冷凍加工して長期の保存性をもたせた食品をいう。日本冷凍食品協会の自主的取扱基準における冷凍食品の定義は「前処理を施し、品温が零下18℃以下になるように急速凍結し、通常そのまま消費者(大口需要者を含む)に販売されることを目的として包装されたもの」となっている。また、食品衛生法では生菌数の規格や加工基準、保存基準(包装して零下15℃以下で保存)を規定している。しかし、加工素材として利用される冷凍魚、冷凍肉、冷凍果実や冷凍卵などは「冷凍品」とよび、「冷凍食品」と区別されている。なお、冷凍食品にして食品を保存することを一般にフリージングとよんでいる。
[河野友美・山口米子]
食品を凍結させて保存することは、古くからエスキモーなどが天然の低温を利用し、食料を氷結させて用いた生活の知恵に由来する。寒剤などを用いて人工的に低温をつくりだし、食品を凍結することができるようになったのは16世紀になってからである。最初の冷凍機は1834年イギリスで開発され、フランス人シャルル・テリエCharles Tellierが牛肉や羊肉の冷凍を試み、1877年と78年にフランス―アルゼンチン間の冷凍輸送を行った。1880年ごろにはオーストラリアやニュージーランドからイギリスやフランスへの畜肉の冷凍輸送が実用化している。魚類の冷凍については1860年代にアメリカで開発され、イギリスへサケの冷凍輸送を成功させた。1900年代になって第一次世界大戦が冷凍技術の進歩を促進させ、それまでの緩慢凍結法とは違う急速凍結法が開発された。その結果、品質のよい冷凍食品がつくられるようになった。
日本では1909年(明治42)にアメリカから帰国した中原孝太が冷凍魚をつくったのが最初だとされている。食品事業として始めたのは葛原猪平(くずはらいへい)で、20年(大正9)に北海道で冷凍魚を製造している。35年(昭和10)に東京と大阪のデパートで冷凍魚が発売されたが不調に終わった。この時代の日本の冷凍法は緩慢凍結法であった。第二次世界大戦後、冷凍法も改良され、学校給食やレストランなど業務用を主体として冷凍食品が普及していったが、一般家庭でも使用されるようになったのは昭和40年代である。日本での冷凍食品消費の特徴は、肉、魚、野菜といった素材よりも調理食品が中心になっていることである。
[河野友美・山口米子]
冷凍食品は、初期のゆっくりと凍結する緩慢凍結法から、のちに急速凍結法に変化することによって、品質が著しく向上した。この両者の違いは、解凍したときに出るドリップ(液汁)の量の差である。緩慢凍結法に比べ、急速凍結法ではドリップの流出はたいへん少ない。ドリップが出るということは、凍結中に組織や細胞が破壊されたためで、うまみの流失や歯ざわりの変化、形くずれなどの原因となる。緩慢凍結法では、食品が凍り始める温度(凍結点)から、食品の中心部まで凍結するまでの温度帯(最大氷結晶生成帯)を通過するのに時間がかかる。そのため、氷の結晶が大きく成長し、細胞や組織を破壊することになる。一方、急速凍結法だと氷の結晶が微細であるため、細胞内に氷の結晶が納まるので、組織の破壊が少なくてすむ。
凍結法にはいくつかの方法があり、おもなものをあげると次のとおりである。
(1)接触板式凍結法(コンタクト凍結法) 冷却された金属板に食品を直接接触させて凍結する方法。零下40℃付近の低温が得られる。
(2)エアーブラスト凍結法 冷風を食品に当てて凍結するもので、零下35~零下40℃の温度帯が用いられ、日本でもっとも一般に利用されている方法である。
(3)浸漬(しんし)式凍結法 食品を冷媒の中に浸漬して凍結する方法で、鶏肉や七面鳥に利用されている。
(4)液化ガスによる凍結法 液体窒素、液化炭酸ガス、液化天然ガスなどの液化ガスが蒸発するときに得られる超低温の気化潜熱を利用して凍結するもので、液体窒素を用いると零下196℃、液化炭酸ガスでは零下79℃、液化天然ガスで零下162℃という低温が使える。この方法はコストがかかるが凍結時間がたいへん短く高品質の冷凍食品が得られる。
凍結の形からは、一定のサイズにまとめて凍結するブロック凍結と、個別のバラ凍結とがある。
[河野友美・山口米子]
野菜類で生産量の多いのはスイートコーン、カボチャ、フレンチフライドポテト、グリーンピース、ホウレンソウ、ミックスベジタブル(コーン、ニンジン、グリンピース)、インゲンマメ、枝豆などである。野菜は生のまま凍結すると褐変し、繊維が固くなる。そのため、あらかじめ蒸気または熱湯で軽く加熱処理をする。これをブランチングという。解凍は、凍ったまま急速にゆでる、炒(いた)める、煮る、揚げるなど加熱して行う。果物はイチゴ、ミカンがおもで、そのほかメロン、パイナップル、モモなどがある。また、加工されたフルーツカクテル、フルーツソース、果汁やピューレ、シロップ漬けなどもある。冷凍果実の用途はおもに業務用のミキサーでつくるジュースの原料で、そのほか菓子やアイスクリームの加工原料として用いられる。デザートとして利用する場合は半解凍程度で食べると口あたりがよい。
