化学式MgSO4。天然には,1水和物(キーゼル石)と7水和物(エプソマイト)が知られ,そのほか岩塩(とくにカリ塩鉱)中に種々の組成の複塩をつくって含まれる。また海水中に0.18%ほど含まれる。工業的には,海水からとれる〈にがり〉から,またカリ工業の副産物として製造されるが,純粋なものは酸化マグネシウムを硫酸に溶かした溶液を濃縮して得られる。結晶が析出する温度が1.8℃以下だと12分子,1.8~48.3℃だと7分子,48.3~68℃だと6分子,68℃以上では1分子の結晶水をもつ水和物が得られ,そのほか条件によっては2,4,5分子の結晶水をもつ不安定な結晶が生ずることもある。これらの塩を加熱脱水すれば無水和物となる。水和物も無水和物もすべて無色の結晶で,無水和物は比重2.66,融点1185℃。融点付近で熱分解して酸化マグネシウムになる。水に易溶で,100gの水に0℃で26.9g,100℃では68.3g溶け,アルコールにもやや溶ける。1水和物は比重2.57,7水和物は1.68で,後者は[Mg(H2O)6]2⁺とSO42⁻の両イオンがイオン格子をつくり,残った水分子がその間に介在している。これは硫酸亜鉛や硫酸ニッケルの7水和物とも同形である。7水和物は,湿った空気中に保存すれば安定であるが,乾燥した空気中では徐々に風解し,また68℃以上では自分の結晶水に溶けて液化する。水溶液は苦い。製紙工業における充てん剤,染色の媒染剤に用い,また布の不燃加工にも利用する。また古くから緩下剤として用いられるが,これは腸壁からの水分の吸収を妨げる作用があるためで,このため7水和物には瀉利塩(しやりえん)という古名も残っている。
執筆者:曽根 興三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
MgSO4(120.37).無水物のほか,多くの水和物が存在する.一般に硫酸マグネシウムとよぶのは七水和物のことである.天然にはアルカリ金属塩との複塩の形でキーゼル石(MgSO4・H2O),カイナイト(KCl・MgSO4・3H2O),ラングバイナイト(K2SO4・2MgSO4),ブレード石(Na2SO4・MgSO4・4H2O),ファントホファイト(3Na2SO4・MgSO4)として産出する.酸化マグネシウムを硫酸に溶かし,加熱濾過した濾液から七水和物が得られる.赤熱すれば無水物となる.無水物は白色の結晶性粉末.密度2.66 g cm-3.融点1185 ℃.それ以上で分解し,酸素,二酸化硫黄,三酸化硫黄を発生して酸化マグネシウムを生じる.水に易溶.飽和水溶液からは-3.9~1.8 ℃ で十二水和物が,1.8~48.1 ℃ で七水和物が,48.1~67.5 ℃ で六水和物が,67.5 ℃ 以上では一水和物が析出する.七水和物は一般にシャリ塩,エプソム塩,硫マグなどとよばれる無色の斜方晶系結晶.乾燥した空気中で風解する.密度1.68 g cm-3.融点67.5 ℃.水に可溶,エタノールに難溶.豆腐凝固剤,脱水剤,紙の充填剤,媒染剤,医薬品(緩下剤),耐火綿布の製造,陶磁器,化粧品,苦土肥料,人工海水,発酵助剤などに用いられる.[CAS 7487-88-9:MgSO4][CAS 14168-73-1:MgSO4・H2O][CAS 10034-99-8:MgSO4・7H2O]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
マグネシウムの硫酸塩。無水和物のほか、一、二、四、五、六、七および12水和物がある。通常は七水和物をさし、シャリ塩、エプソム塩などの名がある。天然にはキーゼライトとして一水和物の形で産出する。工業的にはキーゼライトの熱水による再結晶、苦汁(にがり)、天然鹹水(かんすい)、カリ工業廃液などからの分別結晶で得られる。飽和水溶液からの晶出温度によって水和状態が異なってくる。1.8℃から48.1℃の間で七水和物が得られる。無色の四角柱状結晶。風解性。エタノール(エチルアルコール)に可溶。水和物を赤熱脱水すると無水和物(白色結晶状粉末)が得られる。紙の充填(じゅうてん)剤、媒染剤のほか医薬品としても用いられる。
[鳥居泰男]
硫酸マグネシウム七水和物 | |
MgSO4・7H2O | |
式量 | 246.5 |
融点 | 67.5℃ |
沸点 | ― |
比重 | 1.68 |
結晶系 | 斜方 |
屈折率 | (n) 1.4554 |
溶解度 | 178g/100g(水40℃) |
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