人智学(読み)じんちがく(その他表記)Anthroposophie ドイツ語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「人智学」の意味・わかりやすい解説

人智学
じんちがく
Anthroposophie ドイツ語

ルドルフ・シュタイナーが創始した神秘的学説とその教育運動をさす。Anthroposophieは、ギリシア語のanthropos(人間)とsophia(知恵)の合成語である。

 シュタイナーはハンガリーに生まれ、青年期にドイツ観念論哲学に熱中し、ウィーン大学に学ぶ。ワイマールゲーテ全集の編集に携わる。ブラバッスキイ夫人神智学運動に共鳴し、1902年ドイツ神智学協会事務局長に就任するが、その後彼自身の人智学の学説を立て、『オカルト科学』などの著書を発表する。

 1913年シュタイナーは神智学協会から分離独立して、独自の人智学協会を設立する。シュタイナーはヘッケルの系統発生理論、ゲーテの形態学、ダーウィンの進化論の影響を受けつつ、人智学を形成した。ゲーテの植物形態変成論によれば、植物は拡張と収縮を交互に行いつつ、上昇的に変成していく。シュタイナーは、人間の精神もまた、物質の次元から生成、発展して、高次の霊的世界に達することができると考える。すなわち、人は体と魂と霊とから成り、それらは三つの異なる世界に属している。人は「認識の小道」を通って、それぞれの世界を経由し、最後に霊的我を実現するという神秘的学説を打ち立てた。その実現のために彼は科学的方法を取り入れようとするのである。

 シュタイナーは最初スイスのドルナッハを本拠地とし、劇場を建てて劇を上演し、講演をしたりした。1919年にドイツのシュトゥットガルトに学校を設立し、「教育は芸術でなくてはならぬ」という理念のもとに、新しい教育方法を実践し、生徒の自己能力の開発を目ざした。それは6歳から12年間の一貫教育で、成績簿も教科書もなく、人格・精神の形成・陶冶(とうや)に力を注ぐフォルメンformen、オイリュトミーなど独自の芸術教育を行う。シュタイナー学校(バルドルフ煙草(たばこ)工場付属学校として創設されたのでバルドルフ学校ともいう)とよばれるこの学校は、ナチスの時代に閉鎖されたが、1945年に再開され、以後ドイツ国内と、日本を含む世界各地に数多く設立されている。

[久米 博]

『F・カルルグレン著、高橋明男訳『ルドルフ・シュタイナーと人智学』(1992・水声社)』『シュタイナー著、西川隆範訳『人智学指導原則』(1992・水声社)』『子安美知子著『ミュンヘンの小学生』(中公新書)』

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改訂新版 世界大百科事典 「人智学」の意味・わかりやすい解説

人智学 (じんちがく)
Anthroposophie[ドイツ]

ギリシア語のanthrōpos(人間)とsophia(叡智)の合成語。ヨーロッパ思想史の底流にある秘教的esotericな立場を表す用語として,16世紀のころから使われ(フィラレテスEugenius Philalethesの著書《アントロポソフィア・テオマギカ》1650参照),19世紀になると,人類学者トロクスラーIgnaz Paul Vital Troxler(1780-1866)やヘルバルト派の哲学者ツィンマーマンRobert von Zimmermann(1824-98)は一般の学術用語としても用いるようになった。しかし今日では主としてシュタイナーの提唱した立場を意味している。彼によれば,物質文明が一面的に発達し過ぎた今日こそ,秘教内容を公開する必要があるが,人智学は人類学と神智学,もしくは科学と霊界認識を仲介することでこの要求にこたえ,すべての人間の内にまどろんでいる高次の認識能力を開発して,個人の自己実現と社会の進歩のために役立つ方法を提示しようとする。1923年シュタイナーは〈一般人智学協会〉と〈霊学のための自由大学〉(いずれも本部はスイス,ドルナハのゲーテアヌムにある)を設立して,従来の秘密結社の秘教内容を継承しながら,一般の学術団体と同じような,公開された性格の組織を作ろうとした。現在この協会には教育,社会問題,芸術,医学,自然科学,農法などの部門があり,ドイツ,スイス,オランダ,イギリス,北アメリカを中心に普及し,ケーニヒKarl König(1902-66)がスコットランドで始めた障害者のためのキャンプヒル共同体村に代表されるような社会運動も行われている。オランダの人智学はインドネシア独立運動の有力な支えにもなった。日本でも近年,シュタイナー教育,独特な運動芸術であるオイリュトミー,有機的建築様式などを通して,人智学が知られるようになった。
神智学
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百科事典マイペディア 「人智学」の意味・わかりやすい解説

人智学【じんちがく】

ドイツ語Anthroposophie(ギリシア語アントロポス〈人間〉+ソフィア〈叡智〉に由来)の訳。狭義に,神智学から出発したR.シュタイナーの創設になる〈人智学協会〉(1913年)および〈一般人智学協会〉(1923年。本部スイスのドルナハ)の教説と運動の称。神智学の同様の秘儀の公開と霊性の開発を説くが,よりキリスト教的・社会的性格が強い。教育(いわゆる〈シュタイナー教育〉,自由ワルドルフ校),芸術(オイリュトミー),有機農業など活動は広範で,E.シュレー,R.リッテルマイヤー,A.シュワイツァー,H.ベック,カンディンスキーら多様な後継者・支持者がいる。
→関連項目抽象芸術

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「人智学」の意味・わかりやすい解説

人智学
じんちがく
anthroposophy

1913年ドイツの哲学者 R.シュタイナーによって始められた精神運動。彼は神を認識の中心におく神智学を発展させ,認識の中心に人間をたてる。一面では科学的知識を採用しているが,主として神秘術 (オカルト) に基づいて真理をきわめ,救いを求めようとする。すなわち,人間は訓練によって透視力を得ることができ,それによって超感覚的世界を認識し自我を高揚し浄化しうるとする。

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世界大百科事典(旧版)内の人智学の言及

【シュタイナー】より

…ドイツの思想家。人智学の創始者。クラリェベック(現在ユーゴスラビア領)に生まれ,ウィーン工科大学に学ぶ。…

※「人智学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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