目的に合致していると想定される事例を選んで調べる社会調査手法。典型的、あるいは代表的な対象について観察やインタビューなどで深く研究する事例調査(ケース・スタディ)に用いられることが多い。アスベスト禍、老朽住宅、水俣病被害など対象が限られた場合に、その全体状況を洞察的に把握し、分析・比較する目的で用いられる。恣意(しい)的に特定対象を選ぶ有意抽出法をとるため、対象の選び方がどうしても調査企画者の主観に左右され、調査対象が対象全体を表しているという科学的根拠はない。したがって、典型調査は定量的調査ではなく、質的調査(定性的調査)の一つである。
社会調査には典型調査のほかに、国勢調査のように調査対象をすべて調べる全数調査complete surveyと、対象から無作為にサンプルを抽出して全体を推定する標本調査sample surveyがある。全数調査は調査結果の誤差が小さく信頼性は高いが、調査のための時間、費用、労力などが膨大にかかる短所がある。標本調査は全数調査に比べ誤差が生じやすく、回収率が低いと信頼性が低下する欠点があるが、調査が容易で、時間や費用を節減できる利点があり、多くの経済統計が標本調査の手法をとっている。全数調査、標本調査とも統計的手法をとるので統計的社会調査とよばれる。これに対し典型調査は事例的社会調査である。
[編集部]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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