ポランニー(読み)ぽらんにー(英語表記)John Charles Polanyi

デジタル大辞泉 「ポランニー」の意味・読み・例文・類語

ポランニー(Polanyi)

(Karl ~)[1886~1964]ハンガリー生まれの経済学者。主として米国で活躍。物資の交換形態として互酬・再分配・交換の3様式を摘出し、市場社会と非市場社会に考察を加えて経済人類学を体系化した。著「大転換」「経済と文明」など。
(Michael ~)[1891~1976]ハンガリー生まれの物理化学者・哲学者。の弟。主として英米で活躍し、結晶構造などの研究を行った。哲学に転向したのちは、暗黙知の提唱など独自の理論を展開。著「暗黙知の次元」「個人的知識」など。

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精選版 日本国語大辞典 「ポランニー」の意味・読み・例文・類語

ポランニー

  1. [ 一 ] ( Karl Polanyi カール━ ) ハンガリー生まれの経済人類学者。ナチスに追われ、英米で活躍。物資の交換形態として互酬・再分配・交換の三様式を摘出し、市場社会と非市場社会に考察を加えて経済人類学を体系化。著に「大転換」「経済と文明」などがある。(一八八六‐一九六四
  2. [ 二 ] ( Michael Polanyi マイケル━ ) ハンガリー生まれの物理化学者、哲学者。[ 一 ]の弟。主として英米で活躍。金属結晶塑性変形などを研究し、戦後は哲学者としても活躍。非言語を重視して「暗黙知」に基づく特異の知識論、科学論を展開した。著「個人的知識」「暗黙知の次元」など。(一八九一‐一九七六

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ポランニー」の意味・わかりやすい解説

ポランニー(John Charles Polanyi)
ぽらんにー
John Charles Polanyi
(1929― )

カナダの化学者。ドイツのベルリンに生まれる。父は物理化学者(のち社会科学者)のミヒャエル(マイケル)・ポランニー、伯父(おじ)は経済学者のカール・ポランニーである。1933年イギリスに移住、マンチェスター大学で化学を学び、1949年に卒業、1952年同大学で博士号を取得した。その後、カナダ国立研究評議会研究所の研究員、プリンストン大学の研究助手を経て、1957年トロント大学の助教授となり、1960年準教授、1962年教授に昇格した。カナダ自然科学者・人文科学者委員会の設立メンバーで、その委員長も務めている。また1989年(平成1)から1992年まで岡崎国立共同研究機構分子科学研究所の名誉顧問を務めた。

 ポランニーは、化学反応がどのような力によって引き起こされるかを研究した。気体放電によって、水素原子と塩素分子から塩化水素が生じる化学反応を詳細に調べた結果、反応のエネルギーが分子の振動および回転の形に蓄積される割合の測定に成功した。この化学ルミネセンスを用いた測定値はD・R・ハーシュバックとY・T・リーが研究を進めていた分子線交差法による測定値と一致していた。彼の化学ルミネセンスの研究は、のちに化学レーザーを生み出す基礎理論となった。ポランニーは、ハーシュバックおよびリーとともに「化学反応の素過程の動力学的研究」に貢献したとして、1986年のノーベル化学賞を受賞した。

[編集部 2018年11月19日]

『J・I・スタインフェルド他著、佐藤伸訳『化学動力学』(1995・東京化学同人)』


ポランニー(Michael Polanyi)
ぽらんにー
Michael Polanyi
(1891―1976)

ハンガリーの物理化学者、社会科学者。ブダペストの生まれ。経済人類学者カール・ポランニーの弟。息子は化学者のジョン・ポランニー(1986年ノーベル化学賞受賞)。1917年にブダペスト大学で博士号を取得後、ベルリンのカイザー・ウィルヘルム研究所(現、マックス・プランク研究所)所員となる(1923~1933)。1933年にナチスの人種迫害を避けてイギリスへ渡り、マンチェスター大学の物理化学教授となる。その後、社会科学に移り、1948年に同大学の社会科学教授、1959年にオックスフォード大学の主任研究員を歴任した。おもに、結晶構造や反応速度論の研究を行った。社会科学に移ってからは、妖術(ようじゅつ)や呪術(じゅじゅつ)を対象とし非合理的な主張をなした。おもな著書には『原子反応』(1932)、『Personal Knowledge』(1958)、『人間の研究』(1959)、『暗黙知の次元』(1966)、『知と存在』(1969)などがある。

