体性感覚領野(読み)たいせいかんかくりょうや(その他表記)somatosensory area

最新 心理学事典 「体性感覚領野」の解説

たいせいかんかくりょうや
体性感覚領野
somatosensory area

体性感覚野ともいう。体性感覚領野とは,体性感覚を処理する脳領域である。体性感覚somatic sensationとは,触覚tactile sensation,温度感覚temparature sensation,痛覚pain sensationの皮膚感覚cutaneous sensationと,筋や腱,関節などに起こる深部感覚deep sensationからなり,内臓感覚visceral sensationは含まない。体性感覚領野とは,こうした感覚情報を受け取る感覚受容器とその情報を処理する脳部からなる。大脳の体性感覚野には第一体性感覚野primary somatosensory area(SⅠ)と第二体性感覚野secondary somatosensory area(SⅡ)があり,それぞれ頭頂葉の中心後回と頭頂弁蓋部に位置する。

 SⅠはブロードマンの脳地図における3野,1野,2野であり,3野はさらに3a野と3b野に分かれる。3a野は深部感覚を,3b野は触覚,皮膚感覚を主に受け,3b野から1野,さらに2野へと情報の処理が進む階層性がある。1野と2野は前方の運動野と後方頭頂連合野投射する。3b野は投射皮質としての性格が強く,1野,2野は連合野的性格をもつ。3野のニューロン受容野が最も小さく,1野,2野へ進むと大きく複雑になっていくことから,3野が体性感覚のコア領域といえるが,3野,1野,2野は再現される体部位割合が同様(口や手指の領域が大きいなど)で,独立していない一つの体部位再現がある領域として扱われている。

 3a野は主に中心溝の底部,3b野も大部分が中心溝の後壁にあり,脳表面では3野の面積は少ない。中心後回は正中線の内壁部にまで達するが,2野は正中線領域にはないという報告もある。1野の損傷は肌理の粗さの識別を障害し,2野の損傷は形の識別を障害する。3b野の損傷は粗さ,形のどちらの識別も障害する。また,SⅠ損傷で手が不器用になる症状が引き起こされる。運動野との相互連絡が強いため,SⅠ損傷が運動障害を伴うことがある。齧歯類においては,ヒゲの動きの一部をSⅠで制御しているという報告もある。3b野では手指1本の指先に限定された受容野をもつニューロンがあるが,1野,2野では複数の指節,2本以上の指,手掌全体などの大きな受容野のニューロンが多い。

 脳神経外科医ペンフィールドPenfield,W.G.が,患者の中心後回の局所を直接電気刺激し,それにより感覚体験が生じる体部位を示した図がホムンクルスhomunculusとよばれる体部位再現地図である。ヒトでは顔と手の領域が大きいが,齧歯類はヒゲの領域が大きいなどの種差があり,個人差(個体差)も大きい。また可塑性があり,経験などによる特定領域の拡張や,身体部位の切断などによる再構成が起きる。幻肢phantom limbとは,体部位再現地図の再構築により,異なる身体部位への感覚が,失った身体部位への感覚を生じさせることによって起きる。

 SⅡは43野の後部に相当し,島皮質後部の外側にある。頭頂弁蓋部operculum parietale(OP)を四つの領域に分けた場合,OP1に当たると考えられる。腹側には前庭皮質と考えられる部位があり,聴覚野とも隣接している。SⅠとは異なる体部位再現がある。SⅠは基本的に対側性であるが,SⅡは両側性の反応を示すことが多く,受容野も全身に及ぶほど大きなものがある。同側性・両側性はSⅠにおいてもあるが(2野),SⅡの特徴といえる。SⅠからだけではなく視床からも直接の入力を受ける。SⅡの損傷は触覚弁別に障害を与えることが報告されているが,SⅡは両側性の反応を示すことから顕著な障害が確認されにくい。

 中心後回の後部に上頭頂小葉があり,前方に5野,後下方に7野がある。5野は体性感覚連合野とよばれることもあり,2野からの投射を受け,視覚と体性感覚の統合,とくに到達運動などとのかかわりが大きい。7野は視覚が主であるが,聴覚,体性感覚,前庭感覚の連合野であり,空間知覚にかかわる。

 コラム構造とは,垂直方向に並んだニューロンの連鎖が同一の性質をもつことであり,SⅠはそのような構造の集団から成っていると考えられた。しかし,そのようなニューロンの連鎖が必ずしも均一の性質をもっているわけではない。齧歯類のSⅠのⅣ層において,バレルとよばれる樽状の構造が見られるが,そのニューロンが同じヒゲだけに応答するわけではない。

 皮膚感覚受容器cutaneous receptorには,機械受容器mechanoreceptor,温度感覚器thermoreceptor,侵害受容器nociceptorがある。機械受容器は,外部との接触または自己の運動や姿勢の変化によって起こる,圧迫・伸展などの組織の変化を検出し,受容野の広さと刺激への順応性の遅速が異なる4種類の細胞がある。マイスナー小体は機械受容器の4割以上を占め,皮膚の表面近い真皮に存在し,受容野が狭く,順応が速い(速順応性rapid adapting:RA)。20~50Hzの刺激への閾値が低い。接触した対象の細部を検出し,体表面の限局した部分の触覚情報を処理する。メルケル盤は表皮の最深部にあり,受容野は狭いが,順応が遅い(遅順応性slow adapting:SA)。パチニ小体は表皮の深部にあり,受容野が広く境界が不鮮明であり,順応が速い(RA)。250~300Hzの刺激への閾値が低い。ルフィニ終末も表皮の深部にあり,受容野が広いが,順応が遅い(SA)。広い受容野をもつ受容器は,たとえば掌への機械刺激と手の甲への機械刺激を区別しない。機械受容器は指先に行くほど分布密度が高くなり,マイスナー小体とパチニ小体は加齢により減少すると考えられている。

 温度感覚器は身体部位によって密度が異なり,また一定の面積に刺激があると温感が生じると考えられている。冷たいと感じる点である冷点は,温点よりも圧倒的に多い。24~30℃の間では0.5~1℃の弁別が可能であり,体表全体の温度変化ならば0.01℃の差を弁別できる。冷受容器(冷線維)と温受容器(温線維)があり,それぞれ15~33℃,33~45℃の刺激に反応する。これらの範囲外の温度には痛覚が生じる。冷感覚は湿った感じ,重たい感じの錯覚を引き起こし,温刺激と冷刺激を交互に配置した格子に触れると,灼熱痛の錯覚が起きる。

 侵害受容器は,末梢神経の自由終末であり,組織の侵害・損傷により遊離した発痛物質に反応する。痛みはAδ線維とC線維によって伝えられ,前者は機械受容器でもあり,後者は機械刺激に加え,化学的刺激,熱刺激にも反応する。Aδ線維は温感,C線維は冷感も伝える。痛みには馴化がない。島皮質後部が痛みの中枢とみなされている。かゆみは痛覚と共通する点が多く,化学刺激(ヒスタミン)などで引き起こされる。

 深部感覚器と機械受容器の信号は,脊髄の後索から内側毛帯を通り視床腹側後外側核に達する。温度・侵害および一部の機械受容器からの信号は,脊髄後角から脊髄網様体路と脊髄視床路を通り,視床腹側後外側核や視床髄板内核群などの視床核を中継し,SⅠや島皮質へ投射される。 →視覚領野 →神経系 →聴覚領野 →頭頂連合野
〔橋本 照男・入來 篤史〕

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