上級学校への入学出願に際して、下級学校の校長は出願する生徒の学業成績、性格・行動、出欠状況などを、指導要録に基づいて記載した書類を提出するが、この書類を通常、内申書とよんでいる。法律用語としては調査書という名称が用いられている。
公立の高等学校では入学者選抜における合否判定を、通常、学力検査の成績と内申書に記載された学業成績などの両方を勘案して行っているが、その片方のみ、あるいはその両者をまったく使用しない場合もある。そのほかに面接の結果を加えている場合もみられる。大学の入学者選抜においても、高等学校より提出された内申書を合否判定の資料としているが、高等学校の場合ほど一般的には重視されていない。
高等学校の入学者選抜に用いられる内申書に関しては、学校教育法施行規則第78条において、「校長は中学校卒業後、高等学校、高等専門学校その他の学校に進学しようとする生徒のある場合には、調査書その他必要な書類をその生徒の進学しようとする学校の校長あて送付しなければならない」と定め、内申書の作成・送付を校長の責任において行うものとしている。また同90条では、高等学校の入学者選抜において、前記の「調査書その他必要書類」と選抜のための学力検査の成績等を資料とすることを定めているが、実際には高校入試の多様化の進展に伴いその例外も多い。
[宇留田敬一・下村哲夫]
1966年(昭和41)の文部省(現文部科学省)初等中等教育局長通達によって、これまで高等学校の入学者選抜においては、内申書の尊重(重視)と、その信頼性、客観性の向上が指導助言されてきた。
このような内申書重視の理由としては、(1)1回の学力検査で合否判定を行うことは非合理であり、中学校における長期の学業成績こそ判定資料とすべきこと、(2)学力検査だけの場合には、過度の受験競争が心配されること、などが指摘されている。しかし、内申書の学業成績はそれぞれの学校ごとに行われているため、学校間に格差があること、評定の信頼性や客観性に問題があることなど、今後の検討が必要とされている。
[宇留田敬一・下村哲夫]
一方、1999年(平成11)の中央教育審議会「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」の答申は、臨時教育審議会の改革路線の一環として高校教育改革を位置づけ、各学校の特色を生かした選抜方法の多様化などの高校入試改善が提案され、着実に進行している。また、かねてから内申書がもつ問題点として指摘されてきたその非公開性は、生徒本人や保護者から内申書の開示を求めるケースが増え、1990年代以降は情報公開の進行に伴い、一部開示、あるいは全面開示を認める例が出ている。1993年2月に大阪府高槻(たかつき)市で内申書開示請求訴訟が起き、その間、大阪府は内申書の高等学校における全面開示を認め、高槻市内申書開示請求訴訟も1996年に大阪高裁に部分開示が認められ終結した。その後、1999年11月に大阪高裁が高裁レベル初の内申書全面開示を認める判決を下している。
[宇留田敬一・下村哲夫]
『佐藤章著『ルポ=内申書――見えない鎖』(1985・未来社)』▽『今橋盛勝他編『内申書を考える』(1990・日本評論社)』▽『教育情報開示弁護団編・刊『高槻市内申書開示請求事件の記録』(1991)』▽『今橋盛勝著『内申書の開示と高校入試の改変』(1993・明治図書出版)』▽『坂本秀夫著『教育情報公開の研究』(1997・学陽書房)』▽『吉田辰雄編著『21世紀に向けた入試改革の動向』(1998・文化書房博文社)』
出身学校から進学志望校へ送付される進学用資料としての報告書。法制上は〈調査書〉と呼んでいる。これを受理した高等学校等では,内申書に記載されている学習成績,行動・性格の記録のほか,学力検査の成績等を資料として,入学者の選抜を行っている。歴史的には,第2次大戦前から一貫して中等学校入試,受験準備教育の激化との関連で問題となってきた。すなわち,進学志望者が1910年代から20年代にかけて急増し,〈入試地獄〉が出現したため,文部省は1927年,中学校令施行規則を改正し,入学者選抜等のいっさいの試験を廃止し,人物考査,身体検査とともに選抜資料として内申書の採用を定めたことに始まる。しかし,29年には大阪で内申書偽造事件が表面化したこともあって,〈筆記試問〉が復活した。ところが,39年に筆記試験が再び廃止され,内申書が重視されることとなり,43年には学籍簿の記載をそのまま転記することとされた。戦後の新制高等学校の場合,当初,入学後の指導のためにも活用することが予定されていたが,56年の学校教育法施行規則改正によって,選抜のための資料としての性格が強くなった。66年の文部省通達はこの措置をさらに推し進め,高校入試において学力検査実施教科数の削減を示唆すると同時に,内申書重視の方向を打ち出した。内申書記載内容が高校進学を妨げたとして,72年東京都千代田区立麴町中学校の卒業生が損害賠償訴訟を起こし,〈内申書裁判〉としてそのあり方が法廷で問われることになった。
執筆者:浪本 勝年
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