許容される自衛権の行使は日本を防衛するための必要最小限の範囲にとどまるべきものであり,集団的自衛権を行使することはその範囲を超えるものであって憲法上許されないとする解釈をとり,これも確定的な解釈となっている。集団的自衛権についての内閣のこうした解釈を裏付けてきたのは,憲法や法律についての政府の厳密な統一的解釈を示す内閣法制局である。政権の恣意的な解釈を許さず,国による法解釈の厳密性を担保するこうした仕組み自体は,戦前の大日本帝国憲法と内閣におけるその解釈のありかたについてもまったく同様で,帝国憲法発布時の法制局長官に帝国憲法草案を伊藤博文とともに作成した井上毅が任命されていることがそれを端的に物語っているといえる。集団的自衛権についての議論が焦点化したのは第2次安倍内閣が〈集団的自衛権の行使容認〉を鮮明にしたことによる。安倍首相は2013年の参議院選の勝利を受け,持論である憲法改正に向けて改正のハードルを高く設定している憲法96条の改正を打ち出した。しかし,国民世論の動向は憲法を容易に変えるための憲法改正に強い反対が多数を占めていることから,憲法改正をいったん後景に置き〈憲法解釈の変更〉すなわち〈解釈改憲〉に転じた。すなわち2007年の第一次安倍内閣で設置した首相の私的諮問会議〈安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会〉(安保法制懇,座長代理北岡伸一)を再開させ,その報告書をもとに〈集団的自衛権の行使容認〉を実現し解釈改憲に本格的に道を開く,という方針である。内閣法制局長官には2013年8月,安保法制懇で懇談会の立案実務に携わった小松一郎が就任した。小松は就任早々に集団的自衛権の行使を禁じる憲法解釈を積極的に見直すという考えを明らかにした。時の政権の意向に左右されずに法解釈の厳密性を担保するという歴代の法制局の役割を無視した長官人事に批判が出された。しかし安倍首相の解釈改憲による〈集団的自衛権の行使容認〉への意欲は強く,連立与党公明党を説得し,2014年7月安倍内閣は集団的自衛権行使容認を閣議決定し,解釈改憲に大きく踏み出した。公明党は,集団的自衛権の行使に一定の歯止めをかける役割を果たしたと強調したが,同じく解釈改憲に踏み切った。
→関連項目解釈改憲自衛隊NATOPKO協力法法制局長官ワルシャワ条約機構

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「集団的自衛権」の意味・わかりやすい解説

集団的自衛権
しゅうだんてきじえいけん
right of collective self-defense

国連憲章は、武力による威嚇または武力の行使を一般的に禁止しているが(第2条4項)、その例外として、「武力攻撃が発生した場合には」「個別的又は集団的自衛の固有の権利」を行使することを認めている(第51条)。集団的自衛権については憲章はなんらの定義もしていないが、たとえ自国が直接には武力攻撃を受けていなくても、自国と深い関係にある他の国家が武力攻撃を受けた場合には、これに対して防衛する権利であるといってよい。

 憲章に集団的自衛権についての規定が加えられたのは、1945年のサンフランシスコ会議においてであり、憲章の原案たる前年のダンバートン・オークス提案には含まれてはいなかった。原案では、地域的取極や地域的機関による強制行動は、旧敵国に対するものを除いて、すべて安全保障理事会の許可を要するものとされていた。したがって安全保障理事会において少なくとも5常任理事国の一致がない場合には、地域的取極や地域的機関による強制行動は不可能という結果になる。これに反発したのは主として米州諸国であった。これらの諸国は、サンフランシスコ会議の直前にチャプルテペック規約に署名し、第二次世界大戦終了後に相互援助条約を締結することを約束していた。しかし、安全保障理事会の許可がなければ、このような相互援助条約に基づく行動がとれないというのでは、条約の機能がきわめて限られたものとなることは明らかである。サンフランシスコ会議で、アメリカが強く集団的自衛権の規定の挿入を推進したのは、このような背景があったからである。その結果、地域的取極や地域的機関による行動には安全保障理事会の許可を要するという規定を維持しながら(第53条1項)、その例外として集団的自衛権に基づく行動は、「安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間」は、単に安全保障理事会に報告すれば足り、許可を必要としないという現行憲章の構造が成立した。

