企業がそれを構成する不動産(土地,建物),機械器具などの動産,賃借権,特許権などの各種権利その他の財産権を担保として融資を受けやすくするため,これらの物的施設の全部または一部を一括して1個の財団とし,これを1個の不動産あるいは物とみなして抵当権の目的とする制度である。民法の定める抵当制度の特例として,特別法により各種の財団抵当制度が定められている。
一般に企業は,各種の物的施設を有し継続的に活動をしているが,それに必要な資金の借入れ等の融資を受けるにあたり,担保としてこれらの物的施設を提供する必要が生じる。この場合民法の規定によれば,不動産については抵当権,動産については質権の設定ということが一般的に考えられるところであるが,不動産たる土地・建物については,これを抵当権の目的としても引き続きその占有使用を続けることができる(民法369条)のでその限りにおいては問題がない。しかし動産たる機械器具を質権の目的とする場合には,これを債権者に引き渡すことを要する(342,344,345条)ので,継続使用ができない。つまり企業活動の継続を前提とする限り,機械器具の担保化は,事実上困難であるという問題が生じる。のみならず,民法の原則に従えば,これらの物的施設を担保に供する場合には,個々の土地・建物,個々の機械器具ごとに各別に抵当権なり質権の目的とする必要がある。しかし企業を構成するこれらの物的施設は,それぞれ有機的に結合し一体となって企業活動に供されているのであり,それ自体一つの大きなまとまりとしての一体的価値を有するのであるが,各個の物件ごとに担保の目的とすべきものとしたのでは,このような一体的価値を把握できないことになる。そこで民法の原則の例外としてこのような物的施設を企業において継続して使用しながら一体的に担保化することを可能とさせるための方法として財団抵当制度が創設されたのである。
日本で最初に創設された財団抵当制度は,いずれも1905年に公布された工場抵当法による工場財団抵当,鉱業抵当法による鉱業財団抵当,鉄道抵当法による鉄道財団抵当であるが,これらは日露戦争後における企業活動の飛躍的拡大に伴う資金需要に対応するものといわれている。その後,軌道財団抵当(1905年公布の〈軌道ノ抵当ニ関スル法律〉),運河財団抵当(1913年公布の運河法),漁業財団抵当(1925年公布の漁業財団抵当法),港湾運送事業財団抵当(1951年公布の港湾運送事業法),道路交通事業財団抵当(1952年公布の道路交通事業抵当法),観光施設財団抵当(1968年公布の観光施設財団抵当法)がそれぞれ創設された。いずれもそれぞれの事業分野で有効に利用されているが,最も一般的に利用されているのは工場財団抵当制度(工場抵当)である。またこれらの財団抵当制度は社債担保の手段として広く利用されている。
財団には,1個の不動産とみなされるもの(不動産財団)と1個の物とみなされるもの(物(ぶつ)/(もの)財団)がある。工場,鉱業,漁業,港湾運送,道路交通,および観光施設の各財団は前者に属し,鉄道,軌道および運河の各財団は,後者に属する。また財団を組成することができる各種の物的施設については,それぞれの法律に列挙されているが(工場抵当法11条等),財団とすることによりそれらの物的施設のすべてが当然に財団の組成物件となるとしているもの(当然所属主義)と,任意に選択したものを組成物件として財団を組成できるとするもの(選択主義)がある。公益性が強く全一体性の保持が必要とされる鉄道,軌道,運河および道路交通の各財団は前者,他は後者となっている。不動産とみなされる財団については,土地建物と同じように登記所において登記をすることが必要とされる。組成物件を表示した財団目録を提出し財団所有権の保存の登記をすることにより,財団が成立する(9条等)。鉄道,軌道,運河の各財団は,監督官庁の認可にあって成立し,しかもその公示は監督官庁における登録によってされる(鉄道抵当法9,27条等)。
なお企業の物的施設のみならず,その有する総体的財産価値を担保化する方法として企業担保制度(企業担保権)がある。
執筆者:清水 湛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
工業・鉱業・漁業・鉄道その他の交通事業などの企業において、その企業の経営のための土地・建物・機械・器具・工業所有権(産業財産権)などを一括して一つの物として取り扱い、このうえに抵当権を設定する制度。民法では個々の物のうえにしか物権が成立しないので、ある企業全体を担保にするには非常にめんどうで、しかも、企業を有機的な一体としてその価値を把握することが不可能である。そこで、日露戦争後、資本主義が急激に発達した1905年(明治38)に工場抵当法、鉱業抵当法、鉄道抵当法を制定して、財団抵当の制度を創設することによって、企業の担保化を容易にしたのである。その後、軌道ノ抵当ニ関スル法律(1909)、漁業財団抵当法(1925)、港湾運送事業法(1951)、道路交通事業抵当法(1952)、観光施設財団抵当法(1968)などによってこの制度はさらに拡充された。財団を公示するためには財団目録を作成・提出したうえで一定の登記または登録をしなければならない。
[高橋康之]
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… しかし,抵当権は所有者が占有を失うことなく担保価値を利用できる便利な担保権なので,現実の必要に応じて特別法により目的物の範囲が拡張されている。まず第1に,財団の担保価値を一括して把握する財団抵当の制度がある。これは,大規模の企業施設につき,その中に含まれている個々の不動産を担保化するより,一個の集合体として取り扱うほうが担保価値を高めることになるので,金融確保の手段として特別法で認められたものである。…
※「財団抵当」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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