公事師(読み)クジシ

デジタル大辞泉 「公事師」の意味・読み・例文・類語

くじ‐し【公事師】

江戸時代当事者に代わって訴訟を進めたり、手続きを指導したりすることを業としていた者。種々の弊害を生じたため、幕府はこれを禁止した。出入り師。

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精選版 日本国語大辞典 「公事師」の意味・読み・例文・類語

くじ‐し【公事師】

  1. 〘 名詞 〙 江戸時代、民事訴訟代理を業としたもの。訴訟当事者が、老幼病疾のとき代人となっただけでなく、弁舌の巧みさを買われ、同居親類召使といつわり、訴訟の代理を全面的に依頼されることが多く、さらには借金取立てなどの権利債権者から買いとり、自身原告となって裁判を行なうこともあり、種々弊害を生じた。
    1. [初出の実例]「又は公事師などいへるものを雇ひて名代に出し、公事の懸引を打任せ置」(出典:随筆・世事見聞録(1816)二)

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改訂新版 世界大百科事典 「公事師」の意味・わかりやすい解説

公事師 (くじし)

江戸時代,出入師・公事買などとも呼ばれた非合法の訴訟代理業者。訴訟当事者の依頼を受けて訴訟技術を教示し,書面の代書を行い,内済(ないさい)(和解)の斡旋をするほか,当事者の親族・奉公人あるいは町村役人などを偽称して出廷し,訴訟行為の代理ないし補佐を行って礼金を得,また古い借金証文や売掛帳面などを買い取り,相手方が訴訟による失費や手間をいとい内済すると見通して出訴するなど,裁判・訴訟に関する知識や技術を利用したさまざまな行為を稼業とした。公事宿の主人・下代などが公事師として活動した場合も少なくないが,それ以外にも公事師は町方・在方に多数存在し,江戸では公事宿の〈雇下代〉となっている者もおり,また与力・同心と懇意の者すらあった。幕府は公事師による濫訴や違法な訴訟代理などを抑制・禁止する触を繰り返し発し,また譲(ゆずり)証文による出訴にも種々の制限を加えるなどしているが,実際には幕末まで跡を絶たなかった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「公事師」の意味・わかりやすい解説

公事師
くじし

出入師(でいりし)ともいう。江戸後期、訴訟の際、弁護人の役割を職業とする者。元来訴訟や裁判では、訴訟の当事者が宿泊する公事宿が、訴状の作成から白洲(しらす)での駆け引きなど、訴訟指揮を請け負うのが普通で、ときには双方の公事宿が仲裁者になって解決する能力ももっていたが、訴訟件数の激増に伴い私的に訴訟を補佐する専業者が現れるようになった。そのため公事師といわれるようになった。しかし、どちらかというと巧みな訴訟技術を利用して無知な人々を困らせることも多かった。幕府はしばしば強く取り締まったが、江戸後期の貨幣経済の著しい発展に伴い村の公事師も横行するようになり、幕末の内乱期に幕府の訴訟処理能力が著しく低下すると、村の私的仲裁機関として活躍する者も現れた。

[青木美智男]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「公事師」の意味・わかりやすい解説

公事師
くじし

江戸時代の民事裁判において,当事者に代って訴訟を行う業者。通例は訴訟人が宿泊する宿 (江戸宿,公事宿などと称される) の主人,番頭,手代などをつとめ,訴訟に不慣れな当事者に代って手続を進めた。幕府もまた,彼らが差紙 (奉行所発行の召喚状) の送達などに関与することを認めていたが,現実には,禁令を犯して,訴訟の全面にわたって指導をし,申立て書の代筆,代理出頭はもちろん,判決の引延しかたから,さらには取調べ与力の性格まで教え込む者があった。彼らが,「たくみ成儀をおしへ,礼金など取候者」と三百代言扱いを受けたのも,理由のないことではない。公事宿は,江戸馬喰町のものが名高いが,このほかに,大坂,京都にも存在したことが確認されている。

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