国家間の明示的合意を示す一形式で条約の一種である。すなわち,一方の国がある意思を示す公文を相手国に渡し,相手国がその意思を了解する旨の公文を返すという形式を採ることによって,当事国間の合意を図るのである。交換公文の形式を採るのは,一般に主要な条約の補足,条約解釈に関する了解,技術的性質を有する事項の解釈あるいは実施細目を定める場合などであるが,そのほかに交換公文だけで国家間の合意を形成する場合もある。しかしながら,交換公文の簡略性は重要な事項を含まないということを意味するものではない。たとえば,軍備制限に関する重要なものとして,ドイツ海軍の将来の規模を制限したイギリス,ドイツ間の公文(1935)などがあった。
交換公文の形式は,相手国の意思表示の内容をそのままいれて了解した旨を伝えるのが一般的であり,意思表示の部分は同一という場合が多い。たとえば,〈日米相互協力及び安全保障条約第6条の実施に関する交換公文〉をみると,日本はアメリカ合衆国に対して,日本に駐留する合衆国軍隊の重要な配置変更,装備の重要な変更あるいは日本から行われる戦闘作戦行動のために,日本国内の基地を使用する場合には,日本と事前協議をすることが日本の了解であることを示したのに対して,アメリカ合衆国は日本側の意思を示す文全体をそのまま取り入れて,同国もまたそのように了解する旨の交換公文を日本に渡している。
なお,交換公文は,一般に批准を必要としないが,当事国間において批准を必要とする旨を規定する場合にはこのかぎりでない。1923年のドイツ,スペイン間の交換公文は双方の批准を必要としていたし,また,49年のイギリス,デンマーク間,アメリカ合衆国,デンマーク間の交換公文は,一方の批准を条件としていた。交換公文に批准を必要とするか否かの基準はその内容に従うべきであるが,現実には必ずしもそのように処理されていない。国際的合意の約3分の1は交換公文の形式を採っており,今後とも増える傾向にあるといえよう。その理由の第1は,批准を通常必要としないという手続上の手軽さにあるといえる。第2に,国際社会の緊密化が進むなかで,交通,通商などの技術的な事項の処理に適していることである。第3の理由は,議会において大きな議論の対象となり,野党の強い反対によって批准をうることが容易でないような場合に,政府がそれを避けるために,批准を必要としない交換公文の形式を便宜的に利用することである。このように,憲法の基本規定あるいは国民の基本的権利にかかわる重要な外交問題が国会において十分に審議されることなく,政府の恣意的操作によって処理されることは危険である。
執筆者:岡村 尭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
国家間で交わす公式の合意文書。両国の代表間で、同一内容の公文を交わして成立する。内容は、主として技術的性質、たとえば、軍備の制限、領海の画定などに用いられてきたが、そのほか、ある条約の補完のための目的、たとえば、1951年の日米安全保障条約に伴う「吉田・アチソン交換公文」(51年9月)のように、主たる条約の補完のための国際的合意文書としても用いられる。通常、署名のみで成立する。
[經塚作太郎]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…つまり,国際機構が国家あるいは他の国際機構と締結する文書による合意も,今日では条約と考えられている。 条約には,日米安全保障条約のように〈条約treaty〉という呼称のついたものもあれば,協定agreement,憲章charter,規約covenant,規程statute,取極(とりきめ)arrangement,交換公文exchange of notes,議定書protocol,宣言declarationなどの異なった呼称のついたものもある。いずれも,国際法主体間の公式の文書による合意であれば,条約であることに変りはない。…
…国際社会の組織化に伴って,国際機構が当事者となって締結する条約の数が増加する傾向にある。 具体的な条約は個々の場合に必ずしも〈条約treaty〉と呼ばれるわけではなく,〈取極arrangement〉〈協定agreement〉〈憲章charter〉〈規約covenant〉〈規程statute〉〈交換公文exchange of notes〉〈往復書簡exchange of letters〉〈議定書protocol〉〈覚書memorandum〉などさまざまな名称が付せられる。これらのものは名称の差異にかかわらず実質的には条約と同意義であり,その内容によって名称が一定しているわけでもない。…
※「交換公文」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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