(読み)ス

デジタル大辞泉 「す」の意味・読み・例文・類語

す[助動]

[助動][せ|せ|す|する|すれ|せよ]四段・ナ変・ラ変動詞の未然形に付く。
相手が自分の思うようにするように、また、ある事態が起こるようにしむける意を表す。
「例の声ださて、随身に歌は給ふ」〈堤・貝合
動作を他に任せておいて結果的にそうなることを表す。…のままにする。…させておく。
「ただ兄弟二人あるものが、兄を討たて、おととが一人残り留まったらば」〈平家・九〉
(多く「たまふ」など尊敬の意を表す語とともに用いられて)尊敬の意を強める。なさる。
「また入ら給ひて、さらにえ許さ給はず」〈・桐壺〉
「うれしやと思ふと告げ聞かするならむとのたまはする御けしきもいとめでたし」〈・八〉
謙譲の意を表す語とともに用いられて)謙譲の意を強める。…申し上げる。→さすしむ
「壺の薬そへて、頭中将呼びよせてたてまつら」〈竹取
[補説]平安時代以降、漢文訓読文の「しむ」に対し、主に和文系統の文章に用いられた。中世以降、下一段化して、現代語の「せる」となる。2は、多く、中世の軍記物語にみられる用法で、受け身の意にとれるものもある。

す[助動]

[助動][さ|し|す|す|せ|せ]《上代語》四段・サ変動詞の未然形に付く。軽い尊敬、または親愛の意を表す。…なさる。
「我が形見見つつしのあらたまの年の緒長く我も思はむ」〈・五八七〉
[補説]「思ふ」「聞く」などに付くときは、「思ほす」「聞こす」となる。また、「着る」「」「見る」などの上一段動詞にも付くが、そのときは「けす」「なす」「めす」の形をとる。「いにしへを思ほすらしもわご大君吉野の宮をあり通ひす」〈・四〇九九〉など。平安時代以降は敬語動詞「おぼす」「めす」「聞こしめす」「つかはす」などの中の構成要素となる。

す[五十音]

五十音図サ行の第3音。歯茎の無声摩擦子音[s]と母音[u]とから成る音節。[su]
平仮名「す」は「寸」の草体から。片仮名「ス」は「須」の末3画の行書体から。
[補説]「す」は古く[tsu](あるいは[ʃu][tʃu])であったかともいわれる。室町時代末にはすでに[su]であった。

す[助動]

[助動][〇|〇|す|〇|〇|〇]動詞・形容動詞連用形接続助詞「て」などに付く。親しみや軽い敬意を表す。ます。
「はりだこ買はう、はりだこ買ひ」〈虎明狂・張蛸
[補説]「さうら(候)ふ」の音変化した「さう」がさらに音変化したもの。

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精選版 日本国語大辞典 「す」の意味・読み・例文・類語

  1. 〘 助動詞 〙 ( 活用は「さ・し・す・す・せ・せ」。四段・サ変動詞の未然形に付く。→語誌 ) 軽い尊敬の意、または親愛の気持を表わす。…なさる。お…になる。
    1. [初出の実例]「八千矛(やちほこ)の 神の命は〈略〉賢(さか)し女を 有りと聞か志(シ)て 麗(くは)し女を 有りと聞こして さ婚(よば)ひに 在り立た斯(シ) 婚ひに 在り通は勢(セ)」(出典古事記(712)上・歌謡)
    2. 「この岳(をか)に 菜摘ま須(ス)児 家告閑(のらせ) 名告(の)ら紗(サ)ね」(出典:万葉集(8C後)一・一)

すの語誌

( 1 )「思ふ」「織る」「聞く」「知る」に付く場合、その未然形が「思ほす」「織ろす」「聞こす」「知ろす」のように音変化を生じた。また、四段活用以外の、「着る」(上一)「見る」(上一)「寝(ぬ)」(下二)などに付く場合、「けす」「めす」「なす」の形が用いられる。「古事記‐上・歌謡」の「股長に 寝(い)をし寝(な)(セ)」、「万葉‐五一四」の「わが背子が著(け)(セ)る衣の針目落ちず入(こも)りにけらしあが情(こころ)さへ」など。
( 2 )上代には盛んに用いられたが、平安時代以後は、わずかに「めす」「きこしめす」「あそばす」などの構成要素として跡をとどめるだけとなった。「みはかし(御佩刀)」「みけし(御着衣)」などもこの類である。


す【す・ス】

  1. 〘 名詞 〙 五十音図の第三行第三段(サ行ウ段)に置かれ、五十音図で第十三位のかな。いろは順では第四十七位で、「せ」のあと「ん」の前に位置する。現代標準語の発音では、舌端と上の歯茎との間付近で調音される無声摩擦音 s と母音 u との結合した音節 su にあたり、これを清音の「す」という。これに対して、「す」に濁点をつけた「ず」は、s に対する有声摩擦音 z の結合した音節 zu にあたるはずであるが、z は普通、摩擦をはじめる前に舌端が歯茎に触れて破裂音を伴い、有声破擦音 dz となる。ただし、音韻としては zu と dzu とは区別されない。「す」の字形は「寸」の草体から出たもの、「ス」の字形は「須」の末三画にあたる部分の行書体からとったものである。ローマ字では「す」に su、「ず」に zu をあてる。

  1. 〘 間投助詞 〙 主として文末、まれに文中の文節末にあって軽い確認の気持を表わす、江戸語特有の助詞。間投助詞「さ」の用法にきわめて近い。元来は助動詞「す(候)」が種々の文末に付いて助詞のように使われたものか。
    1. [初出の実例]「どうもわが所の酒も此所(このごろ)は呑めないス」(出典:洒落本・多佳余宇辞(1780))

  1. 〘 助動詞 〙 ⇒助動詞「せる

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「す」の意味・わかりやすい解説

五十音図第3行第3段の仮名。平仮名の「す」は「寸」の草体から、片仮名の「ス」は「須」の行書体の旁(つくり)の末3画からできたものである。万葉仮名では「須、周、州、洲、酒、珠(以上音仮名)、栖、渚、酢(以上訓仮名)」などが清音に使われ、「受、授、殊、聚、儒、孺(以上音仮名)、簀(訓仮名)」などが濁音に使われた。ほかに草仮名としては「(須)」「(春)」「(寿)」「(数)」などがある。

 音韻的には/su/(濁音/zu/)で、上歯茎と舌との間で調音する無声摩擦音[s](有声破擦音[dz])を子音にもつ。ズとヅとは、室町時代ころから混同され始め、今日では、東北や出雲(いずも)地方、四国、九州の一部などを除いて、合一してしまっている。

[上野和昭]

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