[川野辺渉 2015年11月17日]

『佐藤敬三訳『暗黙知の次元』(1980・紀伊國屋書店/高橋勇夫訳・ちくま学芸文庫)』『沢田允夫・吉田謙二他訳『人間の研究』(1986・晃洋書房)』『大塚明郎・栗本慎一郎他著『創発の暗黙知――マイケル・ポランニーその哲学と科学』(1987・青玄社)』


ポランニー(Karl Polanyi)
ぽらんにー
Karl Polanyi
(1886―1964)

ハンガリー生まれの経済学者。主としてアメリカで活躍。ブダペスト大学その他で哲学と法学を学び、第一次世界大戦後ウィーンで雑誌の編集に従事。ナチスに追われてイギリスに移り、オックスフォード大学の課外活動常任委員会の講師その他を経てコロンビア大学客員教授となり、経済史を講義。物資の交換形態として、互酬性、再分配、(市場)交換の3様式を摘出し、交換形態の分析により、近代の市場経済社会と、その他の非市場社会とを同時に扱うことを可能にした。近代西欧の市場経済が人類史上、特殊であることを示し、経済人類学の発展に多大の貢献をした。主著として『大転換』(1944)、『ダホメ奴隷貿易』(1966/邦訳名『経済と文明』)などがある。なお、物理化学者、社会科学者のミヒャエル(マイケル)・ポランニーは弟、化学者のジョン・ポランニー(1986年ノーベル化学賞受賞)は甥(おい)である。

[豊田由貴夫 2019年1月21日]

『栗本慎一郎・端信行訳『経済と文明』(1975・サイマル出版会/ちくま学芸文庫)』『吉成英成・野口建彦・長尾史郎・杉村芳美訳『大転換――市場社会の形成と崩壊』(1975・東洋経済新報社)』『玉野井芳郎・栗本慎一郎・中野忠訳『人間の経済』Ⅰ・Ⅱ(1998・岩波書店)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ポランニー」の意味・わかりやすい解説

ポランニー
Karl Polanyi
生没年:1886-1964

経済人類学の創始者の一人。科学哲学者M.ポランニーの実兄にあたる。ハンガリー名,ポラーニ・カーロイ。ウィーンに生まれカナダで没。ブダペスト大学などで哲学,法学を学んだ。ブダペスト大学時代には革新的文化運動を指導しハンガリー知識層に大きな影響を与え,第1次大戦後はウィーンで金融雑誌の編集に携わる。1933年,ファシズムを逃れてイギリスに渡り,ロンドン大学などの講師を務めながら研究活動,社会運動を続けた。第2次大戦後アメリカに招かれコロンビア大学の客員教授(1947-53,1955-56)を務めるとともに,研究の中心を経済人類学へと移し注目すべき業績を上げた。

 彼によると,人間の経済は,物的な欲求を満たすための人間とその環境のあいだでの相互作用が,社会的に制度化された過程である。一般に経済は社会の中に〈埋め込ま〉れていたのであり,それゆえ産業革命を経て〈自己調整的システム〉として成立した市場経済はむしろきわめて特殊な経済であった。ここから彼は,希少性と最大化という市場経済的枠組みを普遍的なものとみなす新古典派流の形式的な経済分析を批判し,制度化された過程として経済をとらえる実体的な経済分析を主張した。さらに,非市場経済の精力的分析をとおして,市場経済の三要素とされる交易,貨幣,市場の起源を,それぞれ独立のものとして明らかにするとともに,人間の経済一般の主要な統合形態として互酬,再分配,交換の三つをあげて,概念化した。主著《大転換Great Transformation》(1944),《人間の経済》(遺稿集,1977)。
執筆者:


