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共同幻想 きょうどうげんそう

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

共同幻想
きょうどうげんそう

吉本隆明の『共同幻想論』 (1968) によって現代日本思想界に定着した概念。古典的マルクス主義の見方では国家 (上部構造) は経済構造 (土台) の反映でしかなかった。経済的支配階級の利益を普遍的な利益として偽装する手段として国家を位置づけていたのである。それゆえ国家は軍隊や警察に代表される暴力装置としての意味しかもっていなかった。これに対して吉本は国家の幻想性に注目する。暴力とは国家の機能にほかならずその本質を説明するものではない。そこで上層構造を幻想領域として措定して,自己幻想 (文学,芸術) と対幻想 (性,家族) と共同幻想 (国家,道徳,宗教) の3つに分類する。吉本によれば国家の起源は「禁制」に求められる。村落共同体の外部に対する「恐怖の共同性」を幻想化することが禁制の効果である。家族の本質を構成する対幻想も血の禁制 (近親相姦の禁止) に支えられている。この血縁という対幻想が共同幻想化されるとき,国家が発生する。このように国家を暴力に還元するマルクス主義の国家論に対して,吉本の共同幻想論は日本的共同体の本質を理解するための糸口を与えたといわれている。

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大辞林 第三版の解説

きょうどうげんそう【共同幻想】

個人を超える集団(家族・社会・国家・民族など)の秩序を支えたり、それへの帰属を理解する観念。また共同で作り上げる精神の成果(宗教・イデオロギーなど)も、こう呼ばれる。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

共同幻想
きょうどうげんそう

国家に代表されるような諸制度が、人間の観念的・心的な働きによって創造されると考える立場をとった場合の、そこで作用する人間の集合的な想像力。
 思想家で詩人の吉本隆明(たかあき)が『共同幻想論』(1968)で提起した概念。そこでは人間の観念領域は「自己幻想」「対(つい)幻想」「共同幻想」という三つの領域に区分される。「自己幻想」は文学や芸術が扱ってきた個体の領域、「対幻想」は家族や男女関係の領域、「共同幻想」は共同体や国家の領域であると説明される。吉本は幻想領域を概念化することで、マルクス主義が扱ってきた経済領域と観念領域の結びつきを、相互に切り離した状態で考察できるようになると考えた。
 すなわちマルクス主義における観念領域を表す上部構造を「手垢がついている概念」であるとして、それを「全幻想領域」といいかえる。その構造の解明はどのように可能になるのかという問題意識から、三つの幻想領域が概念化された。また「共同幻想は個体の幻想とは逆立する」といった表現に、マルクスのフェティシズム論(人間が作り出した商品世界に人間自身が従属させられる状況)の影響をみることもできよう。
 あるいはフランスの社会学者エミール・デュルケームによる集合表象(個人表象と区別され、それ独自のまとまりをもつと考えられる集団の観念)との類似性も指摘できる。同様に日本では、中村雄二郎による「共通感覚」、廣松渉による「共同主観」などが近しい領域を指し示す概念として使用されている。
 吉本と経済人類学者の栗本慎一郎(1941― )との対談『相対幻論』(1983)では、カール・ポランニーの提示した実在的(物的要素を統括する上位の次元)視座との交錯が確認された。ドイツ中世史学者の阿部謹也(きんや)が指摘するように日本の「世間」と西欧の「社会」は別物であるとするならば、西欧「社会」を対象に構想される諸概念からは抜け落ちた「情念」の投影が吉本の「共同幻想」概念に含まれる点に、その独自性をみることも可能である。だが文化人類学的資料の解釈は多様であり、例えば「トーテミズム」と「ネーション・ステート(国民国家)」を「共同幻想」として同列に論ずることが可能なのかどうか、疑問の声もある。[織田竜也]
『『吉本隆明全著作集』全15巻(1968~74・勁草書房) ▽吉本隆明著『共同幻想論』 ▽吉本隆明・栗本慎一郎著『相対幻論』(以上角川文庫)』

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