く‐もん【公文】
※令義解(718)
職員「大史一人。〈掌
下〈略〉読
中申公文
上〉」
※多聞院日記‐文明一六年(1484)四月二七日「第六に公文、第七に護監、則廻請以合点
領納畢」
③
荘園制で、公文給を与えられて荘園の事務を取扱い、年貢の徴収などを行なった下級
荘官の一つ。
※吾妻鏡‐文治二年(1186)一一月二四日「妨
二惣領之地本
一、責
二煩在庁官人郡司公文以下公官等
一之間、
国司領家所
二訴申
一也」
④
中世、幕府訴訟機関における
開闔(かいごう)執筆。
※
沙汰未練書(14C初)「開闔執筆は、奉行中宿老、引付細々事記録仁也、又公文とも云也」
⑤ 寺院で別当・長吏の指揮下に寺内経営の実務にあたる寺僧。
※醍醐寺新要録(1620)「諸寺座主・検校・別当〈此云二長史一〉上座・寺主・都維那〈此云二三綱一〉行事・勾当・公文〈此云二所司一也云々〉」
⑥ 禅宗寺院のうち、五山、十刹、諸山などの官寺およびそれに準ずる寺院の住持任命の辞令。院宣、綸旨、檀那帖などを公家が出すこともあったが、ほとんど幕府が発行した。官銭を出して官寺住持の資格を得て実際には入寺しない場合の公文は坐公文・居公文(いなりくもん)といい、そのように官銭を得るために出された公文を売公文という。公帖(こうじょう・くじょう)。くうもん。
※蔭凉軒日録‐永享七年(1435)七月二八日「丹波安国寺新命全順西堂并妙光寺新命永玉西堂、公文御判出」
こう‐ぶん【公文】
〘名〙
※中右記‐元永二年(1119)一二月二九日「検非違使府生経則は、長実朝臣申二成因幡公文一之辨済使也」
② 国その他の公共団体の機関が、その
職務に関して発行する文書。公文書。
※議院法(明治二二年)(1889)一七条「
書記官長は〈略〉公文に
署名す」 〔旧唐書‐職官志・二〕
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公文
くもん
古代・中世の公文書(こうぶんしょ)、転じてそれを取り扱う職掌をいう。公文とは本来、律令(りつりょう)制における公式様(くしきよう)文書をさし、語源もそこに由来する。しかし平安時代においては、これらに加えて、大計(だいけい)帳、正税(しょうぜい)帳、朝集(ちょうしゅう)帳、調帳の中央と地方の行政を結ぶ四度(よどの)公文が重視され、公文とはこれらの代名詞のようにさえなった。時代が下るにしたがって寺社や貴族・武家権門の発給する文書も公文とよばれるようになり、家政機関としての公文所が生まれた。しかし、公文がもっとも注目を浴びるのは荘園(しょうえん)制における荘官としての存在である。荘官としてはほかに下司(げし)や田所(たどころ)などがあったが、なかでも公文は下級のものと考えられている。荘園における荘官の職掌は個々の荘園において差異があるが、公文については文書を扱うという点においてはほぼ一貫しており、したがって読み書きのできる人物があてられた。具体的には、年貢納入の際作成される算用状(帳)や結解(けちげ)の作成にあたった。ほかにも勧農(かんのう)などの権能があった。また、公文の実態的な性格としては荘・保の開発領主が多く、所領の一部は荘園領主から給田などの得分(とくぶん)として認められ、それらをてこに在地領主化する者もあった。
[蔵持重裕]
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公文
くもん
①律令制下の公的な文書
②中世,荘園・国衙 (こくが) 領における荘官の一つ
朝廷に対し国司の出す大計帳・正税帳・朝集帳・調庸帳を特に四度公文 (よどのくもん) という。これが転じて平安・鎌倉時代において,貴族の家で文書を扱う役人をさす言葉としても使われた。
本来,現地にいて必要な文書を保管・作成する者をいうが,検注・年貢徴収なども行った。したがって預所 (あずかりどころ) の代官的な性格と,一方では下司 (げし) と同じく名主的・武士的性格をもつ。
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公文
くもん
(1) 律令制下の諸官衙から出す文書の総称。諸国から京都に出す公文のうち大計帳,正税帳,調帳,朝集帳を四度公文という。 (2) 公文を取扱う役人や職員をいう場合も多い。神祇官公文,院庁官の公文,後院司の公文などがあり,貴族の家で文書を扱った役人をさした。 (3) 平安時代末期以降の荘園を管理する荘官の一つ。本来の職務は文書の取扱いであったが,下司,総追捕使とともに三職荘官と呼ばれる場合もあり,領主化してゆく者もあった。
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く‐もん【▽公文】
1 律令時代の公文書の総称。諸国から中央政府に出した大計帳・正税帳・朝集帳・調庸帳を特に四度の公文という。
2 中世、荘園の文書の取り扱い、年貢の徴収などをつかさどった荘官。公文職。
3 中世、幕府の訴訟機関で、記録を担当した役。
4 ⇒公帖
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くもん【公文】
本来は律令制下における公的文書の総称で,とくに大計帳,正税帳,調帳,朝集帳は四度公文として重視された。これら公文を取り扱う所が公文所でその取扱者をも公文と称することがあった。例えば国衙公文所,僧綱所の公文(従儀師の筆頭が選任され,僧綱文書の発給責任者として日付下に署名)があり,公家や社寺でも文書を扱う職掌を公文といった。鎌倉末期の法書《沙汰未練書》には,所務沙汰(しよむさた)の取扱い手続に関して〈開闔(かいこう)執筆ハ奉行中宿老,引付細々事記録仁也,又公文トモ云也〉とあり,幕府の引付の書記も公文といったことが知られる。
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世界大百科事典内の公文の言及
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