翻訳|cleavage
多細胞動物の受精卵が行うやつぎばやの細胞分裂の過程。受精の結果として生ずる受精卵は1個の巨大細胞であり,これがひたすらDNA合成と細胞分裂を繰り返すことによって,多数の正常な大きさの細胞を生じ,個体発生の基本となる多細胞環境を短時間のうちにつくりだす。
卵の細胞質には,あらかじめ卵割期およびその後の形態形成の過程を維持するためのエネルギーや情報が大量に蓄えられており,新たな細胞質の合成は卵割期を通じてほとんど行われない。このため卵の細胞質は,卵割の過程を通じてそのまま多数の割球blastomere(卵割の結果として生じた細胞をとくにこう呼ぶ)に分配される。したがって卵細胞質に不均一がある場合には,さまざまに異なる細胞質環境をもった細胞が生ずることになる。例えばシロボヤの卵においては,精子の侵入とともに激しい細胞質の移動が起こり,外見的に識別可能な五つの部域が生じる。そしてこれらの部域からは,将来それぞれ表皮,神経と脊索,消化管,間充織と筋肉といった一定の器官が発生してくる。またカエルや昆虫などの生殖細胞は,卵の植物極に位置する特別な細胞質を受け継いだ結果として分化してくることが明らかにされている。
卵の貯蔵物質の中で,しばしば大きな顆粒(かりゆう)の形をとり,量的にも多い卵黄は,卵割のパターンに影響を与える。卵黄の量が比較的少ないウニや哺乳類などの卵は,通常の細胞分裂と同じように,完全に2個ずつの割球に分裂する全割を行うが,魚類や鳥類のように卵黄の量がおびただしくなると,卵割は卵表面のごく限られた扁平な領域でのみ行われる盤割となる。この場合の卵割は,卵黄に接する部分の細胞質が完全には仕切られない部分割である。このほか昆虫では,中心部の多量の卵黄をさけ,卵表面の全域で表割を行う。
卵割のパターンには,このほか,後口動物の間で一般的に行われ,生じた割球が互いに放射相称的に配列する放射卵割と,先口動物の間に広くみられ,卵割ごとに娘割球(じようかつきゆう)が互いに約45度かたむいて配列するらせん卵割というのもある。後者はとくに卵のモザイク性(モザイク卵)と強く結びついた卵割法であるが,その機構はわかっていない。
受精卵からかぞえて何回目の分裂までを卵割とするかは,議論のあるところである。しかし胚の構成細胞がふつうの大きさにもどり,互いに特殊な細胞接着構造を発達させて上皮を構築するまでの胚は,多細胞体として十分に確立しているとは認めがたい。したがって構成細胞の上皮化を意味する胞胚形成の開始直前(このときの分裂回数は動物によって異なるが,一般的には7,8回)までを卵割期とするのが妥当と考えられる。
→発生
執筆者:団 まりな
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
多細胞動物の発生の初期に受精卵が分裂を繰り返して胞胚(ほうはい)になるまでの過程をいう。本質的には細胞分裂であるが、やや特殊な点があるのでとくに卵割とよび、生じた娘細胞(じょうさいぼう)は割球とよぶ。卵割では細胞体の成長がおこらぬまま、速やかに分裂が進行するので、胚全体の輪郭はほとんど変わらず、しだいに小さい割球になっていく。したがって核・細胞質比をみると、卵割期の初めにはきわめて低かったものが、胞胚期になると普通の体細胞の値になる。
動物の種類によって卵割の形式はさまざまであるが、卵の極性とある一定の関係をもって進行することが多い。普通、最初の卵割面は卵の主軸を通り、第二の卵割も主軸を通り第一の卵割面と直交する。第三の卵割面は前の二つの卵割面と直交する。このような卵割面の方向は細胞質内の分裂装置の配向によって決定されるのであるが、細胞質中に浮かんでいる分裂装置がどのようにして向きを決められているのかはわかっていない。こののちの割球の配列の仕方によって、放射卵割(ウニ)、螺旋卵割(らせんらんかつ)(腹足類)、左右相称卵割(ホヤ)などに分けられる。また一般に卵割溝の進行は、細胞質内に卵黄が偏在する部分では遅くなるので、卵に含まれる卵黄の量と分布は卵割の様式に影響を与える。たとえば、少量の卵黄が均等に分布する等黄卵では等割(ウニ卵など)、卵黄が卵の中心部に偏在している中黄卵では表割(昆虫卵など)、大量の卵黄が偏在している端黄卵では不等割(カエル卵など)または盤割(鳥類卵など)がみられる。
初め卵細胞質中に分布していた物質は、卵割が進行するにつれてそのまま割球の中にくぎられて分割される。卵細胞には動物極と植物極を結ぶ主軸に沿って、性質を異にする細胞質が勾配(こうばい)を形成しているので、卵割の結果、これが割球の性質の差となって配列されることとなる。したがって、卵割が進行するにつれて、各割球のもっている核は互いに等価であるのに、それが浸っている細胞質に差があるという状態になる。これは胚の将来の複雑さを生み出す最初の原因と考えられる。すなわち、核のもっている潜在的能力は、周りの細胞質環境によって、部分的かつ選択的に発揮されるようになり、これが割球細胞の性質の差として現れることとなるからである。
[木下清一郎]
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…しかしいずれにしても,それぞれ卵と精子に由来する二つの半数性の核が,卵の細胞質中で合体することによって,倍数性の核をもった受精卵が生ずるという点に違いはない。
[受精,卵割,胞胚形成]
卵巣から放出された卵は,水中,親の体上,体中など,種ごとに定められた環境で精子と遭遇して受精する(図1)。最初の1匹の精子によって受精した卵は,その表面からある種の物質を分泌して,みずからを特殊な膜(受精膜)で包むか,すでに備わっている膜を変成させるなどして,余分な精子が侵入できないようにするとともに,細菌の侵入や物理的な障害などからの安全をも確保する。…
※「卵割」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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