株式会社の発行する社債を担保するために,その会社の総財産を目的として設定される担保物権(企業担保法1条,1958公布)。民法の原則によれば,各種の物や権利を担保として融資を受ける場合には,その担保の目的となるものを,個々別々に特定することが必要とされている(担保物権における特定の原則)。民法の特則として認められている財団抵当制度においても,財団を組成する物件を個別に特定することを要求しており,この原則が貫かれているといってよい。ところで企業の総財産は,土地建物,機械器具,借地権,工業所有権等の諸権利,製品・原材料,売掛金債権など多種多様の財産から成り立っており,しかもこれらが日々変動している状況にある。このような財産につき各個別々にこれを特定して担保に供することとすると,その繁雑であるのみならず,これらの財産が有機的に一体となっていることから生ずる価値を担保化することができない。そこで企業を構成するすべての財産につき,それを個々的に特定することなく一括して,しかも日々増減変動する状態で債権の担保に供しうるとしたのが企業担保制度である。戦後の1958年,英米法における浮動担保制度にならって創設されたものであり,特定の原則を排除している点で従来の担保制度とはまったく異質のものといえる。主として大企業によって利用されるが,その例は多くない。
企業担保制度のこのような特質から,企業担保権の設定は,株式会社の総財産についてのみ,かつ原則として株式会社の発行する社債を担保するためにのみ認められ,またその設定変更は公正証書によってすることを要し(企業担保法3条),会社の本店所在地において株式会社登記簿に登記をすることによって効力が生じるものとされている(4条)。企業担保権が設定されると,その時点における会社の財産のすべてにその企業担保権の効力が及ぶが,その後売買等によって会社財産でなくなったものに対しては追及力がないため,その効力が及ばなくなるとともに,新たに会社が取得した財産には当然にその効力を及ぼす。企業担保権者は現に会社に属する総財産につき他の債権者に優先して弁済を受けることができるが,個々の不動産上の担保物権等と競合する場合には,それらの不動産につき個別的に企業担保権の存在が公示されていないためこれに劣後するなど,その効力は一般の抵当権などの担保物権に比較すると弱いものとなっている(2,6,7条)。企業担保権の実行手続は,会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の開始決定により,会社財産を差し押さえ,これを競売することによって行われる(10条以下)。
執筆者:清水 湛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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