別火(読み)べつび

精選版 日本国語大辞典 「別火」の意味・読み・例文・類語

べつ‐び【別火】

〘名〙
歌舞伎吾嬬下五十三駅天日坊)(1854)序幕「唯今あれにて承はれば、別火(ベツビ)物忌に身を浄め手柄をなさんとお言やるが」
無縁仏などを葬る投げ込みのように共同でなく、ひとりずつ火葬にすること。
※歌舞伎・善悪両面児手柏(妲妃のお百)(1867)五幕返し「別火(ベツビ)の仏なら、近江屋のお使ひだね」

べっ‐か ‥クヮ【別火】

〘名〙 神饌の料とするもの、また、神事を行なう者、服喪にある者などが、他や自身の穢(けが)れを忌んで、煮炊きする火を他の人と別にすること。また、月経出産の穢れにある女が炊事家屋家族と別にすること。べつび。
親元日記‐寛正六年(1465)四月一三日「御産別火已後始て火同」

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デジタル大辞泉 「別火」の意味・読み・例文・類語

べっ‐か〔‐クワ〕【別火】

神職などが日常用いる火によるけがれを忌んで、神事・祭事に際して炊事の火を別にすること。また、服喪にある者などが穢れを他にうつさないように炊事の火を別にすること。べつび。

べつ‐び【別火】

べっか(別火)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「別火」の意味・わかりやすい解説

別火
べっか

食事炊飯のための火を別にすること、またその火、それをつかさどる職掌人のこと。古く火を清浄神聖視し、神に仕える者は穢(けが)れた火で炊飯されたものを避けたことに発する。神職・頭屋(とうや)が潔斎、斎戒中は家族と別火の食事をし、また出産時、月の障(さわ)りの婦人が同様別火の食事をする風習は広く行われてきた。また大社なかに、その神聖な火をつかさどることを職掌とし、別火とよばれる職掌人また氏(うじ)の置かれている例がある。

[鎌田純一]

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世界大百科事典(旧版)内の別火の言及

【月経】より

…一方で月経は出産や死などとともに,血の穢としてその間は忌に服さねばならなかった。月事の忌をヒノカカリといい,月事の者の煮炊きの火と,家族のための煮炊きの火を別火とせねばならなかった。そのためにタヤ,ヒマヤ,ツキゴヤ,ベツヤ,ヨゴラヤ,アサゴヤなどと呼ぶ共同の別小屋を部落内に設けて,月事の間はそこで暮らした。…

【産の忌】より

…出産があるとその家の火は穢れると考えられ,ヒガカカル,ヒガワルイなどといって,その火を避けねばならなかった。母屋と別棟の産(うぶ)小屋にこもるのは,産婦のための煮炊きの火を別にする別火(べつか)の生活をするためであった。ゲヤあるいはナンドなど一つ屋根の下に産室を設ける場合でも,産婦の煮炊きの火と母屋の家族の火は別にする習わしがあった。…

【式三番】より

… 《式三番》の奏演はそのままが祭りと考えられる。この祭りは別火に始まる。各役は一定の期間,神聖な火を用いて生活を送り,煮たきや暖房の火を家族と別にする。…

【分家】より

…一般にある家族に属する家族員が分離して新たな家族を創設する分家行為によって形成された家族をいう。しかしながら日本では家族員の分離のすべてを分家と呼んできたわけではないし,分家行為によらない分家の例もしばしばみられた。分家はまず単なる家族員の分離ではなく,新たな家族の形成が社会的に承認されなければならない。村落社会においてはとくにこれが重要であって,社会的承認を得るための村への挨拶など数々の手続がみられた。…

※「別火」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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