癌性腹膜炎

内科学 第10版 「癌性腹膜炎」の解説

癌性腹膜炎(腹膜炎)

(3)癌性腹膜炎(peritonitis carcinomatosa,diffuse peritoneal carcinomatosis)
概念
 腹膜癌細胞が血行性,リンパ行性,播種性に転移腹膜炎症状を引き起こした状態.胃,大腸,膵,卵巣癌などの腹部臓器を原発とするものが多いが,肺や乳癌などの遠隔転移でもありうる.胃癌の卵巣転移をKruckenberg腫瘍直腸子宮窩への転移をSchnitzler転移と特有の限局性の転移に対し名前がつけられている.
臨床症状
 利尿薬抵抗性の腹水イレウスによる腹痛,悪心,嘔吐,腹部膨満感などがみられる.初期では腹水,腹部腫瘤ともに触知しないが後期では極度の腹水貯留で悪液質となり生活の質が障害される.しばしば胸水,下肢浮腫を併発する.
診断
 確定診断は原発巣の確定と腹水の細胞診によってなされるが腹水の細胞診は陰性のこともある.CTなどの画像所見において貯留した腹水のほか,腹膜腫瘤や肥厚,腸管の浮腫が認められる.
治療
 癌に対する治療は原発巣によって異なる.おもに抗癌薬による化学療法が行われるが,限局性の腹膜転移に対しては手術で切除することもある.癌に対する治療が無効な場合は症状緩和を目的とした治療に切り替える.腹水に対しては水分制限,利尿薬に抵抗性のことが多く,腹腔穿刺にて腹水を除去する.腹水にアルブミンが多く含まれている場合,腹水中からエンドトキシン,癌細胞などを取り除き必要なものだけを血中に戻す,腹水濾過濃縮再静注法(cell-free and concentrated ascites reinfusion therapy:CART)が行われることがある.痛みに対してはモルヒネなどのオピオイドの使用,イレウスに対してはオクトレオチドの持続注射を行う.器質的な消化管狭窄に対しては予後を考慮したうえでバイパス手術を行うこともある.食事がまったく摂取できないときは中心静脈からの経静脈栄養も考慮される.
予後
 原発巣によって変わるが手術,抗癌薬による治療が無効な場合2~6カ月程度.[藤沢聡郎・松橋信行]
■文献
Debrock G, Vanhentenrijk V, et al: A phase II trial with rosiglitazone in liposarcoma patients. Br J Cancer, 89: 1409-1412, 2003.
Saab S, Hernandez JC, et al: Oral antibiotic prophylaxis reduces spontaneous bacterial peritonitis occurrence and improves short-term survival in cirrhosis: a meta-analysis. Am J Gastroenterol, 104: 993, 2009.

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百科事典マイペディア 「癌性腹膜炎」の意味・わかりやすい解説

癌性腹膜炎【がんせいふくまくえん】

腹膜に結節や腫瘍(しゅよう)が発生し,腹水がたまるもの。原発性のものは少なく,胃,腸,卵巣などの近接臓器のが腹膜へ波及して多数の小結節,腫瘤(しゅりゅう)が形成されるものが多い。小結節を生ずるのみで,腹膜組織に著しい変化がなく,腹水がたまらない場合もある。結核性の慢性腹膜炎に比し,発熱なく,腹壁の緊張も少ない。腹水は血性または漿(しょう)液性で,癌細胞の証明により確診される。→腹膜炎

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「癌性腹膜炎」の意味・わかりやすい解説

癌性腹膜炎
がんせいふくまくえん
cancerous peritonitis

厳密な意味での腹膜炎ではないが,癌細胞による腹膜の刺激症状をいう。胃,腸,膵,子宮,卵巣などの癌からの転移が最も多い。症状は,腹部膨満感や腹水,さらに進むと腸閉塞の症状,体重減少,貧血,悪液質が現れる。腹水は炎症性滲出,毛細血管透過性の亢進,門脈うっ血などに低蛋白血症,腎不全または心不全などが重なって起るものであるから,一定の特徴をもたず,血性腹水も必ずしも癌に特有なものとはいえない。診断は腹水の細胞診,腹腔鏡検査による。予後は不良で,抗癌剤の静脈注射,または腹腔内注入によって一時軽快することもあるが,根治は望みがたい。

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世界大百科事典(旧版)内の癌性腹膜炎の言及

【癌】より

…胃壁を越えて後腹膜を浸潤し,神経叢の周辺を侵すと,耐えがたい痛みを生じる。癌が腹腔に広がったのが癌性腹膜炎である。水が貯留して腹が突出したり,腸管が癒着し合い,腸閉塞などを起こす。…

【大腸癌】より

…大腸腺腫症や潰瘍性大腸炎に合併することもある。大腸癌は腸壁を破ったのち隣接臓器に直接に浸潤し,さらに漿膜,腹膜への伝搬(癌性腹膜炎),リンパ節転移,さらに門脈を介して肝臓,肺,副腎,腎臓,膵臓,骨などへの血行転移がみられる。
[大腸癌の症状]
 早期大腸癌は無症状で,たまたま注腸X線検査,内視鏡検査,生検,ポリペクトミー(ポリープ切除術)などで発見される。…

※「癌性腹膜炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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