使はす（読み）ツカワス

デジタル大辞泉

つかわ◦す〔つかはす〕【使はす】

［連語］《動詞「つか（使）う」の未然形＋上代の尊敬の助動詞「す」》お使いになる。
「朝あしたには召して使ひ夕ゆうへには召して使ひ―◦しし舎人とねりの子らは」〈万・三三二六〉

出典　小学館

精選版 日本国語大辞典

つかわ‐・すつかは‥【使・遣】

1. [ 1 ] 〘 連語 〙 ( 動詞「つかう（使）」の未然形に上代の尊敬の助動詞「す」のついたもの ) お使いになる。
   1. [初出の実例]「諾(うべ)しかも 蘇我の子らを 大君の 菟伽破須(ツカハス)らしき」(出典：日本書紀（720）推古二〇年正月・歌謡)
   2. 「朝(あした)には 召して使ひ 夕(ゆふへ)には 召して使ひ 遣(つかは)しし 舎人(とねり)の子等は」(出典：万葉集（８Ｃ後）一三・三三二六)
2. [ 2 ] 〘 他動詞 サ行四段活用 〙 ( [ 一 ]から「人を使いとしておやりになる」「使いを命ずる」のように意味が変化して一語化したものか。一説に、「つかう（使）」をサ行四段に活用させて使役性を持つ動詞としたものとも )
   1. [ 一 ] 上位者（あるいは官など）が命じて、人をやる・行動させる、また、人に命じて物などを他にやる、などの意を表わし、本来、動作者に対する敬意を含む尊敬語であるが、のちには敬意が失われ、派遣する、与えるだけの場合にも用いられる。
      1. ① 使いとして人をおやりになる。御派遣になる。また、上位者の意志で人をおやりになる。
         1. [初出の実例]「人(つかひ)を市辺押磐皇子のもとに使(ツカハシテ)」(出典：日本書紀（720）雄略即位前一〇月（前田本訓）)
         2. 「親しき女房、御乳母などをつかはしつつ、有様を聞こし召す」(出典：源氏物語（1001‐14頃）桐壺)
      2. ② 物などを他へおやりになる。上位者が物を与える。
         1. [初出の実例]「御歌をよみてつかはす」(出典：竹取物語（９Ｃ末‐１０Ｃ初）)
         2. 「又府外に別荘地を遣(ツカハ)すから、場所を望め」(出典：阿部一族（1913）〈森鴎外〉)
      3. ③ 命じて行動させる。おさせになる。
         1. [初出の実例]「弓射都可波須(ツカハス)事は、本より正月の行事なり。〈略〉此の月は、時も涼しく、射礼都可波須(ツカハス)にも便に在り」(出典：類聚国史‐七四・九月九日・大同二年（807）九月九日・宣命)
      4. ④ ( 動作者への敬意が失せて ) 人を派遣する。他へやる。
         1. [初出の実例]「『その田を刈りてとれ』とて、人をつかはしけるに」(出典：徒然草（1331頃）二〇九)
      5. ⑤ 「…てつかわす」の形で補助動詞的に用い、尊大な気持をこめて、「…してやる」の意を表わす。「書いてつかわす」「許してつかわす」
         1. [初出の実例]「支度をして遣(ツカ)はさうから、相応な所を見立ろ」(出典：滑稽本・浮世風呂（1809‐13）二)
   2. [ 二 ] 対話敬語として、尊者に対するかしこまり改まった表現（会話・消息・勅撰集などの詞書を含む）に用いる。物や人を、自己が第三者にやる動作や、第三者が自己にくれる動作を表わし、与える対象を低めることによって表現を丁重にし、聞き手を敬う用法となる。
      1. ① ( 自己などが第三者に ) やります。くれてやります。また、人などを行かせます。
         1. [初出の実例]「あひ知れりける人のまうで来て、帰りにける後に、よみて花にさしてつかはしける」(出典：古今和歌集（905‐914）春下・七八・詞書)
         2. 「はかなきついで作り出でて、消息などつかはしたりき」(出典：源氏物語（1001‐14頃）夕顔)
      2. ② ( 第三者が自己などに ) よこします。くれてよこします。
         1. [初出の実例]「おもしろき桜を折りてともだちのつかはしたりければ」(出典：後撰和歌集（951‐953頃）春中・五一・詞書)

出典　精選版 日本国語大辞典