日本大百科全書(ニッポニカ)「低温殺菌」の解説
低温殺菌
ていおんさっきん
食品を100℃未満(普通60~65℃)の状態を保つことで殺菌すること。L・パスツールがワインの変敗防止のために考案した方法なので、パスツーリゼーションpasteurizationともよばれる。普通、加熱による殺菌は高温にすればするほど短時間で効果がある。しかし、牛乳、肉類、酒類、果汁といった食品では、高温にするとタンパク質の変性、風味の低下などの問題が生ずる。そこで、これらの食品の殺菌法として低温が用いられる。とくに、牛乳の殺菌法として1880年ごろから多くの国で低温殺菌法が用いられている。
加熱による殺菌の条件は、温度と時間の関係があり、また、菌の種類によっても死滅条件が異なる。牛乳の場合、60~65℃で30分という条件で、衛生上有害な病原菌を死滅させ、しかも、保存中の変質の原因となる微生物の大部分が死滅する。ただ、完全にすべての微生物が死滅するわけではないので、貯蔵には冷蔵する必要があり、長期保存には適さない。
日本の牛乳の殺菌については、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」によって規定されている。それによれば「摂氏62度から摂氏65度までの間で30分間加熱殺菌するか、又はこれと同等以上の殺菌効果を有する方法で加熱すること」となっている。実際には、62~65℃で30分以上(LTLT。低温長時間殺菌、低温保持殺菌ともいう)以外に、72~87℃で15秒以内(HTST。高温短時間殺菌)が用いられ、さらに高温の120~150℃で0.5~4秒(UHT。超高温殺菌)がもっとも広く採用されている。UHT法だと殺菌後の生菌数がほとんどゼロで、胞子数もたいへん少なくなっている。そのため、従来の低温殺菌法の牛乳より保存性がよくなっている。さらにロングライフ牛乳(LL牛乳)では125~150℃で1~3秒滅菌し、無菌牛乳にする方法がとられている。
そのほか、低温での殺菌は、清酒の火入れでは50~60℃、肉加工品の湯煮は70~75℃が用いられている。
[河野友美・山口米子]