ポランニー
Michael Polanyi
生没年:1891-1976

ハンガリーに生まれ,アメリカ,イギリスで活躍した物理学者,哲学者。ハンガリー名はポラーニ・ミハーイPolányi Mihály。経済人類学者カール・ポランニー(ポラーニ・カーロイ)の弟。ブダペストで教育を受けたのち,ベルリンのカイザー・ウィルヘルム研究所で物理化学の研究に従事,1933年ナチの台頭とともにアメリカに亡命,イギリスに渡ってマンチェスターのビクトリア大学物理学教授。金属結晶の塑性変形に関する研究などを手がけたほか,科学と社会をめぐるJ.D.バナールとの論争が知られる。48年ころから社会哲学に転向,論理実証主義的経験論に対する批判的立場をその主著《Personal Knowledge》(1958)などで打ち出した。これはN.R.ハンソン,T.S.クーン,P.K.ファイヤアーベント,S.E.トゥールミンらの姿勢の先駆となるものであった。しかし彼らが多かれ少なかれウィトゲンシュタインの言語依存的立場を共有しているのに対して,ポランニーは,《暗黙知の次元》(1966)に見られるように,むしろ言語の背後にあって言語化されない知識=暗黙知tacit knowledgeに焦点を当て,それらが共同体のなかで共有される(この点でクーンの〈パラダイム〉に似る)ことによって,普遍的認識の基盤を保証する,という独自の見解をとる。
執筆者:

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百科事典マイペディア 「ポランニー」の意味・わかりやすい解説

ポランニー

ハンガリー生れの物理化学者,哲学者,社会学者。経済学者カール・ポランニーの弟マイケル。ブダペスト大学で医学を学び,第1次世界大戦中は軍の診療所に勤務。戦後は化学に転じ,1923年―1933年カイザー・ウィルヘルム化学研究所員として化学反応機構や反応速度論などに業績を残す。1933年イギリスに渡り,マンチェスター大学教授(物理化学のち社会学)。科学研究において形式化できない暗黙知が重要であることを説き,科学哲学に大きな影響を与えた。また,社会学やシステム論において,下位レベルに還元できないものを重視し,創発と呼んだ。

ポランニー

ハンガリーに生まれ,第2次大戦後は主に米国で活動した経済学者。物理学者,哲学者のマイケル・ポランニーの兄カール。いわゆる未開社会の経済から近代の資本主義経済までを視野に収めた経済史を論じ,経済や交換に関する人類学的研究に大きな影響を与えた。主著に《大転換》《人間の経済》。
→関連項目互酬性

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世界大百科事典(旧版)内のポランニーの言及

【市】より

…いろいろな形態の市が,古代から世界のほとんどの社会に認められる。K.ポランニーによれば,人間社会の歴史全体からみると,生産と分配の過程には,三つの類型の社会制度が存在しており,古代あるいは未開の社会から現代諸社会まで,それらが単一にあるいは複合しながら経済過程の機構をつくってきた。それらは,(1)互酬reciprocity 諸社会集団が特定のパターンに従って相互に贈与しあう,(2)再分配redistribution 族長・王など,その社会の権力の中心にものが集まり,それから再び成員にもたらされる,(3)交換exchange ものとものとの等価性が当事者間で了解されるに十分なだけの安定した価値体系が成立しているもとで,個人間・集団間に交わされる財・サービス等の往復運動,の3類型であり,それぞれの類型は社会構造と密接に連関をもって存在している。…

【贈物】より

…つまり,互酬(相互的贈答システム)の合理性は,諸個人にかかわるよりも,社会全体の有機的な統合の成否にかかわるものであるといえよう。
[ポランニーの解釈]
 ここから,贈物が功利的な財の交換と区別されるべきであることは明らかである。これをふまえて経済史学の分野ではK.ポランニーが,互酬のシステムを市場における交換との対比において定式化した。…

