特定の物を債権の担保として提供することを目的とする物権で,物的担保制度のうち制限物権としての法的形態をとるもの。もっぱら債権担保を目的とする点で,目的物の使用収益を目的とする用益物権と区別される。日本民法上は留置権,先取(さきどり)特権,質権,抵当権の4種類が認められているが,商法その他の法律により特殊な担保物権が多数認められている(とくに各種の動産抵当,財団抵当など特別法上の抵当権の発達,整備は著しいものがある)。なお留置権,先取特権は,一定の要件がそろえば法律上当然に成立するという意味において法定担保物権に属し,質権と抵当権は,信用授受の媒介として目的物所有者と債権者との間の設定契約により成立するので約定(やくじよう)担保物権に属する。担保物権が債権担保の機能を果たすのは,(1)債務者からその主観的価値の多いものをとり上げ,それを被担保債権が弁済されるまで占有・留置し,その心理的圧迫を通じて債務弁済を促すという留置的効力,(2)債権者が直接目的物を収益し,これを元本債権の利息に充当するという収益的効力,(3)目的物の占有・利用を担保提供者のもとにとどめ,債務不履行の場合にはそれを換価し,さらにその代金をもって担保権の順位に従って優先的に債権の満足をうるという優先弁済受領的効力,のいずれかの方法によってである。留置権はもっぱら(1)により,先取特権・抵当権は(3)により,そして質権は(1)と(3)を併有することにより(ただし不動産質権だけは(2)により)それぞれ債権担保の目的を果たそうとするものである。とりわけ近代の商品交換経済の下での担保制度としては(3)の方法が最も合理的であり,とくに抵当権が最も著しい整備・発達をとげたのも,ここにそのおもな理由が存する。なお担保物権には,被担保債権の存在を前提としてのみそれが存在しうるという意味の付従性,債権とともに移転し,債権とともに負担に服するという意味の随伴性,債権全部の弁済があるまで目的物全部の上にその効力を及ぼすという意味の不可分性,などの共通の性質がみられる。なお,留置権を除く担保物権には物上代位の効力が共通して認められる。
執筆者:東海林 邦彦
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債務者または第三者の物を担保に供することを目的とする物権をいう。用益物権とともに所有権を制限する物権である。このことは、所有権だけが担保物権の目的たりうるにとどまることを意味するわけではなく、地上権および永小作権も抵当権の目的となりうる(民法369条2項)。民法には、留置権、先取(さきどり)特権、質権、抵当権の4種につき規定が置かれている。前二者は、その発生要件が法律によって規定されており、その要件が充足されれば法律上当然に発生する法定担保物権である。これに対して後二者は、担保物権を設定する契約によって発生するものであり、約定担保物権とよばれる。
担保物権には、債権者が担保物を留置し、そうすることによって債務者に債務の弁済を促すもの(留置権)、債務者が債務を履行しない場合に、担保物を競売するなどして債権者が他の債権者に優先して弁済を受け、そうすることによって担保の機能を果たすもの(先取特権・抵当権)、および、この両者によって担保の機能を果たすもの(質権)がある。これら民法に定めるもののほか、担保物権には、商法上に特別のものがあり、また財団抵当・動産抵当など特別法上の担保物権も数が多い。なお、たとえば1958年(昭和33)に制定された企業担保法によって設けられた企業担保権(1条1項)は物権であることが規定されており(同条2項)、これに対して、78年制定の「仮登記担保契約に関する法律」は、この契約によって担保物権が設定されることを規定していない。しかし、その実質に着目し、仮登記担保も担保物権であるといわれることが多い。
[高橋康之]
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…債権の担保として,債権者が債務者または第三者(物上保証人)から受け取った物を留置して債務弁済を間接的に強制するとともに,弁済されない場合にはその物から優先弁済を受けることのできる担保物権(民法342条)。質権はもともと動産について認められた権利(動産質)であるが,のちに不動産についても認められ(不動産質),さらに債権,株式,各種の無体財産権(権利質)などについても認められるようになったものである。…
…このうちまず,人的担保は債務者以外の者の一般財産を引当てとするもので,保証と連帯債務がそのおもなものである。また物的担保は債務者または第三者(物上保証人)の所有する財産を引当てとするものであって,これにはさらにその法的形式の面からみて,(1)所有権に対する制限物権としての担保物権という構成をとるもの(民法上は,留置権,先取特権,質権,抵当権の4種類の担保物権が認められているほか,民法以外の法律上も特殊な担保物権が多数存在する),(2)担保の目的たる権利(とくに所有権)自体の債権者への移転という形式をとるもの(譲渡担保,仮登記担保,民法579条以下の買戻しなど)の,二つの形態があり,近代ヨーロッパ大陸法およびそれ(とくにフランス法)を継受した日本民法の担保法制は前者を中心とし,他方,英米法におけるモーゲージは少なくとも歴史的には本来,後者を典型的制度として発展せしめたものといえる。 ところで人的担保は法律上すべて債権者と担保者との諾成契約(現実の引渡しなどを要せず,当事者の合意のみで契約が成立すること。…
※「担保物権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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