 その後、多くの相互援助条約、集団安全保障条約、軍事同盟条約が各国間に締結されてきたが、そのほとんどは明示的に集団的自衛権を法的根拠として援用している。米州諸国は早速1947年に全米相互援助条約に署名し、「アメリカの一国に対するいかなる国の武力攻撃も、アメリカのすべての国に対する攻撃とみなすことに合意し」、「個別的又は集団的な固有の自衛権を行使してそのような攻撃に対抗するために援助することを約束」(第3条1項)した。そのほか、48年のブリュッセル条約、49年の北大西洋条約、55年のワルシャワ条約など、いずれも集団的自衛権を基礎として規定している。日米安全保障条約も、両国が個別的または集団的自衛の固有の権利を有することを確認した(前文)うえで、共同防衛を規定(第5条)している。もっとも政府の解釈では、この条に基づく行動はアメリカ合衆国については集団的自衛権の行使に相当するが、わが国については個別的自衛権の行使に相当するという。共同防衛が「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃」に対するものだからである。しかし、わが国がアメリカ合衆国に基地を提供し、軍事的に結合すること自体、集団的自衛権を基礎としなければ説明することができないと思われる。

 集団的自衛権の行使は、かならずしもあらかじめ条約や協定によって約束されている場合にだけ許されるわけではない。条約上の根拠がなくてもこの権利を行使することが認められる。しかし、国連憲章第51条の規定の成立経過や、その後の実行にみれば明らかなように、集団的自衛権はむしろ軍事同盟網の形成の法理的基礎として機能してきた。そのために、集団的自衛権のこのような機能は、本来、国連憲章が構想した集団的安全保障の機能を逆に減殺すると評されている。

[石本泰雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「集団的自衛権」の意味・わかりやすい解説

集団的自衛権
しゅうだんてきじえいけん
right of collective self-defense

国際関係において武力攻撃が発生した場合,被攻撃国と密接な関係にある他国がその攻撃を自国の安全を危うくするものと認め,必要かつ相当の限度で反撃する権利。自衛権の一つで,個別的自衛権に対していう。国連憲章51条において,安全保障理事会が有効な措置をとるまでの間,各国に個別的自衛権と集団的自衛権の行使が認められている。本来国連憲章は,国際的安全保障の方式として集団安全保障を目指した。すなわち軍備拡張や同盟の構築によって各国が個別に安全を保障しようとするのではなく,戦争その他の武力の行使を禁止する一方,これに違反して侵略を開始する国に対しては国際連合加盟国が一致協力して集団的に強制措置をとるというものであった。しかし,アメリカ合衆国とソビエト連邦の対立下で国連憲章の予定した集団安全保障が機能しなかったため,東西両陣営はそれぞれ集団的自衛権を根拠にした多国間または二国間の相互防衛条約を締結し,実質的な同盟復活の様相を呈した(→冷戦)。日本政府は第2次世界大戦後長らく,集団的自衛権に関して「国連憲章の加盟国として,また対日講和条約5条C項の規定どおり日本は集団的自衛権をもつが,憲法第9条のゆえにそれを行使することはできない」と説明していた。しかし 2014年7月,安倍晋三内閣は,一定の条件のもとで集団的自衛権の行使は認められるという憲法解釈の変更を閣議決定(→閣議)した。

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知恵蔵 「集団的自衛権」の解説

集団的自衛権

自衛隊が米軍の日本防衛以外の作戦に直接協力できない理由として、従来日本政府は「憲法9条は国際紛争解決の手段としての武力による威嚇または武力行使を禁じており、自国の防衛以外に武力行使はできない」と説明してきた。このため米国側には「憲法を改正し集団的自衛を認めるべきだ」とする声もあり、国内でも呼応する人が少なくない。2005年8月1日に公表された自民党の新憲法草案は、直接に集団的自衛に言及してはいないが「自衛権の中に含まれる」と説明している。だが本来集団的自衛は同盟国が攻撃されるか、同盟国ではなくとも自国の安全保障上不可欠な国の求めに応じて共同軍事行動を取るものだ。例えば米国領であるグアムやハワイが攻撃され、自衛隊が米軍を支援するなら集団的自衛権の行使、と言えようが、米国が本国の自衛でもなく、国連安全保障理事会の決議もなしに行ったイラク攻撃やユーゴ爆撃、あるいは中台関係に将来介入するような場合、日本が参加するのは集団的自衛とは言えない。また憲法9条と同趣旨の威嚇と武力行使の禁止は国連憲章、対日平和条約、日米安保条約にもあり、憲法を変えてもどうにもならないのだ。

(田岡俊次 軍事ジャーナリスト / 2007年)

