《春秋》の解説書。《春秋》は事実の客観的なしかも簡略な記録にすぎないが,そこに託された孔子の精神,いわゆる微言大義を解明している。書物として整理されたのは,漢代の初めであるけれども,伝承は古く,経学史の通説によると,子夏(しか)の門人の公羊高(くようこう)の作という。論理的な問答体で《春秋》に記録された事実に内在する意味を説き,注目すべき思想が多い。一つは,行為における意志を重視し,結果にかかわりなく〈心を論じて罪を定める〉動機主義である。その二は,君臣よりも父子の関係を優先させ,肉親愛を至上とする。その三は,民衆の生活の安定を政治の第一義とし,暴君は武力で討伐すべしと説く。そのほか,復讐を強調して,父祖の仇は〈百世といえども討つべし〉と主張する。また,夷狄(いてき)も進歩すれば中華に受け入れ,中華の諸国も言動のいかんによっては夷狄に下落させるという特異な夷狄論,俠気の礼賛,文実の二元論,〈経に反して然る後に善なる〉権の評価など,中国思想の根幹にかかる主張が見られる。
執筆者:日原 利国
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…中国の儒学で《春秋公羊伝》をはじめ今文経書(きんぶんけいしよ)を重んずる学問をいう。歴史的には前漢時代と清代後半とに行われたが,特に後者をさす場合が多い。…
…中国における五経の一つ《春秋》の三つの伝(釈義書),《公羊(くよう)伝》《穀梁(こくりよう)伝》《左氏伝》のこと。《春秋》には孔子の理念が託されているとの認識に立ち,その真義を解明しようとして,二つの方法が現れた。…
…孔子の死後は,西河(河北省)で弟子に教え,魏の文侯に仕えて学問的影響を与えた。その《詩経》に関する研究は荀子に受け継がれ,《春秋》の学は公羊高(くようこう)・穀梁赤(こくりようせき)に伝えられて《公羊伝》《穀梁伝》となったという。《儀礼(ぎらい)》の〈喪服伝〉は子夏の作とされ,《礼記(らいき)》の〈楽記篇〉には子夏と魏の文侯との問答の形で,音楽の政治的効用が説かれているが,いずれも彼の学派あるいは後学の徒のものであろう。…
…つまり,世襲制に対して才能に応じて人材を抜擢せよとの考え方である。この思想を最も強く主張するのは《墨子》と《公羊伝(くようでん)》である。《墨子》は主に兄弟・父子・君長の兼愛を説くが,これは世襲制,氏族制からの弱者の解放を根底としている。…
…王莽(おうもう)末年の赤眉(せきび)の乱は,子を官に殺された母の復讐に端を発している。 復讐を人間としての重要な義務と認めることは,早く儒学の経典にみえ《礼記(らいき)》《周礼》《春秋公羊伝》が復讐肯定の思想を記す。中でも《公羊伝(くようでん)》は,最も強くそれを義務づけ,血族的には祖先の被った屈辱は百世代のちの子孫でもはらさねばならないとし,また父が君主による不当な殺戮を受けた場合,子の君主への報復も是認している。…
※「公羊伝」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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