【経済人類学】より

…そしてそこから経済人類学の新しい潮流が生まれた。その一つはK.ポランニーによるものである。ポランニーは《大転換》(1944)およびその後の著作活動において,経済学が非市場社会にはまったく適用できないと主張するにとどまらず,市場社会についてすら既存の経済学では一面的にしか説明できないとして,経済学そのものを批判し,経済に関するより深く広いパースペクティブを経済人類学に求めた。…

【交換】より

…これに対して経済的動機のみにもとづく交換は,市場や貨幣の制度が発達した社会においてはじめて広まった特種な交換とみることができる。K.ポランニーによればこの意味での交換(市場交換)は,互酬(贈与),再分配(貢租とその分配),家政(自給自足)と並ぶ人間の生活資料調達法のひとつであったが,19世紀の市場(貨幣)経済体制のもとで特異な発達をとげ,経済の領域だけでなく社会全体をその網の目に絡み込む勢いであったという(《大転換》)。 市場経済を対象とする経済学の理論的分析では当然のことながら経済的動機以外の交換動機は初めから視野の外におかれる。…

【社会化】より

…(2)市場の社会化 市場社会において市場の自己調整的作用の破壊的・攪乱的影響から社会を防衛するために,市場がさまざまな社会的措置にとりまかれるようになることをいう。K.ポランニー《大転換》(1957)に依拠した観点である。これによれば,自己調整的市場によって支配された社会は,19世紀以来,社会の実在としての人間,自然,生産組織の防衛を意図する〈社会〉の側からの絶えざる反撃を受け,しだいに市場の自己調整的機能は制限されるにいたった。…

【化学】より

…われわれの身のまわりのもの,われわれ自身,われわれの住みかである地球,その地球の外に広がる宇宙,これらを構成する物質の,合成,分析,構造や性質の解明,さらには物質相互の間の反応を研究する自然科学の一部門。化学では単体も化合物も扱うが,どちらの場合も比較的単一な組成をもつ物質を扱う場合が多い。その対象がきわめて広範なので,化学をいくつかの分野に分けて考えるのが便利である。最も一般的な分類は,物理化学,有機化学,無機化学,生物化学,応用化学の対象・方法別の5分野への分類である。…

【反応中間体】より

…化学反応が進むとき反応物と生成物の途中に生成する化学種を反応中間体または中間体という。たとえば,塩素分子Cl2と水素分子H2の混合気体から塩化水素分子HCl気体を生ずる爆発反応はふつう式(1)のように書かれる。 Cl2+H2=2HCl  ……(1) しかし,反応が実際にどのように進んでいるかという反応機構を調べた結果,次のようなことが結論されている。すなわち,反応が進んでいる混合気体中では,塩素原子Clや水素原子Hのような反応中間体が,反応式(2)や(3)のようなものとなる素反応に従って反応を進め,最終的には式(1)の反応が起きている。…

【化学】より

…われわれの身のまわりのもの,われわれ自身,われわれの住みかである地球,その地球の外に広がる宇宙,これらを構成する物質の,合成,分析,構造や性質の解明,さらには物質相互の間の反応を研究する自然科学の一部門。化学では単体も化合物も扱うが,どちらの場合も比較的単一な組成をもつ物質を扱う場合が多い。その対象がきわめて広範なので,化学をいくつかの分野に分けて考えるのが便利である。最も一般的な分類は,物理化学,有機化学,無機化学,生物化学,応用化学の対象・方法別の5分野への分類である。…

【反応中間体】より

…化学反応が進むとき反応物と生成物の途中に生成する化学種を反応中間体または中間体という。たとえば,塩素分子Cl2と水素分子H2の混合気体から塩化水素分子HCl気体を生ずる爆発反応はふつう式(1)のように書かれる。 Cl2+H2=2HCl  ……(1) しかし,反応が実際にどのように進んでいるかという反応機構を調べた結果,次のようなことが結論されている。すなわち,反応が進んでいる混合気体中では,塩素原子Clや水素原子Hのような反応中間体が,反応式(2)や(3)のようなものとなる素反応に従って反応を進め,最終的には式(1)の反応が起きている。…

※「ポランニー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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