冷凍魚は原材料の処理形態から、ラウンド(まるごと)、セミドレス(えらと内臓を除去)、ドレス(頭、尾も除去)、フィレー(三枚おろし)、切り身、開き、むき身(貝、エビ)などがある。加工したパン粉つきや蒲(かば)焼き、酢じめ、練り製品などは冷凍調理食品に分類される。冷凍魚は日本での主要な冷凍食品で、遠洋漁業や養殖での鮮度保持、保存や輸送に大きな役割を果たしている。魚貝類の冷凍食品は保存中に変化してタンパク質の変性、脂肪の酸化などが生じやすい。とくに脂肪の酸化は風味を落としやすいので、包装をくふうしたり、グレーズ加工(グレージング)といって魚の表面全体に氷の層をつけることを行う。魚貝類の解凍は原則として自然解凍(冷蔵庫内などで緩慢解凍を行う)であるが、切り身やむき身など小形のものをゆでる、煮るなどの加熱調理をするときには凍ったまま用いる。マグロの刺身用の場合にはなるべく低温で自然解凍し、半解凍で切ってすぐ食べるようにする。解凍しすぎるとドリップが出たり、色調が変化する。
畜産物では流通用として枝肉が、また一般消費用にスライス、ひき肉などの形態がある。鳥肉では部位に分けたもの、凍結卵では割卵し、全卵、卵黄、卵白の3種の凍結品があり、主として製菓などの原料に用いられる。卵黄は凍結により変性するので、砂糖、食塩などを加える。肉類の解凍は原則として低温でゆっくりと自然解凍を行う。
冷凍調理食品は、1970年(昭和45)前後から急速に消費の伸びてきた食品で、70年代後半には全冷凍食品の70%を占め、94年以降は80%を超し、99年には83%を占めるに至った。冷凍調理食品では約半量がフライ類(エビフライ、魚フライ、コロッケ、カツなど)で、ついでシューマイ、ギョウザ、ハンバーグが上位を占める。そのほか中華まんじゅう、茶碗(ちゃわん)蒸し、蒲焼き、米飯類、麺(めん)類、パイ類と多種のものがある。冷凍調理食品は家庭での手間を省ける食品としてだけでなく、高級品、治療食のような特殊用途品など多目的のものが開発され、外食産業での利用も多い。解凍や利用法は各食品によって異なる。
[河野友美・山口米子]
冷凍食品は凍結することによって含有する水分が固定された状態になり、これが、微生物による腐敗のおこりにくい理由である。しかし、凍結は殺菌ではないので、凍結前に菌を少なくすることが重要である。この点については、食品衛生法の規格基準や都道府県の衛生指導基準によって規定されている。
冷凍食品の栄養価値は下処理での損失だけで、凍結処理および保存中の変化は比較的少ない。ただし、油脂に関しては保存中にも酸化が徐々に進行するので、この点は風味上も問題となる。品質の変化のなかで重要なのは風味や色沢、形態、食感などの要素である。
冷凍食品の品質は製造時の条件(材料、加工、包装)および、製造後の流通、貯蔵における条件(時間、温度)に左右される。すなわち、製造前の条件が整っていても、流通時のコールド・チェーンの条件や消費者に届いてからの扱い方で大きく品質が左右される。しかも、外観上、品質の判断基準が設定しにくいうえに、どの程度の品質変化を許容限度とするかが大きな問題となっている。
よい品質の冷凍食品を入手するために、一般消費者としては以下の点に注意する。
(1)購入時にはショーケースの保存温度が零下18℃以下(食品衛生法では零下15℃以下)であること
(2)ショーケースでの収納状況、すなわち積み荷限界線以下に収納しているかどうか
(3)よく凍っていて包装状態がよく、内部に霜の少ないこと
(4)表示内容
(5)購入後の扱い(保存温度、保存期間など)
また、風味の点では解凍法や調理法に注意する必要がある。
なお、冷凍魚として漁港にあげられた魚や冷凍肉でも、輸送、販売時に冷凍ケース内で行われないものは、鮮魚扱いとなり、冷凍食品としては扱わない決まりがある。
[河野友美・山口米子]
『野口敏著『冷凍食品を知る』(1997・丸善)』▽『河野友美編『新・食品事典9 加工食品・冷凍食品』(1999・真珠書院)』▽『日本冷凍食品協会監修『冷凍食品の事典』(2000・朝倉書店)』▽『比佐勤著『こんなこともあった 冷凍食品発展の側面史』(2000・冷凍食品新聞社)』▽『日本冷凍食品協会監修『冷凍食品入門』改訂増補版(2004・日本食糧新聞社)』▽『『冷凍食品物語 商品の変遷史』第3版(2004・冷凍食品新聞社)』
