デジタル大辞泉
「物忌」の意味・読み・例文・類語
もの‐いみ【物忌(み)】
[名](スル)
1 神事などのため、ある期間、飲食・言行などを慎み、沐浴をするなどして、心身のけがれを除くこと。潔斎。斎戒。
2 夢見の悪いときや、けがれに触れたとき、また、暦の凶日などに、家にこもるなどして身を慎むこと。
「いと恐ろしく占ひたる―により、京の内をさへ去りて慎むなり」〈源・浮舟〉
3 2のしるしとして柳の木札や忍ぶ草などに「物忌」と書いて冠や簾などに掛けたもの。平安時代に盛行した。物忌みの札。
「母屋の簾はみな下ろしわたして、―など書かせてつけたり」〈源・浮舟〉
4 伊勢神宮をはじめとして香取・鹿島・春日・賀茂などの大社に仕えた童男・童女。
「神主―等ばかり留りたりしに」〈神皇正統記・応神〉
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もの‐いみ【物忌】
- 〘 名詞 〙
- ① 神事や法会などに関係する者が、ある期間、酒肉、五辛などの飲食物や肉欲などを断ち、沐浴するなどして身心の穢(けが)れを除き去ること。潔斎。斎戒。
- [初出の実例]「天皇斎戒(モノイミ)したまはず」(出典:日本書紀(720)雄略七年七月(前田本訓))
- ② 夢見のわるい時や物の怪(け)につかれた時など、陰陽師の判断によって一定の期間、家または特定の建物にこもって謹慎すること。また、その他広く占いや暦が凶である時や、触穢(しょくえ)にある者などが籠居して身を慎むこと。
- [初出の実例]「『物いみし給ふべき夢を見つ』と聞え給へど、『内裏より召あり』とて急ぎ出で給ぬ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)忠こそ)
- ③ ②の時のしるしとして、柳の木の札、または忍草などに「物忌」と書いて冠、簾などにかけたもの。物忌の札。
- [初出の実例]「このものいみどもは、柱におしつけてなどみゆるこそ、ことしもをしからん身のやうなりけれ」(出典:蜻蛉日記(974頃)下)
- ④ 伊勢大神宮をはじめ、鹿島、香取、加茂、平野、松尾、春日、枚岡などの大社におかれて、神事にあずかった童男・童女。伊勢大神宮では、童女は子良(こら)とも称する。
- [初出の実例]「物忌男五人。女十六人。授レ位各有レ差」(出典:続日本紀‐天平勝宝五年(753)正月丁未)
- ⑤ ある現象をとらえて吉凶を占ったり、不吉なことばを忌んで、吉祥のことばに転嫁したりすること。縁起にとらわれること。
- [初出の実例]「武将の身として、夢見・物忌など余におめたり」(出典:保元物語(1220頃か)上)
もの‐いまい‥いまひ【物忌】
- 〘 名詞 〙 ( 「いまい」は、動詞「いまう(忌)」の連用形の名詞化 ) =ものいみ(物忌)
- [初出の実例]「いはふこのとをとはものいまひする心也」(出典:仙覚抄(1269)一四)
- 「少し世に云ものいまひの癖あれども」(出典:随筆・孔雀楼筆記(1768)二)
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物忌 (ものいみ)
神事ないし凶事の非常にあたって一定期間宗教的な禁忌を守り身を慎むこと。斎戒,諱忌とも書く。また,聖別の行為一般を指すところから特に聖別された神役の名ともなり,伊勢神宮をはじめ大社などでもっぱら禁忌を守り神事に仕える童女・童男をも指す。《日本書紀》に神武天皇がみずから斎忌(ものいみ)して諸神をまつったとあり,《常陸国風土記》に福慈(富士)の神が新穀の祭りに際して家中が諱忌していると語っている。古代法制では神祇令に,神事の前後の散斎(あらいみ)と当日の厳重な致斎(まいみ)とが定められ,散斎については弔問,病気見舞,肉食,刑罰,音楽,触穢(しよくえ)などが禁じられ,致斎には神事以外のいっさいを控えるとある。神事そのものが忌籠(いみごもり)であって,別火し沐浴(もくよく)していっさいの不浄を退け,徹夜して神に仕えるという物忌の形式をとる。その意味から,古く伊勢,春日,賀茂,鹿島,香取,平野,枚岡などの諸大社では特に〈物忌〉と称する1人ないし数人の童女(まれに童男)をおき,厳重な禁忌を課しておもに神饌や神楽を供する役などにあたらせた。伊勢では男児を〈物忌子(ものいみのこ)〉,女児を〈子良(こら)〉,その介護者を男性は〈物忌父〉,女性は〈母良(もら)/(おもら)〉と呼んだ。鹿島では亀卜(きぼく)によって童女の物忌を定めた。いずれも神近くに仕え神職の上位にあるところから,斎宮,斎王,斎院など女性祭主に通じるところがある。なお平安時代に陰陽道(おんみようどう)の影響をうけた貴族たちは凶事を恐れてしきりに物忌し,その間は門戸を閉じて忌み籠り,殿舎にすだれを垂れて〈物忌〉と記したヤナギ,シノブ,紙などの札をつけ,軽い場合は冠や髪にその札をつけて外出した。また祇園や賀茂の祭りに〈物忌〉の札を身につけたり門に張ったりしたが,これは〈物忌〉という名の鬼王がいて,この名札を見ると他の邪鬼が退散するという信仰があったからである。