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知恵蔵mini 「集団的自衛権」の解説

集団的自衛権

他国が武力攻撃された場合に、自国が攻撃されていなくとも共同で防衛を行う権利のこと。1945年に発効した国連憲章の第51条で初めて認められた国際法上の権利で、行使は各国の自由裁量に任されているが、米州共同防衛条約や北大西洋条約などのように、締約国間でこの権利を義務化している場合もある。日本では、日米安全保障条約により、日本が攻撃された場合は米国が防衛協力を行うことになっている。しかし日本は憲法で武力放棄を定めており、憲法解釈により自衛隊を保持するようになっても、歴代内閣では他国での武力行使を禁じてきたため、米国を武力で共同防衛することはできなかった。第二次安倍内閣は2014年7月1日に行われた臨時閣議により、集団的自衛権の行使を認めるために憲法の解釈を変える閣議決定を行い、同権利行使のための条件や他国軍への後方支援拡大など安全保障法制を見直す方針などを打ち出した。

(2014-7-3)

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改訂新版 世界大百科事典 「集団的自衛権」の意味・わかりやすい解説

集団的自衛権 (しゅうだんてきじえいけん)

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世界大百科事典(旧版)内の集団的自衛権の言及

【自衛権】より

…また植民地解放戦争において,従属人民の武力行使の権利の合法性を民族自決権の行使にもとめる見解があり,従来の自衛権概念を動揺させている。【高柳 先男】
[集団的自衛権]
 自国が直接攻撃を受けなくとも他国への攻撃を自国も攻撃を受けたものとみなして反撃することのできることを集団的自衛権という。これが新たに国連憲章51条に挿入された理由は,同じく国連憲章がその8章で認める地域的取極(とりきめ)の当事国間の相互援助義務の発動が安全保障理事会の許可を必要とするため,同理事会での大国の拒否権行使の結果その許可がえられない場合にも,集団的自衛権を援用して外部からの武力攻撃に対する相互援助を可能にするためであった。…

【自衛隊】より

…初期の政府見解では自衛隊が実力を行使できる範囲は領土,領空,領海に限定されていたが,その後,侵略を防止するために必要があれば公海上での戦闘も可能とされ,さらに,明らかに日本を攻撃しようとしている場合には,他国領内の侵略軍発進基地を攻撃することまでも許されるとされている。(4)国連憲章51条は集団的自衛権を認めている。集団的自衛権とは,自国と特別の関係にある国に対して第三国が攻撃,侵略を行ったときに,自国が同様に攻撃,侵略されていないので固有の自衛権発動の要件に欠けるにもかかわらず,その第三国に軍事的に反撃する権利である。…

【戦争】より

…このように国連憲章体制は,法上の戦争のみならず事実上の戦争をもその呼称のいかんを問わず放逐し,戦争違法化をさらに徹底させたが,そこにおいてもなお次のような一定の武力行使が例外として許容されている。それらは,(1)平和に対する脅威,平和の破壊および侵略行為に対する国連の軍事的強制措置(第7章,とくに42条),(2)個別的または集団的自衛権に基づく武力行使(51条),(3)第2次世界大戦中の旧敵国に対する特別措置としての武力行使(107条,53条1項但書)の場合である。これらのうち,(1)の軍事的強制措置は国連の集団安全保障体制の中核をなすもので,憲章上の国連軍によってとられることが予定されている。…

【戦争の放棄】より

…これに対して第2次大戦後の国際連合憲章(1945年6月締結,同年10月発効)は,〈すべての加盟国は,その国際関係において,武力による威嚇又は武力の行使を,……慎まなければならない〉(2条4項)として,事実上の戦争をも禁止することで戦争の違法化を大きく前進させた。しかし憲章は,加盟国の〈個別的自衛権〉を承認するとともに新しく〈集団的自衛権〉を認めたために,自衛権を名目とする武力行使の可能性が広がった面のあることは否定できない。
[日本国憲法における戦争の放棄]
 上のような背景を考慮して,日本国憲法における戦争の放棄の特色を考えると,第1に,平和的生存権という新しい人権を保障する目標のもとに戦争放棄が位置づけられていること,第2に,事実上の戦争を含めて広く戦争を放棄していること,第3に,戦争放棄に対する実効的方法として新たに〈陸海空軍その他の戦力〉の不保持と〈交戦権〉の否認をつけ加え,結局,自衛権を名目とした戦争をも否定していること,の3点を指摘することができる。…

※「集団的自衛権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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