刑事事件を扱う手続の一つで,簡易裁判所が公判前に検察官の提出する資料のみに基づき非公開の書面審理をし,財産刑(50万円以下の罰金または科料)を科す手続(刑事訴訟法461条以下)。ドイツの科刑命令Strafbefehlの制度に由来し,日本では1913年公布の刑事略式手続法ではじめて設けられ,のちに旧刑事訴訟法(1922公布)に編入された。第2次世界大戦中には,訴訟促進のためこの手続が短期の自由刑にまで拡張されたことがあったが,戦後,科刑の範囲を一定額以下の財産刑に限定するとともに,日本国憲法の定める公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利(憲法37条1項)や証人審問権(同条2項)との関係で,被疑者が略式手続によることに異議のない旨を慎重に確認する手続を設ける等の手直しを経て,現行法に引き継がれたものである。略式手続には,争いのない軽微な事件につき簡易迅速な処理をはかり訴訟経済に資する一方,非公開で公判に出頭する煩のないことからこれを望む被告人の心理に沿う面もある。現行法では,事後に正式裁判を請求することが認められていることに加えて,事前に被疑者の同意を得ることが必要とされることになったので,憲法の趣旨に反するものではないと考えられている。
手続は,検察官が簡易裁判所に対し,公訴の提起と同時に書面で〈略式命令〉を請求することにより開始される。検察官はあらかじめ被疑者に手続の趣旨を説明し,略式手続によることに異議がないか確かめたうえ,これを明らかにした書面を略式命令請求書に添付しなければならない。通常の手続のような起訴状一本主義(刑事訴訟法256条6項。〈起訴〉の項目を参照)は適用されず,検察官は請求と同時に裁判所が略式命令をするのに必要と考えられる書類・証拠物を提出する。そして裁判所は,これらの資料に基づき事実を認定し,罪となるべき事実,適用法令,科刑等を示した略式命令を発する。ただし裁判所が略式手続によるのを不適法または相当でないと認めるときは通常の手続に移行することになる。略式命令を受けた者または検察官は,14日以内に正式裁判の請求をすることができ,これに基づき通常の公判手続が行われ判決があれば,略式命令は効力を失う。そうでない限り,略式命令が確定し確定判決と同じ効力をもつことになる。現在,刑事事件の処理に占める比重は高く,起訴された人員中,通常手続が年間十数万人であるのに対し,略式手続は200万人を超える。なお,道路交通法違反事件については,捜査書類,略式命令請求書,略式命令等の書式を統合したいわゆる〈交通切符〉と,被告人が検察庁に出頭する〈在庁略式手続〉とを組み合わせて,被告人の出頭から罰金納付までを即日処理する方式が行われている。
→刑事訴訟
執筆者:酒巻 匡
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簡易裁判所が、検察官の請求により、公判前に、書面審理により、略式命令で、100万円以下の罰金または科料を科する手続をいう。この場合には、刑の執行猶予をし、没収を科し、その他追徴など付随の処分をすることができる(刑事訴訟法461条)。公判を開かない簡略な手続であることから、一般に略式裁判あるいは略式起訴ともよばれる。略式手続は、刑事略式手続法(大正2年法律第20号)で初めて採用された。主としてドイツの区裁判所判事の科刑命令による刑事略式手続にその範をとったものとされている。その後、旧刑事訴訟法第7編に収録され、現行刑事訴訟法第6編(461条~470条)に承継された。憲法第37条第1項は、被告人に対し、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を保障している。そこで、この略式手続に関する規定は非公開の書面審理による裁判を認めるものであって、違憲であるという主張もあった。これに対して通説は、略式命令に対しては被告人側に異議の有無を確かめる手続であり、異議のないことを確かめて命令を出しても、被告人側から正式裁判の申立てがあれば、通常の手続で新たに審判する道も開かれているので、それはかならずしも被告人に対し公開裁判を受ける権利を奪うことにはならないとしている。判例もこの手続を合憲としている。簡易裁判所の略式手続によって2016年(平成28)中に罰金または科料に処された者は26万3608人であり、道路交通法違反が65.8%、過失運転致死傷等が17.6%であった。なお、2006年に窃盗、公務執行妨害の罪に罰金刑が新設されたが、2016年に略式手続により窃盗で罰金に処せられた者は6316人、公務執行妨害が708人であった(2017年版『犯罪白書』)。
[内田一郎・田口守一 2018年4月18日]
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…交通違反事件の法的処理には,特別の手続を考える必要がある。
[略式手続と即決裁判手続]
刑事訴訟法の〈略式手続〉は,交通違反の処理に活用されている。この手続では,違反者は裁判所に出頭する手間が省け,裁判所は書面審理だけで裁判できるから負担の軽減になる。…
※「略式手続」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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