→忌
執筆者:薗田 稔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
物忌【ものいみ】
忌とも。祭や凶事に際し身を慎み不浄を避けること。祭の物忌を斎戒といい,神祭の前に行う軽い物忌の散斎(あらいみ),当日の厳重な致斎(まいみ)の別がある。また伊勢,賀茂などの諸大社で神事にあずかる童女童男も物忌と称した。平安・鎌倉時代には方角,夢,日などを占い,方違(かたたがえ),夢違などの物忌を行った。特に天一神(なかがみ),太白神(ひとひめぐり)のいる方角を塞(ふさがり)といって避けた。
→関連項目忌日|禁忌(民俗)|精進|月待|夏越の祓|禊
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物忌
ものいみ
(1)潔斎(けっさい)・斎忌(さいき)とも。一定の期間,屋内に引きこもり,心身を清らかにして慎む行為。理念上,民間信仰や神道の物忌と,陰陽道(おんみょうどう)の知識による物忌の2種類に大別できる。前者は,祭に際して神を迎える前に,神職や頭屋(とうや)らによって行われるもので,家屋や籠屋(こもりや)に引きこもり,水垢離(みずごり)をとったり別火(べっか)の生活をする。後者は,陰陽道の神々が巡行する方角を回避するためになされたり,怪異の発生や悪夢の後に行われるもので,平安時代の公家の間できわめて盛んであった。この場合には,物忌当日は閉門をし,簾(みす)・冠・袖などに物忌札をつけて籠居(ろうきょ)することになっていた。(2)神事に仕える童女・童男の名称。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
物忌
ものいみ
祭りのため,あるいは災いから免れるため,一定期間食事や行動を慎み,不浄を避け,家内にこもることをいう。陰陽道 (おんようどう) の禁忌の一種。植物,動物,鉱物のなかから,神仏,死者,死霊との関係や形状,色彩などの連想によって忌むべきものが定められた。物忌の風習は平安時代の貴族の間で最も流行したが,陰陽道の衰退に伴い室町時代には一時衰退した。現在でも各地の社寺などで行われているところがある。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
物忌
ものいみ
陰陽道の禁忌の一種
暦の上の定まった日や,占って定められた日に,外出せず,他人が家に入ることも許さず,けがれを避けること。平安時代に盛んに行われたが,室町時代には衰えた。
出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
世界大百科事典(旧版)内の物忌の言及
【忌∥斎】より
…これらを総称して〈ものいみ〉・斎戒というが,これは一般に神聖性を対象化する意味にほかならない。古典の用語例をみると,〈いみ〉の場合,忌(斎)服屋(いみはたや),忌(斎)部(いむべ∥いみべ),斎食(いもひ∥いみひ),忌神(いみのかみ),斎戒・諱忌(ものいみ),忌(斎)火,忌柱(いみはしら),物忌(職掌名),事忌(こといみ)([忌言葉])など多く複合語としてほとんど神祇祭祀にかかわるもので,関連する事象がすべて非日常的に聖別されたものであることを示している。動詞形〈いむ〉の場合,夜の一つ火を忌む,笠蓑を着たり草束を背負って他人の家に入ることを諱む,生者を死人と見誤るのを悪む(以上〈神代紀〉),長雨を禁む(《万葉集》),斎こもる(《祝詞式》)など〈いむ〉を忌・斎ばかりか諱・悪・禁・畏などと表記しているが,これらは異常な事態を恐れ避ける傾向をうかがわせる。…
【タブー】より
…その後,ポリネシアでタブーと呼ばれているものと類似の慣習が世界中に広く見られることが明らかとなり,タブーという語は今日では,欧米や日本でも日常語として用いられるに至っている。日本語ではふつう禁忌と訳され,日本語古来の[忌](いみ),[物忌](ものいみ)という言葉も類似の意味をもっている。 ポリネシア語においては,taは〈徴(しるし)づける〉,bu(もしくはpu)は〈強く〉を意味すると言われている。…
【巫女∥神子】より
…鈴振り神子,湯立神子,神楽神子とも称される。これにもローカルタームがあって,宮中の神事に奉仕した御巫(みかんこ),伊勢神宮の斎宮(いつきのみや),賀茂神社の斎院またはアレオトメ,熱田神宮の惣の市(そうのいち),鹿島神宮の物忌(ものいみ),厳島神社の内侍(ないし),美保神社の市(いち)などが著名である。けれども現在では,本来の神がかり現象を示すものはほとんどみられない。…
※「物忌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」