精選版 日本国語大辞典 「物忌」の意味・読み・例文・類語
もの‐いみ【物忌】
もの‐いまい ‥いまひ【物忌】
ぶっ‐き【物忌】
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神事ないし凶事の非常にあたって一定期間宗教的な禁忌を守り身を慎むこと。斎戒,諱忌とも書く。また,聖別の行為一般を指すところから特に聖別された神役の名ともなり,伊勢神宮をはじめ大社などでもっぱら禁忌を守り神事に仕える童女・童男をも指す。《日本書紀》に神武天皇がみずから斎忌(ものいみ)して諸神をまつったとあり,《常陸国風土記》に福慈(富士)の神が新穀の祭りに際して家中が諱忌していると語っている。古代法制では神祇令に,神事の前後の散斎(あらいみ)と当日の厳重な致斎(まいみ)とが定められ,散斎については弔問,病気見舞,肉食,刑罰,音楽,触穢(しよくえ)などが禁じられ,致斎には神事以外のいっさいを控えるとある。神事そのものが忌籠(いみごもり)であって,別火し沐浴(もくよく)していっさいの不浄を退け,徹夜して神に仕えるという物忌の形式をとる。その意味から,古く伊勢,春日,賀茂,鹿島,香取,平野,枚岡などの諸大社では特に〈物忌〉と称する1人ないし数人の童女(まれに童男)をおき,厳重な禁忌を課しておもに神饌や神楽を供する役などにあたらせた。伊勢では男児を〈物忌子(ものいみのこ)〉,女児を〈子良(こら)〉,その介護者を男性は〈物忌父〉,女性は〈母良(もら)/(おもら)〉と呼んだ。鹿島では亀卜(きぼく)によって童女の物忌を定めた。いずれも神近くに仕え神職の上位にあるところから,斎宮,斎王,斎院など女性祭主に通じるところがある。なお平安時代に陰陽道(おんみようどう)の影響をうけた貴族たちは凶事を恐れてしきりに物忌し,その間は門戸を閉じて忌み籠り,殿舎にすだれを垂れて〈物忌〉と記したヤナギ,シノブ,紙などの札をつけ,軽い場合は冠や髪にその札をつけて外出した。また祇園や賀茂の祭りに〈物忌〉の札を身につけたり門に張ったりしたが,これは〈物忌〉という名の鬼王がいて,この名札を見ると他の邪鬼が退散するという信仰があったからである。
→忌
執筆者:薗田 稔
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(1)潔斎(けっさい)・斎忌(さいき)とも。一定の期間,屋内に引きこもり,心身を清らかにして慎む行為。理念上,民間信仰や神道の物忌と,陰陽道(おんみょうどう)の知識による物忌の2種類に大別できる。前者は,祭に際して神を迎える前に,神職や頭屋(とうや)らによって行われるもので,家屋や籠屋(こもりや)に引きこもり,水垢離(みずごり)をとったり別火(べっか)の生活をする。後者は,陰陽道の神々が巡行する方角を回避するためになされたり,怪異の発生や悪夢の後に行われるもので,平安時代の公家の間できわめて盛んであった。この場合には,物忌当日は閉門をし,簾(みす)・冠・袖などに物忌札をつけて籠居(ろうきょ)することになっていた。(2)神事に仕える童女・童男の名称。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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…これらを総称して〈ものいみ〉・斎戒というが,これは一般に神聖性を対象化する意味にほかならない。古典の用語例をみると,〈いみ〉の場合,忌(斎)服屋(いみはたや),忌(斎)部(いむべ∥いみべ),斎食(いもひ∥いみひ),忌神(いみのかみ),斎戒・諱忌(ものいみ),忌(斎)火,忌柱(いみはしら),物忌(職掌名),事忌(こといみ)(忌言葉)など多く複合語としてほとんど神祇祭祀にかかわるもので,関連する事象がすべて非日常的に聖別されたものであることを示している。動詞形〈いむ〉の場合,夜の一つ火を忌む,笠蓑を着たり草束を背負って他人の家に入ることを諱む,生者を死人と見誤るのを悪む(以上〈神代紀〉),長雨を禁む(《万葉集》),斎こもる(《祝詞式》)など〈いむ〉を忌・斎ばかりか諱・悪・禁・畏などと表記しているが,これらは異常な事態を恐れ避ける傾向をうかがわせる。…
…その後,ポリネシアでタブーと呼ばれているものと類似の慣習が世界中に広く見られることが明らかとなり,タブーという語は今日では,欧米や日本でも日常語として用いられるに至っている。日本語ではふつう禁忌と訳され,日本語古来の忌(いみ),物忌(ものいみ)という言葉も類似の意味をもっている。 ポリネシア語においては,taは〈徴(しるし)づける〉,bu(もしくはpu)は〈強く〉を意味すると言われている。…
…鈴振り神子,湯立神子,神楽神子とも称される。これにもローカルタームがあって,宮中の神事に奉仕した御巫(みかんこ),伊勢神宮の斎宮(いつきのみや),賀茂神社の斎院またはアレオトメ,熱田神宮の惣の市(そうのいち),鹿島神宮の物忌(ものいみ),厳島神社の内侍(ないし),美保神社の市(いち)などが著名である。けれども現在では,本来の神がかり現象を示すものはほとんどみられない。…
※「物忌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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