長期間の保存を目的として,凍結して貯蔵する食品。低温により微生物の生育を抑えて食品を貯蔵することを冷蔵というが,このうち-15℃以下で貯蔵するものを広義に冷凍食品といい,日本では,狭義には切身またはむき身にした鮮魚介類および食肉製品,鯨肉製品,魚肉練製品およびゆでダコ以外の加工食品で,かつ容器包装したものをいう(食品衛生法の規定)。
食品を低温で貯蔵することは,日本でもすでに江戸時代に将軍に献上する魚を,天然の氷を用いて輸送していた。しかし食品が一般に低温で貯蔵されるようになったのは,19世紀末のアンモニアを冷媒とした冷却装置の出現以降である。とくに家庭用冷蔵庫に-15℃以下が得られる冷凍室が普及してから,その生産が大幅に伸びた。日本では,冷凍食品の生産量は1960年にはわずか5000tであったが,95年には140万tに増加している。
食品を凍結するには,空気凍結法,エアブラスト凍結法,コンタクト凍結法,液体窒素凍結法がある。空気凍結法は,-20~-25℃の低温室内に食品を置いて凍結する方法で,構造が簡単で安価であるが,凍結に時間がかかり品質の劣化を招きやすい。エアブラスト凍結法は,-30~-40℃の冷気を食品に吹きつけて凍結する方法で,現在,日本で最も広く普及している。凍結に要する時間が短いので品質を損なうおそれが少ないが,製品が乾燥しやすい。冷気の代りに炭酸ガスを用いると,さらに品質の安定化がはかれる。コンタクト凍結法は,冷却した鉄板の間に食品をはさんで凍結する方法で,装置が小型であるので船上に設置して魚の凍結に広く用いられている。液体窒素凍結法は,-196℃の液体窒素を食品に吹きつけて凍結するもので,きわめて短時間に凍結できる。
魚類は油の酸化を防止するために,凍結前に酸化防止剤(ジブチルヒドロキシトルエン(BHT),またはブチルヒドロキシアニソール(BHA))の溶液に浸漬(しんし)することもある。野菜類はブランチングといって,熱湯あるいは蒸気で1~10分間加熱し,酸化酵素を失活させ,貯蔵中の褐変を防ぐ。魚類はグレージングといって,凍結後に氷を製品に付着させ,ブロック状に固めたり,プラスチックフィルムを魚体に密着させたりして,表面の酸化を防ぐことが行われる。
冷凍食品は冷蔵庫で貯蔵される。冷蔵庫にはF級(-20℃以下),C1級(-15~-20℃),C2級(-2~-10℃),C3級(10~-2℃)があり,F級およびC1級のものをとくに冷凍庫という。狭義の冷凍食品は,F級あるいはC1級倉庫に貯蔵されるが,それ以外のものは食品の種類と貯蔵期間に応じて,他の級の倉庫に貯蔵される。
解凍には空気解凍,加熱解凍,冷水解凍,コンタクト解凍,マイクロウェーブ解凍などの方法がある。空気解凍は冷気の送風により,冷水解凍は冷水中に漬けることにより,コンタクト解凍は鉄板ではさんで解凍するが,これらは解凍に時間がかかり,生鮮食品では組織の破壊による物性の劣化を招き食味が低下する。マイクロウェーブ解凍は,電子レンジの原理で食品を中から短時間で解凍するのでこの欠点はないが,コストが高い。
大別して原料をそのまま凍結した素材品と,加熱さえすればそのまま食卓に出せる調理済み食品とがある。前者にはタラ,サケ,マス,アジ,サバ,イカ,タコ,貝類,エビ,カニ,クジラなどの水産食品,イチゴ,ミカン,グリーンアスパラガス,ホウレンソウ,グリーンピース,ソラマメ,枝豆,トウモロコシ,ミックス野菜などの農産食品,牛肉,豚肉,鶏肉などの畜産食品がある。後者にはハンバーグ,コロッケ,シューマイ,茶わん蒸し,蒲焼などがある。
食品中の水分は-5℃から-10℃の範囲で凍結して氷晶となる。凍結の際に,この温度に長時間置かれると,食品中の氷晶は大きく成長し,食品の組織が破壊される。肉などでは組織が破壊されると解凍時にドリップと称し,細胞内液が流出し,呈味成分の損失と食感を損なう。凍結にあたってはできるだけ急速にこの温度帯を通過することが必要である。凍結保存中は,微生物による変敗は生じないが,化学的変化は徐々にではあるが進行する。とくに脂質の酸化が進行し,これが冷凍食品の最大貯蔵可能期間を決定する。冷凍食品の色彩が生鮮品と比べて悪いのも,色素が酸化退色するためである。栄養素の中ではビタミンが変化を受けやすいが,凍結あるいは貯蔵中よりも解凍時の変化のほうが大きい。その他の栄養素にはほとんど変化はない。
執筆者:田島 真
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